佐藤正午 『熟柿』2025/05/10



伯母の葬儀の後、大雨の中、帰途についた身重のかおりは、泥酔状態で眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねた。
車から下りて確かめずに運転を続けたため、轢き逃げの罪に問われ、栃木の刑務所で息子を産む。
警察官だっった夫は仕事を辞める。
二年半の矯正生活の後、再開した夫に離婚届を突きつけられた。
息子には会わせてもらえなかった。

しばらくしてかおりは友人にそそのかされ、息子会いたさのあまり、息子の幼稚園に行く。
もう少しで会えるという時に取り返しのつかない間違いを犯してしまう。

それからも息子に会いたいという思いがつのり、小学校の入学式に行くが、阻止されてしまう。

かおりは決心する。
息子のために自分は死んだ母となる。
そして、息子のために一億円の生命保険に入ると。

それからのかおりは、千葉県のスーパー銭湯から山梨県の石和温泉の旅館、岐阜県のパン工場、大阪府のパチンコ店、そして福岡県のホテルで働く。
息子への思いを胸に・・・。


久しぶりの佐藤正午さんです。
これといった展開はないけれど、罪を犯した女が息子への思いを捨て切れず、彷徨う様子が切なかったです。
人生は思いがけないことをきっかけに、よくも悪くもなるのです。
夫の狡さが嫌でした。
彼がかおりと一緒に人生をやり直そうとすれば、彼女はこれほど悩み苦しまなくてすんだのに。
それでも、未熟で不器用ながら一生懸命仕事をする彼女の姿を見てくれる人はいます。
それが救いです。
最後に光が見えましたが、どうなるのか。
ちゃんとチャンスを握って離さないで欲しいものです。

本のカバーが好みです。
「熟柿」とは「よく熟した柿」のことですが、「時機到来をじっと待つ」ことでもあります。
じっくりと小説を読みたい方向けの本です。


<今週のおやつ>


シズカ洋菓子店のNo.34 Spring Biscuits。
いつもよりも甘いような気がしましたが、私の味覚のせいかも。

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