一色さゆり 『カンヴァスの恋人たち』2023/05/22



学芸員の貴山史絵は、以前は都内の美術館に勤めていたが、契約が切れたため、今は碧波市にある白石美術館に非常勤職員として勤めている。
白石美術館は「女性が輝く社会をつくる」が理念の、コスメブランドを展開し、健康食品なども販売している白石グループが運営している。

ある日、史絵はシングルマザーで学芸課の課長の楠木美和子から80歳の女性画家、ヨシダカオルの展覧会を担当してほしいと言われる。
ヨシダは美術業界から一線を退いたあと、山奥のアトリエでひとり絵を描き続けていた。

その頃、史絵は恋人の天野雄介との将来に悩んでいた。
彼は常勤の学芸員として都内の東京西洋美術館で働いており、いつも史絵が彼に会いに東京まで行っていた。
この前会った時に、世田谷のシブヤ美術館で学芸員の募集があることを教えてくれたが、それは五年契約で契約更新はない非常勤職員の口だった。
雄介は五年もあれば都内のどこかで常勤の募集が出るし、史絵ぐらい優秀だったら引き抜きだってありうるかもしれないと無責任なことを言う。
その上、史絵が東京に戻ってくれば、結婚も出来ると言う。
史絵が白石美術館で働き続け、週末婚をするなどという考えはないようだ。
そんな頃、子宮内膜症が見つかる。
史絵は結婚するか、子どもをどうするかで悩む。

仕事のためヨシダに会いに行き、交流するうちに、だんだんと史絵はヨシダの不思議な魅力と、ひとり筆を握り続ける生き方に魅了されていく。

ヨシダは戦後の女性画家として名をはせたにもかかわらず、なぜ表舞台から消えてしまったのか。
再び絵を描き始めるまでの空白の10年間に何があったのか。
不思議に思う史絵にヨシダが語ったことは…。

史絵はヨシダと会い続けるうちに、こう思うようになります。

「今こそ、彼女の作品に救われる人がいるんじゃないか。少なくとも自分は救われた。病気がわかって、いろんな制約が生まれて、いったい誰のための身体なのだろうと考えることが増えた。ヨシダと話すと、自分は自分なんだ、自分のために生きればいいのだ、と勇気づけられる。結婚とか出産とか、そんな外枠でがんじがらめになり、本来の心が見えなくなっていた自分に、今のままでいいのだと、ヨシダの絵は教えてくれる。ただ純粋に、誰かを好きだから、誰かが大切だから、一緒にいたいと思ってもいいのだ、と」

まだまだ女性が生きにくい世の中ですが、一色さんが書いているように、「あなたのままで大丈夫」だと言われると、心が軽くなりますよね。

20~30代の女性に読んでもらいたい本です。

コメント

_ ろき ― 2023/05/23 05時23分55秒

子宮内膜症ってめちゃ痛くて大変な病気なんですよね。コロナで手術を後回しにされて苦しむイギリス女性たちの記事を先日読みました。

>五年もあれば都内のどこかで常勤の募集が
男性って楽観的な(=見通しが甘い)人の割合が高いような…笑。

特に若い女性、今の3倍くらいわがままになっても全然平気なんだから、やっちまいなさい、と思うわ。

_ coco ― 2023/05/23 11時38分03秒

ろきさん、本の中にも傷みに耐えている場面が書かれていました。
コロナって沢山の人たちに影響を与えていたのですね。もう二度と同じようなことが起って欲しくないです。

史絵さんは母からの女の子らしくあれという呪縛やら、同僚の男からのやっかみやら、他にも色々と大変な思いをしています。

>やっちまいなさい
「大丈夫」に続く励ましの言葉ですねww。

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