南杏子 『アルツ村』2023/02/24



ある日の夜、札幌に住む元看護師の三宅明日香は夫の卓也の暴力から逃れるために、娘のリサを連れて家から逃げ出す。
車を走らせ、士別剣淵インターチェンジで高速を下りたところ、あおり運転の標的になり、その車から逃げようとして車を路肩の岩塊に乗り上げてしまう。
運転している男たちに捕まらないように山奥へ逃げていくうちに崖から落ちてしまう。

気づくと明日香とリサは田畑修造と初子夫妻の家の座敷に寝せられていた。
修造は認知症を患っていて、明日香を孫の夏美だと思っている。
行き場のない明日香は夏美を装い、しばらく彼らの家に滞在することにする。

家には毎日センターからバンショウさんと呼ばれている男たちがやって来て、食料や日用品を置いていく。
その男たちに見つからないようにしながら、明日香は久しぶりに修造の家で平穏な生活を送っていたが、林という医師に見つかってしまう。
しかし林は何故か明日香に村にとどまる資格があると言い、明日香は修造の家にいられることになる。

しばらくして明日香は村で出会う高齢の村人たちのほぼ全員が認知症のように見えることに気づく。
一体この村はどこにあり、住民はどこから来ているのか。そして村の目的は?
明日香は秘かに村のことを調べ、村から出ていく準備を始める。

せっかくDV夫から逃れて来たのにゆっくりしないで、なんで急いで村から抜け出そうとするのか不思議でした。
それになんか行動がちぐはぐで変だなと思っていたら、種明かしされると納得できました。

認知症を患っている人にとっては、この村は天国みたいなものです。
これからも高齢化がどんどん進み、益々認知症を患う人が増えていくと、どうなるのでしょう。
家族で介護することには限界があります。
このアルツ村は一つの解決法のように思えました。

亡くなった後に脳を取り出すことが悪いことのように書いてありましたが、私はそうは思いません。
本に書いてあるように、「病理解剖できちんと調べなければ、アルツハイマー型認知症と診断できない」し、「多くの症例データが集まれば、やがて脳の画像だけで病理解剖によって得られるレベルの診断がつくように」なるので、「解剖による正確な診断と標本の確保が必要」なのです。
ちゃんと家族にその必要性を話し、承諾をもらえばいいのではないでしょうか。
死後の献体が一般的ではない日本では難しいでしょうが。

認知症に関して警鐘を鳴らすという意味ではいい本だと思います。
しかしミステリー仕立てなのに最後がなんかすっきりしなくて、その点ではお粗末としか言えず、残念でした。

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