北森 鴻『なぜ絵版師に頼まなかったのか』2011/04/28

ちょっと毛色のかわったミステリーです。


時は明治。
曽祖父に育てられたため、江戸から明治に変ったにもかかわらず髷頭のままだった葛城冬馬は、曽祖父が亡くなり天涯孤独の身になります。
曽祖父の死後身を寄せていた横浜で呉服商を営む遠縁のおじの紹介で、雇われ外国人の東京大学医学部主任エルウィン・フォン・ベルツの給仕になります。
ベルツは冬馬の髷頭が気に入ったのです。給金は月に4円という破格の値段でした。

ベルツは完璧な日本語を話しましたが、日本語を読むのが苦手だったので、彼のために日本語で書かれた新聞を数誌読み聞かせるのが冬馬の仕事のひとつでした。

ベルツは日本が好きなのですが、ちょっと勘違いをしているところがあります。というのも花瓶を徳利にし、大振りの茶碗で酒を飲み、金襴緞子の花嫁衣裳をガウンにしているのです。大きな体の西洋人が派手な着物を着て茶碗で酒を飲んでいる様子を想像するだけでユーモラスですね。

冬馬は13歳でベルツのところで働き始めてから東大の予備門の生徒となり、特別飛び級で東大医学部に入学し、22歳になる物語の最後には医学部を無事卒業し、ベルツの助手になります。

このおかしな外国人ベルツが冬馬を使い走りにし調査させ、巷で起こる不可思議な事件の謎解きをします。
その謎は大したことはないのですが、明治のよき時代を髣髴させるほのぼのとするミステリーです。

おしむらくは北森さんがなくなってしまったことです。もっとベルツと冬馬の活躍を読みたかったのに・・・。