泉ゆたか 『世田谷みどり助産院』&『世田谷みどり助産院 陽だまりの庭』2025/04/27



≪みどり助産院≫は世田谷線上町駅近くにある”母乳外来”専門の助産院で、おっぱいの悩みを抱えているお母さんの駆け込み寺だ。
助産院には”おっぱい先生”と呼ばれる助産師の寄本律子と見習い看護学生の田丸さおりの二人がいる。

やって来るのは自分は母親として失格ではないかと悩み、誰にも助けを求められず、自分を追い詰めている母親たち。
高齢出産の完全母乳を目指している高校教師、母乳が出なくなったことに戸惑う母親、乳腺炎になったシングルマザーの法律事務所の弁護士、突然死で赤ちゃんを亡くし、母乳がとまらない母親、産後鬱なのに認めようとしない女性、母乳の分泌量の低下と夫の扱いに悩むキャリアウーマン、娘がダウン症であるという現実に向き合うのを避けている母親・・・。

おっぱい先生が悩んでいる母親たちに寄り添い、支え、彼女の言葉が母親たちに力を与える。

「お母さんがひとりで育児を抱え込むことは、美徳でもなんでもありません」
「育児に完全な失敗はないということです。いつからでも、いくらでもやり直しがききます」
「育児に正解はありません」
「子どもを育てるというのは、常に自分の選んだ道が正しかったかどうかという心配をし続けることだと思います」
『不安なときは、情報は人に訊く』
「私は人生というのは、ただこの世界を楽しむためにあるのだと思っています。それをわかっている人の笑顔は、周囲の人たちを心から幸せにします」

子育てをこれからしようと思う若い夫婦が読むと、役に立つのではないかと思います。
特に男性に読んでもらいたいです。
出産は全治数ヶ月の交通事故と同じくらいのダメージを身体に与えるそうです。
あなたの奥さんは大変なんですよ。
子育ては夫婦二人のチームでしていくものです。
お母さん、頑張り過ぎないように。

桜木紫乃 『人生劇場』2025/04/11



猛夫は昭和十三年に室蘭の蒲鉾職人の新川彦太郎とタミ夫婦の四人兄弟の次男として生まれた。
タミは長男の一郎だけを可愛がり、猛夫たちが一郎に苛められていると言っても信じず、告げ口すると反対に叱りつけた。
どこにも行き場のない猛夫の唯一の居場所は、タミの十五も年の離れた姉、カツのところだ。
カツは幕西の置屋にいたのを夫に身請けしてもらい、商才があったようで、夫の魚屋から駅前食堂へと商売の幅を広げ、松乃家旅館の女将にまでなった。
妹が生まれてから、猛夫はカツの元で暮らすようになる。
カツは猛夫を養子に欲しかったが、タミは許さなかった。

中学校卒業後、カツは高校進学を進めたが、猛夫は理容師になるために札幌に出る。しかし、馴染めず、挫折して室蘭に戻る。
昭和三十年の春、新川一家は長男の一郎が作った借金のため夜逃げする。
一郎は一人で行方をくらまし、猛夫は何も知らされず、置いてきぼりだった。
病気のカツのために、立ち直った猛夫は旅館の近所にある、猛夫が理容師になろうと思うきっかけになった藤堂の理髪店で床屋の修行を始める。
二十歳になる年の春、猛夫は理容学校の通信教育を終える。
あとは国家試験に受かるばかりというときに、カツが亡くなる。

釧路にいた兄の一郎が交通事故で死んだという知らせが来る。
藤堂に諭され、猛夫は釧路に行く。
猛夫は父の彦太郎が言ったことに驚く。
「お前は今日から、新川家の長男だから…」

一郎の借金と一家の出奔ゆえに室蘭で店を持てない猛夫は、釧路にある藤堂の兄弟弟子の島原の店で国家試験に合格し、独立するまで世話になる。
店を持つと同時に国家試験の同期会で知り合った杉山里美と結婚する。

理容師として独立して子が出来ても、猛夫は落ち着かず、金を散財し、気にくわなけりゃ里見を殴る。
八方ふさがりの人生。
生きる拠り所は、カツの旅館で働いていた駒子だけ。

