一色さゆり 『音のない理髪店』2024/12/04



五森つばめは三年前に恋愛小説系の新人賞をとった。
しかし、デビュー作以来、二作目を書けずにいた。
小中学生を対象にした学習塾の講師をして食いつないでいた。
そんな頃、老舗出版社の駒形という編集者から、デビュー作の感想を添えて、会いたいというメールが届く。
駒形に会いに行ったつばめが今までのプロットを含めた資料を渡すと、駒形は最後の方にあった耳の聞えない両親を持つ男の子の話に目を止めた。

実はつばめの祖父母はろう者で、父親がコーダ(チルドレン・オブ・デフ・アダルトの略称で、ろう者に育てられた聞える子ども)だった。
祖父母は徳島に住んでいたが、祖父は交通事故でなくなり、祖母は徳島市内の介護施設にいる。
祖父は日本の聾学校ではじめてできた理髪科を卒業した一期生で、自分の店を持った最初の人だった。

駒形に祖父のことを書いてはどうかと勧められ、つばめは書いてみることにする。
つばめはろうの祖母、コーダの父と伯母、その他祖父と関わりあった人たちへの取材を始める。
取材をしていくうちに、何故祖父はあれほどの信念を得られたのか、つばめは知りたいと強く思うようになる。

今まで一色さんは芸術に関する小説を書いていましたが、今回はまったく違うジャンルのことを書いています。
不思議に思っていると、朝日新聞(2024年11月6日版)に「小説に登場する耳の聞えない理容師のモデルは、実際に徳島県に住んでいた一色さんの祖父」だと書いてありました。
なるほど、読んでいくと、つばめと一色さんが重なりあいました。

コーダについてはデフ・ヴォイス・シリーズを読んでいたので知っていました。
デフ・ボイス・シリーズはミステリなので、現在のろう者が置かれている状況が多く書かれていますが、この本では主にろう者たちの辿ってきた戦前と戦中、戦後のことが書かれています。
本の中の名もなき路地裏の阿波踊りを踊る場面のような社会が早く来て欲しいと思います。

是非、中学生以上の子どもたちに読んでもらいたい本です。