西村健 『バスに集う人々』2024/06/07

バスを待つ男』、『バスへ誘う男』に続くバス旅ミステリの第三弾。
出版されていた(2023年1月)ことに気づきませんでした。
今回は章ごとに話し手が変わります。


「第一章 芝浜不動産」
元不動産屋の吉住は息子の雄也とバスに乗り、落語の『芝浜』の舞台を訪れるついでに、ある土地を見に行く。
というのも、十日ばかり前、雄也は居酒屋で出会った男と意気投合して呑みすぎて寝てうしまい、帰ろうと鞄を持ち上げると、中に大型の封筒が突っ込まれており、その中に土地の権利証が入っていたのだ。その後、その男からの接触はなく、権利証の場所に行ったが、何もわからず、困った吉住は炭野(実は奥さん)に相談する。

「第二章 津軽を翔ぶ男」
彼女が口をきいてくれなくなり、落ち込んでいた球人は、友人の行弘に誘われ、もう一人の友人、翔太と三人で二泊三日の東北地方への旅に出かける。
旅の途中、行弘はある男のことが気にかかる。同じ公共交通機関を使っていないにもかかわらず、行弘たちの行き先に同じ男が三回も現れたのだ。どうやって彼は移動したのか?不思議に思った球人たちは炭野に電話をする。

「第三章 回り回って……」
マンションの二階と三階に住む長部と垣園は路線バスの旅をする仲だ。
花好きで大田市場に行きたいという長部の希望を叶えた、路線バスの旅のコーディネイター、須賀田のおかげでデートするようになった。
大田市場の近くに野鳥公園があるのに気づいた長部の希望で「東京湾野鳥公園」にも行くようになり、そこで佐原というバード・ウォッチングが趣味の男と知り合った。
ある日、神代植物公園の帰りに、二人は須賀田に偶然出会う。ちょうどいいところに会ったと、二人は須賀田に、佐原の飼犬が最近、ある場所に来るとグルグル時計回りに回るようになったということを話す。須賀田は炭野に訊いてみると約束する。

「第四章 聖と俗」
元警視庁刑事部捜査第一課刑事の郡司が、『鬼平』の墓に所縁の場所を巡るというバス旅をしていると、後輩の元警視庁生活安全部サイバー犯罪対策課の枝波土に出会う。一緒に回った後、四ッ谷で一杯飲んでいると、枝波土は『ヒタチ荘記念館』の顧客データが流出した事件のことを話す。どうやってデータを盗み出したのか、わからないというのだ。
炭野家の奥さんの手料理を堪能する会に出席した郡司は、奥さんにこの話をすると…。

「第五章 幻惑の女」
元警察官の炭野と郡司、元不動産屋の吉住、路線バスの旅のコーディネイターの須賀田、そして未亡人の小寺は旧千住宿の雰囲気を楽しむために集まった。
旅をしながら小寺は建設会社に勤めていた夫と出会うきっかけになった「大橋プロジェクト」にまつわる苦い出来事を思い出していた。
次の日、小寺はその疑問を解くために、思い切ってかつての夫の後輩に電話をする。

「第六章 お化けの正体」
乙川は川歩きが趣味の藤倉と、暗渠を巡りに出かける。公園で休んでいると、子どもたちが「ドロケイ」をしていた。「牢屋」のことを彼らは「お化けジム」と称している。子どもに訊いてみると、ある日、朝になったらジャングルジムの向きが変わっていたそうだ。誰が何のためにジムを動かしたのか。
歩いているうちに、両面から入る二世帯住宅のことで、二人は違う疑問を持つ。
飲み会にやって来た須賀田といっしょに、三人は二つの謎を解いてみる。

「第七章 追い掛けて、博多」
妻の故郷の福岡に移り住んだ飛先のところに砺波からメールが来る。須賀田のツアー仲間で、築地市場に勤めていた芦沢が福岡に遊びに行くので、市場を案内し、元寇に興味があるようなので、元寇、所縁の場所を案内してほしいとのことだ。
飛先が妻といっしょに案内する場所を歩いていると、行った先々で同じ男を見かける。尾行けられているのか?
気になった飛先は警視庁時代の友人、炭野に電話をする。

「第八章 ”バス・フィッシャー”を探して」
炭野の家で食事会が開かれる。出席者はいつものように郡司と吉住、須賀田、小寺で、郡司の後輩の枝波土が初めて参加する。その席で”バス・フィッシャー”にまつわる話が出る。
その数日後、枝波土は炭野と郡司を”バス・フィッシャー”が出没したフリーWi-Fiスポットに案内する。するとその夜、炭野から電話が来る。”バス・フィッシャー”の件だというが…。

一作目と二作目に出てきた人たちが総動員されています。
第六章以外は最後に安楽椅子探偵の炭野の奥さん、まふるさんの推理で終わります。ホント、彼女はすごいですわ。
第二章で東京都内のバス旅の話から、行きなり青森なんかに行ってしまい、驚きました。ネタが尽きてしまったのでしょうか。
第七章で博多のバスのことが出てきましたが、東京都のバスの特殊さがよくわかりました。
第八章の”バス・フィッシャー”の話は、他のちょっとした日常の謎のものとは違い、犯罪に関することで、重苦しい最後になりました。
なんか最後だけ毛色が違い、そうする必然性があったのか疑問です。

この本は、東京都に住んでいて、あるいは住んでいたことがあり、地理がある程度わかっている人(あるいは落語好きとか『鬼平犯科帳』好き、元寇好き)にとっては面白いでしょう。
しかし、東京都の地理がわからない方にはお勧めしません。
でも、今までとは違った東京の旅をしてみたいと思うなら、参考に読んでみてもいいかもですよ。

70歳以上の、日常生活にちょっとしたイベントが欲しい方、バス旅、やってみませんか。