佐々木護 『疾駆する夢』2011/12/08

日本の自動車産業を扱った経済小説です。



戦前にフォードの整備工場で働いていた多門大作は徴兵され、作業中隊に所属する自動車手になりました。
終戦になり復員し、しばらくは青梅の生家で世話になっていたのですがいずらくなり、横浜の自動車工場に職探しに行きますが、どこにも働き口はありません。
前に勤めていた自動車整備工場にもう一度行ってみると、おかみさんがここで整備工場を続けてくれるのなら場所を貸してもいいと言います。
大作は早速土地を借りることにし、「自動車修理・整備全般 多門自動車」という看板を掲げます。
しかし、仕事は入りません。
六日ばかり経った時に、立ち往生しているトラックを直したことから、鄭という廃品回収業を営んでいる男と知り合い、運が向いてきます。

鄭から廃品を買って自転車やリヤカー、オートバイ、サイドカー付きオートバイ、原動機付き自転車「パラパラ」と作っていくうちに、儲うかるようになり、会社はだんだんと大きくなっていきます。

「パラパラ」が売れ始めた頃にエンジニアの吉田が多門の工場に現れ、彼が「いずれ、自動車を作りたい」と言ったのを聞き、大作は自動車を作るという夢を持ち始めます。

ただの整備工場から自動車会社を作り、ル・マンにも挑戦し、車を海外へ輸出するようになり、最後は・・・という日本の自動車産業の戦後史がこの本に描かれています。
実在の自動車会社ではないのですが、タモンクーペという自動車が本当にあるかのような錯覚に陥りました。

日本の良さは、ここに書かれているような中小企業の「ものづくり」ではないでしょうか。
資源もない日本ですから、技術を売るしかないですものね。中小企業のみなさま、頑張ってください。

ちょっと余計な大作のラブライフなどが書いてありますが、そんなことが気にならないほどで、厚くてもおもしろく読めてしまう本です。
私としては最後までエンジニアの吉田がどうなったのかという疑問が残りました。吉田のその後にも触れて欲しかったです。