夏樹静子 『心療内科を訪ねて ー心が痛み、心が治すー 』2006/08/05

夏樹静子さんのことはミステリー作家として知ってはいても、本を読んだことはありませんでした。何かの雑誌か新聞で、腰痛で悩んでいたという記事を見た記憶があります。たまたま本屋に行って、新刊の棚を見ていたら、『心療内科を訪ねて』がありました。心療内科について興味のある私は、さっそく買いました。
『心療内科・・・』には心身症により、腰痛、耳痛、潰瘍性大腸炎、拒食・過食、円形脱毛症、過敏性腸症候群、斜頸、喘息などいろいろな身体的症状がでていたけれど、今はなんとか治まっている人たちのインタビューが書かれています。
「心身症との出会い・・・作家出光静子(54歳)ー腰痛」という章が始めにあり、出光静子とは夏樹さんのことだということが読んでいてわかりました。彼女の経験したという腰痛は、私が考えていたヘルニアや脊柱管狭窄症などのようなものではなかったのです。心因性から来る腰痛だったのです。彼女は書いています。

自分の中に自分の知らない自分がいる。意識の陰に潜在意識という生きものが潜んでいて、これは何を考えているかわからない。
(略)
どうやら人間の本音は潜在意識のほうに多く偏在しているのではあるまいか。だからその声は聞こえにくい。意識の抱く「かくあるべき」とか「かくありたい」という威勢のいい理想や願望に反して、「かくある」という認めたくない現実を告げているからだ。しかし、時には人は立ち止まって、潜在意識のかそけき声に耳を傾けなければいけないのかもしれない。
仮に意識と潜在意識の両方を合わせて「心」と呼ぶとすれば、心と身体がいかに密接に繋がっているか、心身医学の基本ともいえる「心身相関」に初めて目を開かされる思いがした。

夏樹さんの腰痛の闘病記は新潮文庫『腰痛放浪記 椅子がこわい』で出ています。この本を読むと、人間の身体の不思議を思わずにいられません。胃潰瘍とか過敏性大腸炎のようなもので、一般的にストレスなどでなると言われている病気なら、心身症と言われても納得できたでしょう。ところが腰痛なのです。誰が心身症だと思うでしょうか?彼女はドクターショッピングをして、いいと言われている鍼治療、カイロ、果ては新興宗教(?)の人に祈ってもらったりと、あらゆることを試すのです。自分では物を書いて、運動をしていないから筋肉が衰えているのだと思い込みたい。でも、運動をしても痛みはおさまらない。変だと思いつつ、いくら心因性を疑われても、そうは思いたくない。壮絶な自分との戦いです。
人の縁とは不思議なもので、彼女に手をさしのべてくれる医者がいて、入院することになります。医者は彼女に作家、夏樹静子のお葬式をして、一主婦、出光静子として生きるようにと言います。絶食療法を通し、彼女は自分と向き合い、「あるがままの自分」を受け入れていくのです。そして、自分を受け入れるにしたがい、いつしか激痛は治まっていくのです。
心因性だから、どんな激痛でも起こりうるといった医者の言葉は不思議です。人間の身体の不思議にも通じます。概して東洋医学は、身体と心は密接に結びついているといいます。心が病気を作ると言います。心療内科は東洋医学的な観点を取り入れているように思います。
どんな医者に行っても病気が見つからない人は、一度心療内科に行ってみるといいかもしれません。心療内科に行くというと、自分が弱い人間だというレッテルを貼られるようで、嫌だという人がいるかもしれませんが、その思いこみが病気を作っているのかもしれません。弱い自分で良いじゃないか、と開き直れる強さが必要なのかもしれませんよ。
自分の頚椎症は彼女のように心身症から来る痛みではなく、レントゲンやMRIで異常が見つかり、よかったな・・・とちょっぴり思えました。でも、心因性といわれても、そうかも・・・と私は単純だから思ってしまったかも・・・。