その先にあるのは何なのか…。


猛夫のモデルが桜木さんの実父だそうです。
自分の父親をよくこれほど客観して書けましたね。あっぱれです。

人間は親に愛されなくても、他に愛してくれる人がいればどうにかなると思いたいのですが、猛夫は最後まで駄目でしたね。
カツや駒子の愛情は無駄だったのでしょうか。
女たちに甘えるばかりで、カツが亡くなってからの猛夫は本性が出てしまったのでしょうか。里見に対するDVには驚きました。
まあ、最後の最後には落ち着いたようですが、里見はよく辛抱しましたね。
今なら手に職を持っているのですから、猛夫はすぐに捨てられたでしょう。
昭和では離婚は滅多にできませんものね。
昭和って男が好き勝手をやり、女は耐えるという時代だったのでしょうか。
自分の両親はどうだったのか、思い返してみますが、そういうところがあったかどうか、覚えていません(恥)。
とにかく里美と結婚してからの猛夫には呆れるばかりで、同情も共感も何もできません。
こういう人もいるんだろうなぁと達観視するしかないですね。
里見は生身の女で、カツと駒子は菩薩です。

いかにもずっと待っていた桜木姐さんの作品という感じです。
一人の馬鹿な男の人生航路を楽しんで下さい。



中脇初枝 『天までのぼれ』2025/04/05

ママとわんこたちと、パパママとわんこたちでお散歩する時は道が違います。
今日はみんなでお散歩。
桜をわざわざ見に行かなくても、満開の桜が見られました。


桜でも一本の木に赤白二色のものがあります。


「源平咲き」というそうです。
椿も赤白二色の「源平咲き」がありました。


もとは赤色で遺伝子の突然変異で白い花が咲くようになったそうです。


自然って不思議ですね。


「ママ、知らなかったの?」


日本で最初に婦人参政権を要求した民権運動家の楠瀬喜多のお話です。


天保7年(1836年)、喜多は米穀商を営む西村屋の父、儀平と母、もとの長女として生まれる。
背がのびず、歩くのも人より遅く、一度に二つのことができない質だった。
六つの時に八つと歳を偽り、小僧の吉乃丞といっしょに手習いを始める。
そこで一生の友である、山内家家臣徒士、池添吉右衛門の娘、あやめと出会う。
喜多は読み書きや算術、縫い物などが得意だった。
だが弟が生まれたので、手習いはやめ、琴や三弦を習いに行くが全く才能がなかったので、再度、手習いに行くことにする。
そこで猪之助と男衆の實と出会う。
猪之助は家禄が二百七十石の士格である馬廻の乾家の惣領であったが、身分を偽って喜多が学ぶ手習い塾にやって来た。
猪之助は字を書いたり読んだりが苦手なのを隠していた。
しかし、人が読んだのを覚え、すらすら言うことができたので、誰も気づいていなかった。
聡い喜多はそれを見抜いていた。
喜多は實から頼まれ、猪之助に字を教えることになる。

喜多は男子のように四書五経を学びたかったが、おなごであるので、劉向列女傳を学ぶように言われる。
喜多の気持ちを知った實は論語を喜多に貸してくれた。
劉向列女傳を読んだ喜多は論語との違いに驚く。
やがて喜多の親が猪之助の素性を知ることとなり、猪乃助は手習い塾を去る。

猪之助を見かけなくなってから一年以上経ったときに、喜多は土俵にいる猪之助を見かける。
その時に實に話しかけられ、借りていた論語を返す。
すると、實はまた猪之助に手習いを教えて欲しいと頼む。
喜多は月に一回、十日に要法寺でいっしょに手習いをすることにする。

あやめは美貌で有名で、十九になり、御用人の山崎の惣領、厳太郎に嫁ぐことになる。
山崎家は厳格な家だったため、あやめは自由に家の外へは出られず、嫁入りの日から、二人は会うことはなかった。
喜多ははなび(生理)がないため、嫁にいけずにいた。
猪之助は喜多に嫁にきてくれと言うが、喜多は自分は石女だからと断る。
母のもとは喜多が望めばどこへでも嫁がせたいと思っていた。

寅の大変(1854年の安政南海地震)が起こる。
喜多は家族とはぐれるが、實と遭遇し、助けられる。
この時、喜多は實に対する自分の気持ちを知る。
猪之助は免奉行加役になり退助正躬という名を名乗り、祝言を挙げたので、喜多をめかけとして欲しいと言ってくる。
喜多の気持ちを知る母のもとは自分の寿命が短いことを悟り、實に喜多のことを頼む。
喜多と實のことを知った退助は、喜多に幸せになってほしい、實には親以上の恩があると言い、身を引く。

