桐野夏生 『砂に埋もれる犬』2021/11/08

題名の『砂に埋もれる犬』はスペインの画家ゴヤの絵からきているそうです。
有名な「黒い絵」の中の一枚です。


スペイン語の題名はただの「El perro(犬)」。
実はこの絵は「聾者の家」の壁に描かれていたのを切り取り、キャンパスに保存したものです。もとの絵の犬の目線の先には大きな崖と2羽の鳥がいたそうです。
犬は砂に埋もれているのか、大きな岩の後ろにいるのか…。
かつては「流れに逆らう犬」とも呼ばれていたそうです。


12歳の小森優真は住居が定まらず、毎日の食事も満足に食べられず、母の亜紀からは疎んじられ、母の男たちからは虐待され、苦しまされてきました。
学校ではいじめられ、引越ししてからは母が手続きをしないため学校にも通っていません。
亜紀はいつも男に依存し、彼女が選ぶ男はみな暴力をふるい、亜紀に飽きると未練もなく彼女を捨てます。
それでも亜紀は働かず、次の男をさがし、子どものいる家には帰ろうとはせず、刹那的な生き方をしています。

そんなある日、空腹に堪えきれなくなった優真はいつも行くコンビニの店長の目加田に思い切って廃棄する弁当をもらえないかと頼みます。
優真のことを可哀想に思った目加田は人には言わないことを約束をし、弁当とおにぎりを渡します。

そんな頃に優真は母の亜紀が泊まりがけの仕事だと嘘を言って、恋人の北斗とラウンドワンで遊んでいるのを見つけます。
母親に激しい憎しみを感じる優真。

優真が親から虐待を受けているのではないかと疑惑を抱いていた目加田は、左目の下に青痣を作った優真が現れた時、躊躇せず警察に報せます。
優真は保護され、施設で暮らせるようになります。

それから一年が経ち、重度脳性麻痺の一人娘が亡くなり、目加田夫婦は優真を引き取り育てることにします。
暖かい寝床と食事、学校にも通えるというのに、優真の心は満たされません。
普通の家庭が手に入ったのに、学校では相変わらず友だちができないのです。
何か違う、欲しかったのはこんなものではなかった…。
いつしか同じクラスの女の子に対する憧れが捻れた欲望へと変わり、彼の出自を知り、見下す同級生に対する憎悪がつのり、彼のためだと言い説教する目加田に対する殺意が芽生えてきます。
そして…。

490ページが短く感じるほどで、すぐに読み終えました。

虐待の連鎖は止められるのでしょうか。
なかなか難しいと思います。
優真のような虐待を受けている子は、もちろん育ってきた家庭によって違いますが、私たちが当たり前だと思っていることを知らないことがあります。
例えばお店で物を取ったり人の家の敷地に入ったりすると犯罪になること、お風呂の入り方、身支度の仕方、食べ方、挨拶の仕方等の日常的なこと、人とのコミュニケーションの取り方 etc.。
思春期で、それでなくても自尊心の低い優真ですから、里親になった目加田・夫のように言われると、反発し、そういうことを言う目加田を恨みたくもなりますよね。(ちょっと疑問に思ったのは、こんなに簡単に里親になれるんでしょうか)
目加田夫婦は善人ですが、善人であるだけに困った人たちでもあります。
優真の持つ闇を軽く考え、自分たちの力でどうにかできるなんて思っていますもの。
いつ優真が爆発するのか、ビクビクしながら読み進んでいきました。
あっけない終わり方でがっかりする人もいるかもしれませんが、私は微かな光が見え、よかったと思います。
「わからない」からこそ互いに手探りをしながら、少しずつ信頼と愛情を育てていければ…と思えたからです。


我家の犬たちはおやつを探して奮闘しました。


弟も登場。


クンクン匂いを嗅いでいますが、なかなか見つけられないみたいです。


弟はすぐに飽きてしまい、カモシカを咥えていなくなってしまいました。
兄はいつまでもおやつを探しているので、ママはおやつが見つかるようにちょっとズルしました。
弟の使った後は唾液で濡れているのが気持ち悪いです(ゴメン)。

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