山崎光夫 『鴎外青春診療控 本郷の空』2023/07/15

『大塚薬報』誌で「町医者・森林太郎ー鴎外青春診療録控」として連載中だそうです。


前作に引き続き、森林太郎のモラトリアム時代が続いています。
林太郎は東京の千住にある父の橘井堂医院で診療を手伝いながら、様々な患者と出会い、父・静男から医師のなんたるかを学んでいます。

この本では鴎外よりも父である静男の姿が印象に残ります。
静男は一介の町医者であり続け、どの患者とも対等に接し、患者の病気だけではなくその家族の心までも診ています。例え自分の息子であっても、いいところは学んでいこうとします。
静男は死に逝く人にとって「医者が慰者」になることが「魔法の医療だ」と言っていますが、林太郎は「父なら魔法の医療は実践できているのではないか」と思っています。父親に対する子の信頼が厚いですね。
若い頃の鴎外の人となりは全く知りませんが、この本を読んでいると「この父にしてこの子あり」と思えます。
そうそう彼の成績が8番だった理由がわかりました。試験の最中に下宿が火事になり、ノート類が焼けてしまったそうです。これでは勉強ができませんね。それでも8番はすごくないですか。

面白かったのが、静男が語る新撰組の近藤勇とのことです。
新撰組って何となくカッコいいと思われていますが(私だけ?)、武闘派の殺し屋集団だったそうで、静男は元治元年(1864年)に神田下谷和泉橋の松本塾で、幕府軍医だった松本良順を訪ねて来た近藤勇に会っています。
鬼気迫る状態で静男が行なったことは…。(静男さん、素敵です、笑)
近藤勇以外にも若き西周や北里柴三郎など、その後活躍する人たちが出てきます。

若き日の鴎外がまだ世慣れていなくて、ナイーブなところがいいです。
『大阪薬報』誌での連載は続いているらしいので、鴎外が今後どういう選択をしていくのかが楽しみです。

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