帚木蓬生 『インターセックス』2008/09/24

帚木蓬生は東大を出た後に医大に入り、医師になった人です。
彼の本は『閉鎖病棟』を読んでいます。
『閉鎖病棟』では精神科を取り上げ、今度は「インターセックス」です。
「インターセックス」とは、「男女どちらでもない性器官をもっていること」。半陰陽とも呼ばれています。
この本では性差医療も取り上げており、前半部分にはいろいろと考えさせられる部分が多かったです。

例えば、女性の心臓は男性よりも小さいのに、薬の量はすべて男性の心臓を規準にして考えられているとか、男女の心電図の波形は違う。
思春期以降、不整脈と頻脈が女性には見られる。
それは女性ホルモンが影響していると考えられ、不整脈の治療中に突然死する割合は女性に多い。
血圧、脂肪、糖尿病も女性の方が男性よりも気をつけなければならない。(不整脈持ちの私はドキッとしました)
このような男女差を考えるのが、性差医療なのです。
これからの医療にはこういう観点から患者をみていくということがもっと必要になってくるでしょう。

本に話を戻すと、医療における問題点や性差、ジェンダー(社会的・文化的な性のありよう)とはなんぞやなどを考えるにはいいでしょうが、ミステリーとして読むと、後半部に不満が残ります。
彼の人間性なのでしょうね。

主人公の秋野翔子は若い才色兼備の泌尿婦人科医で、性差医療とインターセックスの権威です。
研修医時代に産婦人科で指導を受けた先輩医師、高木が手術中に妊婦が死亡したために逮捕されたことを聞きます。
妊婦は前置胎盤かつ着胎盤というリスクを伴う病態でした。
彼の裁判を傍聴に行った時に、岸川というサンシャイン・ビーチ病院院長と知り合います。
サンシャイン・ビーチ病院は浜辺に建つ、豪華な施設と最新の生殖医療や移植医療で有名な病院です。
岸川は翔子をサンシャイン・ビーチ病院にヘッドハンティングします。
翔子はインターセックスに対し独自の思想を持っています。
今まではインターセックスの赤ちゃんが生まれたとき、医師は親にどちらの性を取るのか迫ります。
そして、その性に基づいた手術を施します。
その手術のために、インターセックスである子は身心共に深く傷つくのです。
翔子は性を親が選ぶべきではないといいます。
子が大きくなってから、自分で選ばせるべきであると言うのです。
そして、男女という性を越え、色々な性があってもいいのではないかと言うのです。
性を越え人間として個をとらえようと言っているのです。

サンシャイン・ビーチ病院に勤め始めてから、マンションの隣に住んでいた舞台女優の友達が突然死をした場所がこの病院の隣にあるホテルであり、彼女以外にも同じ頃、不審な死に方をした人たちがいることがわかってきます。
ビーチで溺れた女優や脚立から落ちて死んだ庭師兼運転手、運転中に崖から落ちて死んだファーム長など…。
翔子は病理部長、峯の助けを借り、真相に迫っていきます。

最後などに納得いかないな~と思うでしょう。
なんであなた、モンスターからいい人になっちゃうの、なんてね。
でも、前半部が読みごたえあったので、まあいいかという感じです。
「エンブリオ」の続編みたいなものらしいので、そっちも読んでみようと思います。

しつこいですが、くれぐれもミステリーとして期待しないで読んでくださいね、笑。

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