リー・ツンシン『小さな村の小さなダンサー』2010/07/23

単行本での題名は『毛沢東のバレエダンサー』でした。文庫本にするにあたって題名を変えたようです。『毛沢東のバレエダンサー』の方がこの本の内容を表していますね。


リー・ツンシンは1961年に中国の山東省新村に生まれました。
家は大家族で六部屋しかないのに、二十人ぐらいが一緒に暮らしていました。
父親は畑を耕すかたわら、建設材料の運搬をしていました。
兄弟は男ばかり七人。ツンシンは六番目の息子として生まれました。

1961年は毛沢東の大躍進運動が始まって三年目。中国は世界史上まれにみる飢饉にみまわれていました。
家は貧乏で食べるものさえろくにない状態でした。
日本は高度成長期に入っていた時に、中国では飢饉が起こっていたなんて、このことを知っている人は日本にどれぐらいいたでしょうね。

前半の大部分を使って、1960年代中国の農村の生活、貧しいけれど家庭生活が幸せだった様子が描かれています。

ツンシンが十一歳になろうという時に、彼の人生が変るきっかけがありました。
校長が四人の大人を連れて、教室に入ってきました。
四人は毛沢東夫人、江青の名代として北京から来た先生で、北京でバレエを学び、バレエを通して毛沢東の革命に貢献する生徒を選ぶためにやってきたのです。
彼らが教室から出て行こうとした時、担任のソン先生がツンシンを指差し、「あの子はいかがでしょう?」と言ったのです。
この時からツンシンの人生は変わりました。このことがなかったら、彼は他の兄弟と同じように村で暮らし続けていったでしょう。
バレエなど見たこともないツンシンは色々な検査やテストに合格し、北京舞踏学院でバレエを学ぶことになったのです。
十億人に一人の幸運でした。
始めはホームシックや劣等感で勉強に身が入らないツンシンでしたが、二度目の休みを故郷で過ごし、自分の幸運をあらためて思い知り、未来へ向かって前進することを誓うのでした。

それからの彼は努力を重ね、主役を踊るまでになっていきます。
そして、彼の人生を永遠に変えることが起こります。
アメリカから振付師ベン・スティーブンソンがやってきて舞踏学院で授業を持つことになったのです。
彼の授業に出られる二十人にツンシンが選ばれました。
その上、毎年夏にテキサスのヒューストン・バレエ・アカデミーで開かれるサマースクールに招待される二名の中の一人になったのです。

アメリカに行ったことで、彼の中には疑問が沸き起こることになります。
「毛主席や江青、そして中国政府はアメリカについてなぜうそをついたのだろう?なぜ中国はこんなにも貧しいのか?そしてアメリカはなぜこんなに豊かなのだろう?」
中国でのバレエの訓練法にも疑問を抱くようになったツンシンは、もう一度アメリカに渡りバレエの練習をしたいと思います。
ベンに相談すると、中国副総領事にかけあってくれ、中国に帰国した後、二ヶ月したらふたたびアメリカに戻り、ヒューストン・バレエで一年間研修できることになりました。
ところが中国に帰った後、ツンシンが若いため西側の悪い影響を受けるのではないかという恐れから、アメリカ行きが認められないという連絡が来たのです。
がっかりしたツンシンですが、どうしてもアメリカ行きを諦めきれず、色々と手をつくします。
やっと無事にアメリカに渡ったツンシンですが、一年間の研修が終わり帰国が迫った時に、彼は重大な決断をします。亡命という・・・。

ローザンヌ・バレエ・コンクールなどを見ると、中国人のダンサーが活躍しています。これらのダンサーのさきがけがツンシンなのですね。

ツンシンは1999年にバレエを引退し、現在は夫人のメアリー・マッケンドゥリーと三人の子供とオーストラリアのメルボルンに住んでいます。
文庫本に載っている写真は映画からのが多く、宣伝効果を狙ったのでしょうが、それよりももっとツンシン本人の写真を見たかったです。

映画は八月からBunkamuraル・シネマとシネスイッチ銀座で上映されます。一人前になったバレエダンサーが昔を思い出すというような構成になっているのではないかと思います。
オーストリア・バレエ団やバーミンガム・バレエ団の協力でバレエ場面がすばらしようです。
暇を見つけ映画を見に行こうかと思っています。
  

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