小島毬奈 『国境なき助産師が行く 難民救助の活動から見えてきたこと』2019/05/11

近所の図書館でカウンター待ちをしていたら、中学生ぐらいの男の子が司書さんに聞いているのが聞こえました。

「ニッコクはどこですか?」「ニッ・・・。何ですって?」「ニッコクです」
「ニッコク?」「特別な言い方なのかなぁ?」「国語辞典みたいなものならこちらです」

しばらくして、同じ子が辞書のページを見せながら、「伸ばし棒ってどこにありますか?」と聞いています。
「伸ばし・・・」「伸ばし棒です」「何を調べているの?」

家に帰ってから調べました。

ニッコクとは「日本国語大辞典」
伸ばし棒とは「長音符」 カードなどのーの記号のことだそうです。

おばさんは○○年生きているけど、知らなかった・・・(恥)。
「伸ばし棒って図書館にある?」って感じです。
これらの言葉って一般的なんでしょうか?
広辞苑は持っていても、ニッコクなんて持っている家、滅多にないわよねぇ。


国境なき医師団で助産師として参加した方の本も読んでみました。
彼女は自分が何故看護師になったとかいうことは書かず、主に派遣された場所のことを書いています。
白川さんはMSFに登録する前に語学力のなさを思い知ったと書いてありましたが、小島さんはその点、現場にいってから苦労されていますが、行く前に語学に自信がないように思えなかったので不思議に思っていましたら、著者紹介でわかりました。
彼女は旅行好きな父親の影響で海外に行くことが多く、高校時代にはオーストラリアに留学していたんです。
看護学校卒業後に助産学校に行ったということですから、勉強することが苦にならない人なのでしょうね。
そんな彼女はパキスタンを皮切りに、イラク・シリア・レバノン・スーダン・地中海難民捜索救助船等に派遣され、その経験をこの本に書いています。

彼女のいいところは、宗教や文化、習慣の違う人たちを尊重していることです。
そういうところは現地助産師たちのポテンシャルを信じ、「できる限り彼らの自主性に任せる」という態度からわかります。
なんでも援助に来た人がやってしまえば楽でしょうが、それでは援助がなくなった後どうなるのかということを考えたらわかることですものね。
考えるべきことは彼らの自立と未来です。

自身が女性であることからこういうことも思っています。

「女性は、生まれた国によって運命が大きく左右されます。もし私がパキスタンに生まれていたら、夫の所有物として扱われる人生だったかと思うと、たまたま日本に生まれたことは本当に幸運であると痛感します」

母体救命のために手術が必要なのに、手術するためには「男性」の家族の了承が必要だそうです。
その上、子宮摘出をしなければならなくなる可能性があると言うと、それを拒否するというのです。
自分の命を左右する決断も本人だけでは許されない、命よりも「子供の産めない女性に価値はない」という文化。
彼女でなくても日本に生まれたことを感謝する以外にありません。

この本を読んで知ったのは、リビア沿岸で難民救助をしている地中海難民捜索救助船「アクエリアス号」のことです。
このような船があることなんて全く知りませんでした。
2016~17年の二年間で約8000~10000人が海で命を落としているそうです。
何故リビアか。
アフリカの多くの国では内戦や貧困で生きていくためのお金を稼ぐ手段がありません。
そのことにつけ込まれ、リビアにはいい仕事があるという言葉を信じ、借金までしてリビアに渡ります。
しかし、そこは無法地帯で、人質となり身代金が要求され、払えないと売り飛ばされ、売春や強制労働をさせられることとなります。
ある程度働くと、ボートでイタリアへ行くチャンスがやってきます。
運がよければ救助船に助けられイタリアに行けますが、運がわるけりゃ捕まりまた留置所に戻されるか、そのまま海の藻屑となるか・・・。
救助船の悲惨な様子を小島さんはユーモアを交えた言葉で書き綴っています。

MSFでは「私は中絶のために業務を遂行します」という同意書にサインを義務づけられているそうです。
南スーダンに派遣された時は性暴力のカウンセリングも行っていたそうです。
火をおこすのに必要な薪を集めにいったら森の中で襲われたなどということが日常茶飯事。
レイプを受けたのは女性自身の責任とみなされ、責められ、加害者は法で裁かれることがないのです。
しかし、こういう一見救いのないような所でも、私たちが学ばなければならないことがあると小島さんは言います。
赤ちゃんを取り上げる時に早く出そうとして骨折させてしまったそうです。
日本ではえらいことになりますが、母親は彼女に"God bless you."と感謝したと言います。
「今あることに感謝」することのできない日本人は不幸であるとまで、彼女は言っています。

小島さんは日本人は他の国の人たちに比べるとおとなしくて意見も言わなくつまらないと最初は思っていたそうです。
でも、働いているうちに「日本人には忍耐の精神があり、その場を丸くおさめることが上手で協調性がある」ということに気づき、それが長所であると感じたそうです。
これからの国際社会を渡っていくためには彼女の言う日本人としての長所を生かしていく道を考えていくといいかもしれませんね。

小島さんはSOSメディテラネの募金を募っています。
見てみると、なんと救助船「アクエリアス号」が昨年末から活動停止になっているそうです。
ボートで海に出た難民の方々はどうなっているのでしょう。

令和で浮かれている日本にいる私に何ができるのかを問いている毎日です。
何も行動に移せない自分がもどかしいです。