砥上裕將 『線は、僕を描く』2019/12/24

年末に思ってもみなかった、いい本に出合いました。


両親を交通事故で失い、叔父の家に引き取られた青山霜介は、失意の中、引きこもりのような生活をしていました。
困った叔父たちにお金の心配はないからと、付属の大学への進学を進められ、一人暮らしを始めます。
大学でそんな霜介にも友人ができ、その友人から頼まれたバイト先で彼の運命を変える人物と出会います。
水墨画の巨匠、篠田湖山に気に入られ、内弟子にされてしまったのです。
特に嫌ではなかったので、流されるまま水墨画をやり始めた霜介でしたが、やがて水墨画の世界に魅了されていき、それと共に自分を取り戻していきます。

水墨画はたまに見るぐらいでよく知らないのですが、この本を読むと、なんとも魅力的な世界です。
油絵とは違い、やり直しがきかないということが自分と真摯に向き合うことになるのでしょうか。

「水墨画とは何か、ということを究極的に突き詰めれば、それはとまるところ『線の芸術』です」
「いきているその瞬間を描くことこそが、水墨画の本質なのだ」
「人は描くことで生命に触れることができるのだ」

孤独な魂が癒やされ、外の世界に開いていく様子が綿密に描かれた作品です。
砥上さんは水墨画家でもあるそうです。

今年一押しの本です。