アレグザンダー・マコール・スミス 『日曜哲学クラブ』2009/08/16

イザベル・ダルハウジーは《応用倫理学レヴュー》という雑誌の編集者です。
彼女は親の遺産で裕福な暮らしをしています。
親の代から雇っているグレースという家政婦が毎日やってくる大きな屋敷に一人で住み、家で仕事をし、好きな時にコンサートや画廊に行き、近くに住む姪のキャットに会い・・・なんともうらやましい暮らしです。
題名の『日曜哲学クラブ』は彼女が主宰しているのですが、一度も開かれたことがありません。
みんなで集まろうと声をかけると、いつも誰かが都合が悪いというらしいのです。
わかります。日曜日にわざわざ集まって哲学の話なんかしたい人、あまりいないでしょ。

エディンバラが舞台になっているので、行ったことのある私としましては、プリンセス・ストリートなどという文字を見ると、いろいろと思い出します。

ある晩、コンサートに行ったイザベルは、天井桟敷から人が落ちてくるのを見ます。
落ちてきたのは、投資会社に勤めていたハンサムなマークという若者でした。
ここで不思議なのは、何故イザベルが、マークの墜落事件に関わろうと思ったかということです。
イザベルは哲学者なので、こう理由を述べています。

「わたしたちはこの世のすべての人に対してモラル上の責務をおうことはできないわ。でも、なんらかの関係をもつに至った人たち、つまりわたしたちのモラル上の範疇に入ってきた人たちに対しては、責務があると思うの。隣人とか、わたしたちが日々付き合っている人がそれよ」

イザベルにとって、落ちている時に互いに見た、それだけでモラル上の責務が生じたというのです。
そういうものなのでしょうか?

そうそう、彼女の編集するジャーナルに送られてきた論文の中にも、おもしろいものがあります。真実を告げることに関する論文です。
ある夫婦に遺伝子的障害を持つ子が生まれました。
この特別な障害は父母両方がその遺伝子を保有していなければなりません。
しかし、父親は遺伝子の保有者ではありませんでした。
ということは、母親が浮気をしたということが考えられます。
真実を告げるべきかどうか・・・。

もっと身近なことでは、あなたの友人の彼氏が浮気をしていることがわかります。
さて、あなたは友人にそれを言いますか。

哲学って結構日常生活の中にあるんですね。
イザベルはこういう高尚な(?)ことを考えながら、マークの事件に首を突っ込んでいきます。
私にしたら、ただの詮索好きなおばさんに思えますがね。
最後にマークが天井桟敷から落ちた理由が明らかになります。
しかし、イザベルがしたことはどうなのでしょうか。
本当にモラルを哲学する必要はないのかしら?

結構面倒な哲学的思考が書いてあるので、読むのも面倒になるかもしれません。
私はブックカバーが気に入りました。
イザベルの家の庭に現れるキツネとスコットランドの国花のアザミがとても素敵です。
こういうブックカバーいいですね。