砥上裕將 『11ミリのふたつ星』2025/01/29

7.5グラムの奇跡』に続く、視能訓練士野宮恭一シリーズの二作目。


不器用で細かい仕事が苦手な野宮恭一は北見眼科医院で働く視能訓練士。

「第1話 さまよう星」
野宮は喫茶店「ブルーバード」のマスター、三井さんに頼まれて、日曜日にイベントの手伝いをしに行った。
マスターの三井さんと店で働くピアニスト兼ウェイターの門村さんは緑内障で、それぞれ重度の視野の欠損がある。
そのため医療従事者として予測ができない何かが起った時のサポート役を頼まれたのだ。

開店より少し早く、母親と幼稚園児くらいの女の子がやって来た。
女の子は灯ちゃんといい、門村のピアノのファンで早くピアノを聞きたかったらしい。
何気なく見ているうちに野宮は女の子の目が何かおかしいと気づく。
次の日、病院に来てもらい診察すると、交代性の斜視と診断される。
片目で世界をとらえているため、立体視ができないのだ。
四歳二ヶ月だというので、できるだけ早く訓練や治療をする必要がある。
専門の治療を行っている大学病院を紹介しようとするが、母親は通院は現実的に難しいと言う。
そこで野宮は自分でも無謀と思うことをやる決心をする。
自分が灯ちゃんの訓練をやろうと。

「第2話 礁湖を泳ぐ」
通勤途中に野宮は横断歩道にいる少年が目に入る。
信号が青に変わったのに、立ち止まったままで、彼は通りがかった男性に信号が青かどうか聞いていた。彼は視覚障碍者だ。
野宮が手助けしようと思った時には、彼はいなくなっていた。

その日の午後の診療が終わろうという時に、横断歩道で見かけた男の子が小学校の教員に連れられて来る。電信柱にぶつかったというのだ。
男の子は渉君といい、先天性の眼疾患で、少しずつ視野が欠損しているが、治療法はない。
母親は小学校の間は地元の学校に通わせることを希望しているという。
北見医師は野宮と二人で渉君の学校での様子を見に行くのを許可してもらいたいと学校に申し出る。

「第3話 向日葵の糖度」
役に立つことがあるからと野宮が広瀬先輩からもらった『キラニャン』のペンライトは重宝している。
ある日、左目が赤いカーテンがかかったみたいで見えないという女性がやって来る。彼女は『キラニャン』を描く雲母という漫画家だった。
彼女の診断結果は糖尿病網膜症。
彼女は自分は健康だと言い張り、このまま治療をしないと失明すると言われても信じようとはしない。
レーザー治療をしようと言われても、仕事があるから、目が少しでも見えにくくなるような手術はしないと言う。
マッチョな看護師、剛田が雲母を説得する。

「第4話 チェリーレッドスポット」
北見眼科医院では社員旅行としてグランピングに行った。
野宮も参加するが、夜中に天体の撮影をする丘本さんを手伝うことになる。
バーベキュー後、丘本さんと山頂に行くと、前に会ったことのあるオジサンが撮影をしていた。
ところが急にオジサンが倒れたような音がしたので、大丈夫かと聞くと、右目が突然、見えなくなったと言う。
どうも動脈閉鎖が起ったらしい。
携帯の電波が入らないので、急いで下山して、救急車を呼ぶことにする。

「第5話 11ミリのふたつ星」
野宮は久しぶりに実家に帰った。
家族のみんなは彼がまともに働けていることが疑わしいみたいだ。
親族たちと外食に出かけたときに、野宮は従弟で高校生の大輔がスマホでゲームをずっとしているのが気になった。彼の目に気になるところがあったのだ。
野宮は大輔に自分が投げたボールを50回連続して受け取れたらお小遣いをやると言ってやってみる。すると、元野球部員だというのに、大輔はボールを捕れない。
何度も投げ返すが、捕れない。
大輔はスマホ内斜視になっていたのだ。

前回の本の中に出て来た緑内障の門村さんが会社を辞め、ピアニストをしながら喫茶店で働いているんですね。
三井さんといういい人と出会えてよかったですね。
三井眼科医院みたいに地元に根付いた病院があるのは羨ましい限りです。
地方にある病院だからでしょうか。
患者も医療従事者も地元の知り合いというのはいいですよね。
このお話ではそのことが上手く活かされています。
緑内障やら糖尿病網膜症、斜視などという一生付き合っていかなくてはならない病気ではありますが、周りのサポートを得て、希望を持って生活していけるのですもの。
このお話のような世の中であって欲しいと思います。

斜視について、よく知りませんでした。
この本を読んで、斜視は放っておいてはいけないものだということがわかりました。
幼いお子さんがいらっしゃる方は第1話が参考になります。
子供の場合は三歳から訓練を始めることが望ましいそうですので、注意してください。
三歳児健診で斜視であることを見逃せられることがないといいですね。

スマホ依存症という言葉があるぐらい、街中や電車の中でスマホをいじっている人が沢山います。
目に悪いと言われていますが、視力が落ちるぐらいかなと思っていたら、そうではないのですね。
スマホ内斜視についてはネットで調べられます。
面倒な方はこちらをご覧下さい。

ぶっちゃけ、北見眼科医院のような眼科は現実にはないと思った方がいいでしょう。
個人病院で斜視の子の訓練をやってくれる視能訓練士なんていないでしょう。
それに眼科医が自分の患者の子の様子を見に学校に行くなんていうこともないでしょう。
時間もお金もかかることですからねぇ。
でも、どこかにそんな視能訓練士と眼科医がいてくれたらいいなぁと思います。
あくまでも細やかな望みですけどww。

本の中から心の残った言葉を書いておきます。
スバル360という古い車が好きな北見先生の言葉です。

「私はね、そういうのが好きなんだよ。何か駄目でもね、それでいいんだ。駄目って悪いことばっかりじゃないよ。ゆっくりでも、頑張ってまっすぐに進んでいるようなものがいいと思うんだよ。急がなくてもいいと思ってね。皆が急ぐから私はゆっくり行こうと思って。だから車も速くないのが好きなんだ」

「上手くいかない道のりってのは、ごめんなさいも増えるけれど、ありがとうも増えるからね。なんでも自分一人でできるようなものだと、周りとの関わりも気薄になっちゃうからね」
 
前作の『7.5グラムの奇跡』を読んでいなくても大丈夫です。
気になるお話があったら、読んでみて下さい。
詳しくはここに書いていませんが、灯ちゃんのことから次々に人と人とが繋がっていきます。
砥上さんの優しい世界が私は好きです。

コメント

_ ろき ― 2025/01/30 22時53分31秒

この作家さんもリサーチすごいね。
私は年明け早々くらいに突然飛蚊症がひどくなり、「も、網膜剥離?」とパニクって(眼鏡屋付属のクリニックで)診てもらいました。
ただの「老化」だったわw
親身になってくれる眼科医がいると頼もしいですよね。実際は名医の病院は激混みで、難しそう。

_ coco ― 2025/01/31 14時31分39秒

ろきさん、飛蚊症は嫌ですね。気になりだすと、ずっと気になりますよね。
「当たり前に見えるということは奇跡のようなものだ」と本当に思いますわ。
親身になってくれる眼科医、いればいいですけど、どこも患者が多くて、親身にするほどの暇がないというのが現実でしょうね。
この頃、診察は5分もかからずに終わる方がありがたくなりました。病院は疲れます。

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