『ルドンとその周辺―夢見る世紀末』@三菱一号館美術館2012/01/21

ルドンの絵は昔から知っていましたが、彼がぐっと身近になったのは、2年前に読んだ『怖い絵』からです。
幼少時に母親に顧みられず、淋しく育った彼。絵を幼い頃から描いていたのですが、父親に建築家になるように言われ美術学校の試験を受けたのに不合格。後に弟が建築家になったなんて、なんという皮肉なんでしょう。


この展示会の目玉は「グラン・ブーケ」。派手派手なポスターまで作ってしまったようです。


今のはシンプルになっています。


展示会は三部構成です。
「グラン・ブーケ」以外は岐阜県美術館の所蔵です。改築をしていたので、その間にルドンを貸し出していたようです。日本で有数のルドン・コレクションを持っていたなんて、知りませんでした。地方の美術館にもいいところがありますね。

<第一部:ルドンの黒>
彼が木炭画と版画ばかり描いて何故油絵を描かなかったのかわかりません。何か理由があったのでしょうか。その頃流行っていた印象派への当てつけというわけでもないでしょうが。

彼の描く木炭画は一見真っ黒に塗りたくったように見えるのですが、よくよく近寄って見ると非情に繊細に描かれています。
木を描いたものが多数あります。黒の時代のルドンは自然を描くという印象がなかったのですが、意外と彼は描いていたのです。(下の木の絵は展示されていなかったのですが、20代にはこういうような感じの木炭画を描いていました)



私が気に入ったのが、木炭で描かれているこの「骸骨」。人間なんて死ねばしょせん骸骨さ、というわけではないでしょうが。何やらこの骸骨、腰に手をあてポーズを取っています。


紙は白ではなくて、何色というのでしょうか。茶色でもないし・・・。

リトグラフでは彼独自の不思議なイマジネーションの世界が広がっています。
結構私はこういう変な世界が好きです。

40歳を越した辺りからの人を描いたものがとてもいいと思いました。


「光の横顔」。リトグラフですが、幻想的な版画です。

写真を探せなかったのですが、彼が版画を習い、晩年自殺をしたブレスダンのポートレートを描いたと思われるものは、彼に対する愛情あふれたいい作品だと思いました。


黒の時代から色彩あふれる時代に入った頃に描かれたのが、この「樹」です。
ルドンは二十代の頃、植物学者のクラヴォーと知り合い、植物学の知識もあったようです。
初期の木炭で塗りつぶすように描かれた樹とは違い、芽が芽吹いています。彼の心境の変化が垣間見られるように思います。
下が空いたスペースになっているのは何故でしょう?彼の描く花の絵も下が空いていて上が詰まった感じがします。空中に浮いたような樹です。
心理学的に分析するとおもしろいでしょうね。

ルドンは黒を使いながらもそこには色彩があるように思いました。

<第二部:色彩のルドン>
説明文に書いてあったのですが、彼が色彩の世界に入っていくひとつのきっかけになったのが、49歳の時に生まれた息子の存在だそうです。彼が味わった幸福感が絵に転機をもたらしたのでしょうか。

内省的な人の姿が多く見られます。
「眼を閉じて」はリトグラフもありました。



油絵(オルセー美術館所蔵)は展示されていませんが、日本に来ていたので見ていました。描かれているのは女性だそうですが、女性というよりも中性的ですよね。

もうひとつ。ルドンが繰り返し描いているものがありました。


「神秘的な対話」です。
これと同じような構図のものを見た覚えがありました。


ブリジストン美術館で見た「神秘の語らい」です。私はブリジストンの方が好きです。


木炭をパステルに持ち替えて、素敵なポートレートを描いています。ドガの時も思いましたが、パステルでよくこんな絵がよく描けるなぁと思います。

さて、花ですが、この「青い花瓶の花々」もパステルで描かれています。


この絵を巨大にしたようなのが、この展覧会の目玉の「グラン・ブーケ」です。
1897年にフランスの男爵の城の大食堂用に描かれた装飾画だそうです。装飾画は16点描かれており、他の15点はオルセー美術館所蔵になっています。この1点だけがずっと秘蔵されており、それを三菱が買ったというわけですね。一体いくらだったのかしら?

暗い室内にボーと「グラン・ブーケ」が浮かんでいます。


本当に大きい。立て248.3㎝、横162.9㎝。
これほど大きなパステル画ってあるでしょうか。
画家は描くのが楽しかったのでしょうね。花々が生き生きとしていてこぼれんばかりです。
男爵の大食堂ってどんなだったのか興味があります。「グラン・ブーケ」がある時にその大食堂を見たかった・・・。

ルドンはこの後、南仏にあるフォンフロワド修道院の図書館壁画も描いているそうです。残念ながらこの壁画は公開していないようです。
モネの庭とこの修道院を見るというフランス旅行の目的ができました。

<第三部:ルドンの周辺―象徴主義の画家たち>
今までこの美術館に来ると、展示数が少ないので、ちょっと物足りないけれど、腰痛持ちには腰が痛くならなくていいという感じだったのですが、今回は点数が多いようです。
夕方に用事があったので、三時半前に出ようと思っていたのですが、全部見終わらない感じになってきました。
モローの「ピエタ」とムンクの「マドンナ」、ゴーギャン、ドニなどを横目で見ながら急ぎます。
ムンクは独特の病的な絵を描くなぁとか、ルドンの版画の師匠は独学だそうだけれどずいぶん緻密な絵を描くなぁなどなど思いながら飛ばします。
その中で気になったのが、ポール・セリュジエの「消えゆく仏陀―オディロン・ルドンに捧ぐ」。この絵はルドンが亡くなってから、弟子(かな?)が描いたものです。
調べてみるとルドンは「仏陀」(下の絵)や「若き仏陀」という絵を描いています。(この展覧会には展示されていません)


ルドンは仏教にも興味があったんですね。だから彼の絵は瞑想的なのかな。

もう一度行って、ゆっくりと鑑賞したいと思える展覧会でした。
今度はカフェでお茶をして、「エシレ」でお菓子を買って帰りたいです。時間がなかったので、並べなかったのだもの。お菓子、買いたかったわ。
(しょせん色気より食い気です)