佐々涼子 『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』2020/08/23

あなたの家族が海外で不慮の事故で亡くなったら、遺体はどうなるのか考えたことがありますか?
ニュースで海外から遺体が搬送されて、空港に柩が帰ってくる場面を見たことがありませんか。
私は大使館の人が色々と手配をして、遺体搬送をしているのだろうと思っていました。
実は遺体搬送を生業とする業者があるのです。
その先駆けとなったのが、エアハースト・インターナッショナル株式会社です。


エアハースト・インターナショナル株式会社は国際霊柩送還の専門会社として2003年に日本で最初に設立された会社です。
この会社が出来る前は葬儀社の業務のひとつとして扱われていたそうです。
彼らの仕事は海外で亡くなった日本人の遺体や遺骨を日本に搬送し、日本で亡くなった外国人の遺体や遺骨を祖国へ送り届けることで、引き渡す前に、生前の姿に近づけるように修復もしています。

遺体搬送で思いもかけないことが起こるんですね。知りませんでした。
気圧の関係で体液漏れがあるので、遺体にトイレットペーパーが詰め込まれていた。
エンバーミングを施されなかったために遺体が悲惨な状態で納められていた。
反対にいい加減なエンバーミングが施されていたため遺体が腐敗していた。
遺体の腹部から臓器が抜かれていた。
柩を開けると見知らぬ外国人が納められていた。
葬儀社が勝手に遺体をもっていって、大金を請求してきた。
などなど、こういうことはなかなか知られていないことですよね。
どこにでも悪質な業者は存在するんです。
海外だったらなおどの業者がいいかなんてわかりませんもの。
ニュースになるような大きな事故や事件ならこんなことはないのでしょうが、一個人のことでは大使館は当てにならないのですね。

読んでいてすごいと思ったのが、社長の木村利惠さんです。
彼女は遺族の気持ちを考え、遺族に寄り添い、自分に何ができるかを常に考えています。
死亡した原因が違うように、遺族も違い、何が必要なのかもそれぞれ違うからです。
彼女はマニュアルに従うのではなく、頭を働かせて遺族の心を推し量ります。
こういう彼女の仕事に対する姿勢には頭が下がります。
彼女が心を込めて遺体を大切に扱ってくれたからこそ彼女が関わった家族の方々は感謝するのです。
でも感謝した後は忘れられると聞き、ちょっと悲しくなりました。
いつまでも悲しんでばかりいられませんから、悲しい思い出に繋がることは忘れられた方がいいのですが。まあ、仕事だから仕方ないのでしょうけど。
こういう彼女の会社ですから、ないことを祈りますが、もし自分の家族が海外で不幸にあったら、是非頼みたいですわ。

実はこの本を読んでいて、思い出した人がいます。
元同僚の年上の女性です。
彼女は性格的に難があり、仕事上で人と揉めることが多かったので、周りは関わりを持たないようにしていました。
私は仕事上他の人たちよりも彼女と話すことが多かったのですが、色々とあり、彼女が退職する頃には疎遠になり、今はどこで何をしているのか知りません。
実は彼女は第二次世界大戦で父親を亡くしています。
その時、彼女は母親のお腹の中にいたので、父親の顔を見たことがありません。(母親も彼女が十代の頃に亡くなったそうです)
彼女は父親のことを知りたいと思い、色々なつてを辿り、調べていました。
父親のことを知るということが彼女のライフワークであり、天涯孤独の彼女にとって、生きる糧でもあったのです。
本を読んでいると「父親と同じ隊にいた人と今度会うのよ」と嬉しそうに私に話していた彼女の顔が浮かんできました。
戦争当時のことですから骨は帰って来ていないでしょう。
本の中の遺体と向き合うということは、亡くなった人と「最後にたった一度の「さよなら」を言う」ことだという言葉が、私に彼女を思い出させたのです。
彼女はこの「さよなら」が言えなかったため、家族を持たず、人生をかけて父親を探していたのですね。
今になって彼女の気持ちが少しわかりました。

この本は2012年に第10回開高健ノンフィクション賞を受賞した作品だそうです。
著者の強い思いが込められた本で、この思いが『エンド・オブ・ライフ』に続いているようです。

コメント

_ ろき ― 2020/08/23 21時34分41秒

これは大変な仕事ですねえ。
あまり感情移入しすぎると辛いから、事務的になる人も多いと思う。きちんと遺族のことを思いやれるなんて、すごいです。

元同僚さん、どうしているでしょうね、納得できたのかな。

_ coco ― 2020/08/24 05時57分05秒

たぶんニュースになるような大きな事故や事件の時に必ずエアハーストが遺体搬送を引き受けていると思います。

元同僚は在職中も急に仕事に来なくなったりしてましたから、精神的にやばい人でした。
故郷の高松に帰りたいと言っていたので、帰ったと思いますが、生きているのかどうか・・・。

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