川瀬七緖 『フォークロアの鍵』2022/11/09



二十八歳の羽野千夏は文化研究機構、東京国立民族文化学博物館、特別共同利用研究員という長ったらしい肩書きを持つ、民族学の「口頭伝承」を研究する大学生。
杉並区にある認知症グループホーム「風の里」で、老人たちの「絶対に消えない記憶」のなかに残るマイナーな伝承を手繰り、謎をとくというフィールドワークをすることになる。

グループホームの職員は、介護福祉士の資格を持つチーフの島守清子と二十歳の若い女性介護士、明桃(ミント)、そして男性介護士の三人。
その他にフリーランス契約を交しているカウンセラーの松山幸代が随時やって来る。

「風の里」には他のグループホームにいられなくなった問題児たちが集まっている。入居者は六名。
『物取り妄想』があり、嫁が浮気をしていると訴えるアルツハイマー型認知症の笹川みつ江、武士の幻覚を見、若い女性にセクハラをする、七十九歳のレビー小体型認知症の栗原三郎、貫頭衣のようなものをまとい、指先が切られた軍手をはめ、通報癖があり、電波攻撃妄想のある八十一歳のアルツハイマー型認知症の真木修子、いつもご飯を食べたかどうか忘れてしまう、八十八歳の脳血管性認知症の澤部幸吉、色白で品がよく顔立ちもいいが徘徊癖があり意思疎通ができない、九十二歳のアルツハイマー型認知症の青村ルリ子、そして郵便局に毎日同じ時間に行き、二十円を貯金するという、こだわりが強い前頭側頭型認知症の勝田恭助。

千夏が「風の里」に通い始めて二日目に、ルリ子が裏口から抜け出そうとする。
捕まった時に「むかしむかし……あるところに……」と昔話の定型句を口にする。
千夏は気になって確かめようとするが、島守チーフに止められる。

グループホームは千夏からすると刑務所と大差がなく、計画に縛られ、入居者の個性を潰しているように思えた。
しかし島守は和気藹々とした家族みたいなホームなんていうのは、はっきり言って夢だと言い切る。
なんともやるせない気持ちになる千夏。

次にルリ子は警報器のスイッチを切って、脱走を企てる。
捕まったその時も昔語りの定型句を口にする。
ルリ子には外へ行きたい理由があり、同時に、昔語りの定型句を口にする。
千夏はこの二つの間には因果関係があるのかもしれないと思い、ルリ子の日常の様子を調べてみることにする。
すると、ある日、ルリ子は「おろんくち」という謎の言葉を吐く。
「おろんくち」に何かあると思った千夏は文献に当たり、地方の民俗や風習、伝承を調べているサークルに問い合わせのメールを出す。

立原大地は、親に内緒で高校に行かずにブラブラ街を彷徨っている。
彼は母の支配から逃げたかった。自由になりたかった。
このままいくと留年は確定。留年を知った時、母は突き刺さるような言葉で大地を追い詰めるだろう。その時、自分は母親を殺すというとんでもないことをやらかすのではないかと大地は思っている。
彼の唯一の救いは「BBSやまなし」。
ある日、「BBSやまなし」のサイトにいくと、「『おろんくち』という言葉の意味を知りませんか?」という投稿に気づく。
祖母が語ってくれた昔話のなかに、これに似た響きがあったのではないか…。
大地は返事を書く。

やがて大地と千夏は協力して「おろんくち」の謎を解いていくことになる。

面白い観点から書かれたミステリーです。
同時に介護の在り方も考えさせられました。
介護施設は人手が少なく、一人一人に関わっていられない現実はわかりますけれど、認知症になっても人間としての尊厳は認めてもらいたいですよねぇ。
考えると暗くなるので止めますけど。

ヒロインがデブで食べるのが大好き、食べ方が下品なんて、ちょっと可哀想でした。でも老人たちとの接し方がいいんでしょうね。好かれてますから。
変人と言えば、やっぱり法医昆虫学の赤堀先生の方が上でしょう。
会いたいわぁ。
話がそれましたが、民俗学とミステリー、意外と合いましたよ。

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