「譜めくりの女」を観る2009/06/23

全くわからないのが主人公の気持ちです。

ピアニストを目指していた女の子、メラニーが、コンセルバトワールの試験中に、演奏している彼女の前で写真にサインをしている人気ピアニストに腹を立て、演奏を止めてしまいます。
そして、試験に落ちたのを、そのピアニストのせいにして、復讐を企てるのです。
試験中なら、何があっても演奏を止めないというのが普通ではないですか?
それなのに、そうした自分に腹を立てるんじゃなくて、ピアニストを恨むんですよ。

この映画の監督は日本に半年間滞在したことがあり、この映画を撮る時に、二人の主役女性に「日本人のように演じてくれ」と言い、間を作り出し、動作をゆっくりするようにとの指示を与えたそうです。
そういえば、フランス映画にありがちな、会話は少ないですね。
顔の表情から、この人はどういう気持ちなんだろうと、見る側が想像するしかない場面が多いです。
そのために恐ろしさが倍になっているかもしれません。

どういう風に復讐をするのかは、映画を観ていくうちに、明らかになっていきます。
でもね、最後まで、どう考えても、ピアニストがそんなに悪いことをしたとは思えないんですが・・・。

デイヴィッド・ブロッツ 『ノーベル賞受賞者の精子バンク 天才の遺伝子は天才を生んだか』2009/06/24

なんとも意味深な題ですが、女性脳科学者の話から、ちょっと遺伝子に興味を持ったので、読んでみました。

1980年、割れないメガネレンズで財を成した大富豪ロバート・グラハムがカリフォルニアに精子バンク「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」を創設しました。
何故、グラハムが精子バンクを作ろうと思ったのでしょうか。
簡単に言うと、彼は優性学的観点から、優秀な遺伝子を世に残そうと思ったのです。
一番優秀な男は誰か?
それはノーベル賞受賞者!
ノーベル賞受賞者に手紙を出すのですが、相手にされませんでした。
それでどうしたかというと、グラハムが価値があると思った男性(例えば大学教授、SATで最高得点を取った人、ノーベル受賞者の息子、もと神童など・・・)に精子提供を頼んだのです。
看板に偽りアリ。
ノーベル賞受賞者の精子バンクと言っているのにね。
まあ、精子バンクなんて、こんなもんですかね。
本当にノーベル賞受賞者の精子かどうかなんて、実際わかりっこないんですから。
それよりも、自分の精子で妊娠させられないとわかった男性の方がかわいそうですよね。
自分の代わりにノーベル賞受賞者の精子を使ったと思うだけで、自尊心が傷つけられるような気がします。

著者のデイヴィッド・プロッツは、インターネットでこの精子バンクを利用した人に呼びかけます。
217人の子どもが生まれたはずですが、30人しか名乗りでてきませんでした。
名乗り出た大部分が母子家庭でした。
そのうち、同じ精子を使用した兄弟だとわかった子たちもいます。
名も知らない父親(精子提供者)に会いたいと思っている子もいました。
プロッツは精子提供者も探します。
何人か見つかるのですが、特に2人の両極端の性格の男性について詳しく書いてあります。
一人は当時ただの医学生で、IQ160と偽っていた男でした。
彼は何人も子どもを作っており、明らかにその子ども達になんら愛着を持っていない男性です。
もう一人は、科学者で、妻との間に子どもができなかった、愛情豊かな男性です。
この2人はそれぞれ子どもと会うのですが、悲喜こもごもでした。

さて、一番興味のある、ノーベル賞受賞者バンクから生まれた子たちはどうだったのでしょう。
結論を言っちゃえば、「全体的には平均以上だけれど、個人差がある」のだそうです。
失敗者もいれば、成功者もいる。
ある程度の素質を持っていれば、育て方によってどうにでもなるということですかね。

現在、アメリカでは精子は人気ごとに異なる値段がつけられているそうです。
ランキング上位にはスーパーモデル、(TV、新聞、雑誌や、ホームページなどで活躍する)モデル、成功を収めた商人、優秀な医者や弁護士や数学者等の専門家、スーパーハッカーなどの精子が入っているそうで、人間の欲望には限度がないですね。
ただ子どもができればいいというだけじゃ駄目なんですから。
今話題の臓器移植もそうですが、どこまでが人間の踏み込んでいい領域で、どこからが神の領域かの区別が難しいですね。

サイモン ・ベケット 『法人類学者 デイヴィッド・ハンター』2009/06/26

昨夜は焼肉屋、今夜は居酒屋と、同僚と飲み歩いていました。
それでいい気分になり、帰ってテレビをつけると、なんとマイケル・ジャクソンが自宅で急死したそうです。
悲しいことですが、彼の奇行が目立つこの頃でしたから、仕方なかったのかもしれませんね。

さて、本の話ですが、妻と子どもが事故で亡くなり、その悲しみから逃れるために、イギリスの片田舎のマナムという村にやってきて、村の診療所の医師になったデイヴィッドの話です。
彼のロンドンでの仕事は、法人類学(死体を発見現場の状況も含めて検分し、身元や死にいたった状況を推測する)、すなわち科学捜査のエキスパートだったのですが、秘密にしていました。
しかしある日、村で死体が見つかります。
そのことがきっかけになり、彼の昔の仕事が警察に知られるところとなり、死体の身元確認を助けることになります。彼女を見つけるためにデイヴィッドはどうするのか・・・。

