遠藤周作 『悲しみの歌』2007/01/27

遠藤周作の作品です。前に読んでいたのですが、気がつかずに買ってしまいました。

昭和30年代ぐらいの東京が舞台です。
フランス人のガストンはさびしい人や悲しい人を見ると、その人に話しかけずにはいられません。
その人のために、何かをせずにはいられません。
彼は焼き芋屋をしていた老人が病気で働けずにいるので、残飯をもらって届けていました。

ガストンが老人の病気を診てもらうために訪ねた病院の医師、勝呂(すぐろ)は、米兵捕虜の生体解剖をしたとして、戦犯となった過去をもっていました。
彼はひっそりと東京の片隅で過去を隠し、医師として普通の診療をしながら、子供を産めない理由がある女のために堕胎をしていました。

新聞記者の折戸は、正義感に燃え、戦犯たちが現在、どう生きているのかを調べていました。そして勝呂のことをつきとめます。
折戸には勝呂を理解できません。
彼には「人間の悲しみ」がわかりません。
彼にとって正義はひとつで、人の気持ちの機微まで読み取ることができません。
折戸のせいで、勝呂が何をやっていたかがわかり、いやがらせが始まり、勝呂はまた仕事をやめざる得なくなります。

ガストンが連れてきた老人は癌の痛みで苦しんでいました。
老人は勝呂に殺してくれと頼み、勝呂は彼を苦しみから解放させるのでした。

苦悩をかかえ生きている人と、全く何も考えずに生きている人の対比が強烈です。
遠藤にとって、生きるということは、楽しみを増やすことではなく、悲しみを増やすことのように思います。
それは、キリスト教のいう原罪に通じるものなのでしょうか?
キリスト教信者ではない私にはわかりません。
人生は悲しみもあるけれど、それ以上に楽しみもあると信じたいと思います。
たぶん、ガストンのように生きる人が、神に一番近い人なのでしょうね。