宮部みゆき 『おまえさん』2011/09/24

「ぼんくら」同心・井筒平四郎の本が22日に出ました。うれしいことに文庫本と単行本が同時発売。もちろん安い文庫本の方を買いましたよ。


煮売屋のお徳の店の近くで亡骸が見つかります。どうも辻斬りに斬られたようでしたが、何故か亡骸の形の染みが消えません。気味悪がったお徳たちは念仏講までやる始末。
その後に、良く効く痒み止めの「王痒膏」を売り出していた瓶屋の主人、新兵衛が斬り殺されました。
平四郎は知り合ったばかりの若い同心の間島信之輔と一緒に調べに乗り出します。
信之輔には源右衛門という隠居した親戚の大叔父がおり、彼はこの2つの亡骸を見て、同じ者に殺されたと断言します。
この2つの亡骸にどんな因縁があったのか・・・?

今回は岡っ引き政五郎の息子のような、記憶力抜群のおでここと三太郎の過去が明らかになります。
前回まで平四郎を助けて謎を解いていた美男子、弓之助も、もちろん登場していますが、今回は、なんと、彼の三番目のお兄さんの淳三郎が、弓之助が心配だという理由をつけて弓之助について来ちゃいます。この人、ちゃっかりとした人当たりのいい人で、この軽さが事件解決に役立ちます。
この2人もいいのですが、しかし、今回は若い同心、新之輔が話の中心になっています。
彼はいかんせん、醜男なのです。その上、真面目を絵に描いたような人で、人の気持ちに疎いのです。若いっていいのですが、若さゆえの純粋さが人を傷つけることもあるし、傷つけられ易いのです。

この本にはなるほどと言いたくなるような、いい言葉が散りばめられています。

中間、小平次。
「おもんちゃんには、ぜいたくとおいしいが、まだ一緒なんだなぁ」
「ぜいたくとおいしいは違うの?」
「違うよう」

おいしいものは贅沢なものとは違いますよね。安くてもおいしいものは沢山あります。まだ若いおもんちゃんにはわからないのです。

弓之助。
「本音なんて、みんな幻でございますよ」
「心にあるうちは、これこそ本物の自分の気持ちだと思うのです。でも口に出しますと、途端に怪しくなります。本音だと信じたい思いだけが残って、意固地になります」

そうなんです。口に出した途端に、なんか思っていたのと違うなと思うことって多いです。違うと思っても言い張り、まずいことになることって、家族の間ではよくありませんか。

平四郎の細君。
「罪というものは、どんなに辛くても悲しくても一度きれいにしておかないと、雪のように自然に溶けて失くなることはないのだ」

これは細君のお父様の言葉です。細君の出番は少ないのですが、顔だけではなく、心もきれいな人で、才女で良妻だと思います。今回は弓之助の叔母だけあると平四郎に見直されています。

源右衛門。
「己の名前を書けるようになれば、己というものがはっきりする。己と、己以外のものを分かつことができる」「それこそが学問の第一歩じゃ。そこから全てが始まる」「励むほどに、人というものの胡乱さ、混沌の深さがわかってくる。同時に、人が学問という精密なものを生み出したのもまた、その胡乱さと深い混沌故ということもわかってくる」だから興趣が深い。道は遠い。

この爺様、おもしろいです。ボケているようでボケていない。今後の活躍を期待しますわ。

平四郎。
「若いってのは、面倒くせえや」

はい、平四郎らしい発言です。これでなくっちゃ。

宮部さんの本の中で、私が一番好きなシリーズです。

コメント

_ ごりごり ― 2011/10/21 00時51分10秒

三作目にして、この入り組み様。さすがと言うしかありません。作者の人間的進化がなせる業なのでしょう。生意気言ってすみません。

_ coco ― 2011/10/22 00時24分07秒

ごりごりさん、こんにちは。

二作目で終わりかと思ったのですが、続きますねぇ。
色々な出来事が組み合わさってどこに行くのかと思っていたら、
ちゃんとつじつまが合ってしまいましたね。

このシリーズ、続きそうです。
楽しみにしましょうね。

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_ だな通信 ミステリー文庫 - 2011/09/30 12時00分11秒


◆読んだ本◆
・書名:おまえさん
・著者:宮部みゆき
・定価:文庫 上838円 下838円
・出版社:講談社文庫
・発行日:2011/9/22



◆おすすめ度◆
・江戸時代ミステリー小説度:★★★★
・ユーニーク...