ヘニング・マンケル 『目くらましの道』2022/11/08

クルト・ヴァランダー・シリーズの第五弾。


一番美しい季節の夏がやってきた。
夏休みにヴァランダーはバイバとデンマークに行くことにしている。
イースタ警察署ではビュルクが署長をやめ、新しくリーサ・ホルゲソンという女性が署長になる。彼女が赴任してくるまで、ハンソンが署長代理だ。

ある日、菜の花畑に不審な行動をする女がいるという通報がある。
パトロールが全部出払っていたため、ヴァランダーが行くことになる。
彼が畑の中に隠れている少女のところに行って話そうとしたところ、少女はガソリンをかぶってライターで自分の体に火をつけてしまう。
現場に彼女のペンダントトップが残されていた。

少女の死のショックから立ち直らないうちに、殺人事件が起る。
ボートの下で元法務大臣のグスタフ・ヴェッテルステッドの殺傷死体が見つかったのだ。
死体は背骨を刃物で叩き割られ、頭皮を毛髪ごと頭から剥ぎ取られていた。
ヴェッテルステッドには絵画と売春に関する黒い噂があった。
しかし現場にはなんの証拠もなく、殺害動機もまったく見当がつかなかった。

そして次の事件が起る。
夏至祭のパーティが行われていた屋敷のあずまやで、画商のカールマンという男が頭を真っ二つに割られ、頭皮が剥がされて殺されていた。
ヴェッテルステッドと同じ犯人の犯行と思われたが、犯行を見たものは誰一人いなかった。
捜査してもヴェッテルステッドとカールマンの接点は見つからない。

そうこうしているうちに第三の殺人が起る。
配水管の工事穴に男の死体が投げ捨てられていた。
顔の正面から振り落とされた刃物で真っ二つに切られ、他の二人のように頭皮が剥がされていたが、彼だけ両目を潰されていた。
スツールップ空港に殺人現場だと思われるバンが残されていた。
車の持ち主は盗品売人のビュルン・フレーマンで、殺されていたのは彼だった。

三人に共通するのは何か?
捜査は迷路へ入り込んでいく。
進展のないまま、四人目の犠牲者が…。

『リガの犬たち』や『白い雌ライオン』、『笑う男』など国際問題を扱っていましたが、今回は国内問題です。
反吐の出そうな、なんとも言えない悲惨な事件です。
「人はもはや暴力を使ってしか問題を解決できなくなったのか?」
ヴァランダーは今、スウェーデンは、世界はいったいどうなっているのかと自問します。答えのない問いです。

今回、ヴァランダーの父が認知症に罹っていることがわかり、ヴァランダーと父は一緒にイタリア旅行をすることになります。
少し親子が歩み寄りました。
娘のリンダも色々なことに挑戦していますが、一貫性がないですね。
バイバとの関係も進展はありません。ヴァランダーは結婚したいようですけど。
でもね、事件が佳境に入り、もしかしたらバイバといっしょにデンマーク旅行ができなくなるかもしれないのに、電話をしないというのは、大人の男性としてどうなんでしょう。
このクズ男と言いたくなりました、笑。
仕事では違うのにね。
これもヴァランダーの魅力のひとつでしょうか…?

もはや警察を辞めたいと思わなくなったヴァランダーの活躍が続きます。