奥田英朗 『コメンテーター』 ― 2024/09/29
17年ぶりにトンデモ精神科医・伊良部が帰って来ました。
シリーズの四作目です。

「コメンテーター」
新型コロナウィルスが世界的に蔓延している。
中央テレビでドキュメンタリー番組に携わってきた畑山圭介は、突然、ワイドショーへの異動を命じられる。
敏腕プロデューサーの宮下に視聴率が伸びない原因を訊かれ、コメンテーターで負けているのではないかと、普段から思っていたことを圭介は答えた。
すると、圭介の母校、麻生学院大に医学部があるんだから、コメンテーターとして使えそうな美人女医を連れてこいと宮下に無茶ぶりされる。
困った圭介は大学時代の同級生で、大学の職員をしている男に連絡する。
元同級生は世田谷にある伊良部総合病院の息子で、大学の卒業生の精神科医を紹介してくれ、彼から女医を紹介してもらえといわれる。
しかし、困ったことに伊良部は自分がワイドショーに出るものだと思っている。
誤解を解こうとしても、伊良部は人の話を聞かない。
とうとう番組に出ることになる。
圭介は変な精神科医、伊良部が無事にコメンテーターを勤め上げることを祈るだけであった。
「ラジオ体操第2」
オフィス機器メーカーに勤務する福本克己は会社の軽自動車に乗り、県道X号線を走っていると、いつも後続車に煽られる。
煽られるたびに頭の中は復讐の妄想に占拠され、その後、過呼吸発作が起きる。
ある日、発作が一日に二回も起ったので、心配になった克己は病院に行った方がいいと思った。
その数日後、克己は会社が提携している伊良部総合病院に行くと、医師は克己の病の原因はアンガーマネージメントが出来ていないからで、行動療法をやってみようと言い出す。
「うっかり億万長者」
河合保彦は大学の経済学部を出て、業界最大手の生保会社に就職するが、仕事に馴染めず、退社し、職探しをするが、これはと思える会社がないため、株を始めてみた。そうすると、最初は損をしていたが、コツを覚えると、あれよあれよといううちに、二年で資産十億円を稼いでしまう。
ある日、近所の公園で弁当を食べていると、大型の洋犬に指を囓られる。
大した傷ではないと断ったのにもかかわらず、車に乗せられてしまい、午後の取引ができなくなり、パニックになった保彦は気を失う。
気づくと、伊良部総合病院の中で、犬の飼い主は医師であるらしき息子に、パニック障害のようなので、診るように指示していなくなる。
保彦がデイトレーディングをしているということを聞き、伊良部は今回の失神はそこから来ていて、株式市況を見ていないとパニックに陥るのではないかと指摘し、治療に通うように言う。
時間的に無理なので、往診はしないのかと訊くと、往診は一回十万円、ナース付きだと十五万円だそうだ。
往診をお願いすると、伊良部はいくら儲けているのかと訊いてくる。
素直に額を言うと、伊良部だけではなく、看護師のマユミまでもが友だちになろうとすり寄ってくる。
翌日、往診に来た伊良部とマユミは治療だといい、好き勝手に振る舞う。
「ピアノ・レッスン」
二十七歳のピアニスト、藤原友香は列車などの閉ざされた空間が怖い。その上、この頃は音楽ホールで座っていると、お腹が鳴り出すので困っていた。
このことを事務所の社長に相談すると、クラシック演奏会の後援をしている伊良部財団に問い合わせてくれ、伊良部総合病院の精神科を紹介される。
伊良部は、友香は典型的な広場恐怖症で、責任感の強さが心の病の大敵。芸術家なんだからもっと我儘でいいという。
伊良部はとりあえず行動療法としてヘリコプターに乗ってみようと言い出す。
「パレード」
二十歳の北野裕也は都内で一人暮らしをする大学三年生だ。
入学に合わせて上京したが、新型コロナウィルスが猛威を振るう最中で、大学の授業はすべてリモートになり、新しい友人は出来なかった。
二年生から少しずつ対面授業が増えてきたが、何故か裕也は気の合う者同士のグループに入れなかった。
三年になって、授業で教授から指されたとき、突然頭に血が上り、顔が真っ赤になって一言もしゃべれなくなる。その後も似たような症状が起る。
ゼミのフィールドワークに参加しなければならないのに、裕也は最初の顔合わせで失敗してしまう。
このままでは引き籠もりになり、大学を辞めることになる。
そう思った裕也は思い切って伊良部総合病院の神経科に行く。
伊良部は、裕也は社交不安障害で、社交不安障害は十代で発症して、二十五歳くらいまでには収まるから、動物を見倣って楽に生きようとアドバイスするが、裕也は納得がいかない。
そのため伊良部は行動療法のプログラムを組むから、しばらく通院するようにいう。
次の日、診察に行くと、伊良部はマサルという少年とゲームをしていて無視される。
ゲームが終わってから、マサルと一緒にグループ・セッションをやると言われ、老人ホームに連れて行かれる。
伊良部医師、相変わらずで、お変わりありません。
でもなんかキモさが落ち着いてきたというか、前はもっとハチャメチャだったような気がするのですが…。
意外と診断がまともなんですよ。まあ、その後の行動療法などというのが、とんでもないんですけどねwww。
患者さんは伊良部の自由奔放な行為に呆れつつも影響され、いつのまにか病気が治ってしまいます。
伊良部医師、意外に名医だったのね。
看護師のマユミのことは覚えていませんでしたが、キャラがいいですね。
次は是非間があかないうちに書いてもらい、マユミをもっと使って欲しいです。
精神科医・伊良部シリーズの順番を載せておきます。
①『イン・ザ・プール』(2002年5月)
②『空中ブランコ』(2004年4月)
③『町長選挙』(2006年4月)
④『コメンテーター』(2023年5月)
<今週のおやつ>

私の好きなシズカ洋菓子店自然菓子研究所のクッキーです。
左上からほうじ茶、全粒粉、フィグ、左下からカシスジャム、ダブルカカオ、くるみメープルです。
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