平和な村に事件が起こり、そのためによそ者であるデイヴィッドが犯人だと疑われたりと、閉鎖的な村の様子が恐ろしくなります。
でも、どの人間社会にでも起こりうることでしょうね。
こんな本を読むと、田舎には住めないなと思ってしまいます。
まあ、殺人事件の起こる田舎はそんなにないでしょうが。

法人類学の方はそれほど詳しく書いてないし、殺し方もそれほど気持ち悪くなりませんので、ご心配なく。
一作目は可もなく不可もなくなので、二作目のロンドンに戻ったデイヴィッドの次なる事件が楽しみです。

Grazia編集部 『ニッポン・ビューティ 本物の女たちの美しい生き方』2009/06/28

題名だけを見ると、な~んだ美容のお話ねと思うかもしれませんが、違うんです。
この本には20人の「美しい」女性がいるんです。それも80歳、90歳の。
見かけだけの美しさをいうなら、10代、20代の女の子の方が、そりゃあ美しいでしょう。
でも、内面の美しさをいうならば、無垢の美しさもありますが、年輪を重ねた美しさというものの方に軍配があがるんではないでしょうか。
瀬戸内寂聴(作家)、三木睦子(元総理大臣、三木武夫夫人で三木武夫記念館館長)、高野悦子(岩波ホール総支配人)、佐藤初女(『森のイスキア』主宰)、黒柳徹子(女優)、森英恵(デザイナー)、田辺聖子(作家)などがインタビューに答えています。
彼女達の時代は、女性が社会進出をするなどということが、今ほど簡単ではなかったはずです。
彼女達はそういう時代に生き、それ以前にあった女性としての生き方を変えていった人たちです。

そのなかでも印象的だったのが、シスターでノートルダム清心学園理事長である渡辺和子さんです。
彼女の父親は二・二六事件で凄惨な最期をとげた教育総監渡辺錠太郎です。
彼女が9歳の時に、父親は目の前で殺されたのです。
その父に対して、彼女は「いい時に死んでくれた」と言います。
生き残っても、戦争反対の立場だったし、相当な地位になってA級戦犯として絞首刑になったにちがいないからと。
この言葉は父から愛されたという記憶から来たものなのです。
彼女は自分を傲慢である、意地が悪い、口答えをしようと思えば結構できる・・・などと素直に語っています。
しかし、そういう欠点を持っていても、「意志の力」で「自分が理想とする」、「平和を愛する」私でいようとしている。
彼女でさえそうならば、私なんかどうしようもないですねぇ。

「人は自分の力で幸せになることができる」

もう一人、紹介したいのが、佐藤初女さんです。
彼女のことはブログでも2回ぐらい書いていますが、本当に地に足をつけたくらしをしています。

「みんな、頭ばかりをたくさん使って、体や心のことを疎かにしているのよね。だけど体と心と頭がちぐはぐだと、うまくは生きられないですよ。」

「幸せは今、ここにあるんですよ。」

どうしようもない現実にくじけてしまいそうな時、読んでみると、ちょっと頑張れるかもしれませんよ。

新国立劇場バレエ団 「コッペリア」を観る2009/06/30

 2009年6月29日(月)  19時開演

 振付:ローラン・プティ
       《キャスト》
 スワニルダ:タマラ・ロホ
 フランツ:ホセ・カレーニョ
 コッペリウス:ルイジ・ボニーノ
 コッペリア:人形

振付によって、こんなに変るものだとは思いませんでした。
今回のローラン・プティ版は、踊りがかわいいものが多いです。
特にスワニルダと友人の踊りはとってもキュートでした。
スワニルダを踊ったタマラ・ロホは喜怒哀楽の表情がとってもよく、コッペリアに興味を持つフランツに怒ったり、コッペリアに嫉妬心を燃やしたり、コッペリウスを翻弄する様子が本当に上手いです。
他の演目も見たいと思いました。
そうそう、今年のバレエフェスティバルにも出ますね。楽しみです。(ガラのチケット取れなかった・・・泣)
フランツ役のホセ・カレーニョも初めて見たのですが、いいですねぇ。
キューバ生まれなので、ちょっと肌が浅黒く、背があまり高くないのですが、均整がとれていて、お尻から脚にかけての筋肉が気に入りました。
20歳頃のロミオを見てみたかったです。
そして、コッペリウス。
前に、Kバレエカンパニーで見た時は、人形を偏愛する変なおじいさんという感じだったのですが、今回はダンディなおひげのおじさんです。
なんといっても、人形とダンスする場面がいいですよ。(写真)
プティ版はスワニルダに恋しているから、彼女そっくりの人形を作ったというのがはっきりしています。

つくづく思ったのですが、振付って本当に大事ですね。
同じものなのに、ガラッと印象が変るんですから。

新国立バレエ団は、それほどはずれがないように思います。「ドン・キホーテ」も行こうかしら・・・。