1854年に結婚してからも實は退助に付いていき、喜多と過ごす時は少なかった。
1874年に實が亡くなり、喜多は西村屋の戸主になる。
戸主であるからと高知県区会議員選挙に行くが、おなごは選挙人になれないと言われ、投票できなかった。
納得できない喜多は税金を納めるのを止め、県庁に抗議文を送る。

それ以来喜多は立志社の政談演説をかかさず聞きに行き、自由民権家と交流し、彼らの世話をするようになる。
出家した喜多は売り飛ばされそうな娘を買って、女子師範学校に通わせたり、家や土地を売り、貧しくて学校に行けない子どもの授業料を肩代わりしたり、育院を作ったりした。

本の中の喜多の言葉。
「わたしは自分で仕合わせになるき」
「思う人ひとりを思いきれんで、天下国家の何がわかるいうがでしょう」
「ほんまの権利いうものは、その人がその人らしゅうに生きることができる、いうことでしょう」
「世界はどこかにあるのではなくて、自分のいるところから広がっていくのが世界だ」

本を図書館に返してしまいメモを見て書いたので、間違った記述があったら、すべて私の間違いです。
400ページ以上もある大作で、中ごろまで面白く読んでいたのですが、實が亡くなってからの後半が私には読みずらかったです。
NHKの朝ドラに”民権ばあさん”として出てきたらしいのですが、ドラマは見ていないので知りませんでした。
高知は、様々な偉人を生み出した土地なのですね。
喜多が生きていた時代をちゃんと学ばなければと思いました。

板垣退助は自由民権運動の人としてしか認識していなくて、自由民権運動がどんな思想をもとにしているのかも知りませんでした。
退助はいい人だったようですが、それでも子を産めない喜多といっしょになるために、子を作るために他の女性と結婚し、喜多を妾に欲しいなんてねぇ…。
この頃はそういうものだと言われても、納得できません。

この本を読んで、伊藤博文のことがますます嫌いになりましたww。
政治的駆け引きなんでしょが、やり方が汚いです。
女性に対してもひどい奴だったようですし。

喜多の実家の商売は車力の人夫頭だったという説もあるようです。
退助と手習い塾で出会ったこと、退助が読み書きできず、他の者に手紙を書かせていたこと、夫の實が退助の男衆だったことなどは本当のことなのでしょうか。それとも中脇さんの創造なのでしょうか。
ネットで調べてみてもわかりませんでした。

日本が近代国家に変わろうという時に、喜多のような女性がいたことに驚きました。
分厚くて手に取るのを躊躇してしまいそうな本ですが、女性問題に興味がある方は是非読んでみて下さい。

原田ひ香 『月収』2025/03/29



「第一話 月収四万円の女 乙部響子(66)の場合」
乙部響子は一年前に離婚してひとり暮らしをしている。
娘の時衣は結婚していて、孫がひとりいるが、婿があまり口出しをするなという感じだ。
離婚した時に賃貸アパートを借りようとして断られ、不動産屋にたきつけられて三百万で家を買ってしまう。
年金は四万円だが、国民健康保険料と介護保険料を払うと三万円になる。
わずかな貯金が残り少なくなり仕事を探そうと思っているが、何ができるのか。
ある日、家に全身刺青の若い男がやって来る。

「第二話 月収八万円の女 大島成美(31)の場合」
大島成美は鳴海しま緒というペンネームで、三年前に純文学系の文学新人賞を取った。
派遣社員として働いているが、年収が二百万円台だったため、単行本が売れ、七百万ほどの現金が手に入って嬉しかった。
しかし、それからがいけなかった。
作品を書いても書籍にはならないのだ。
自分は職業作家にむいていないのではないかと思い始める。
そんな時に、同年代の小説家に誘われて出席したパーティで実業家の鈴木菊子に出会う。

「第三話 月収十万円を作る女 滝沢明海(29)の場合」
滝沢明海は一流自動車メーカーの子会社に勤め、新規事業の美容家電の企画と試作の仕事についている。
だが、母親は明海の仕事を理解せず、転職しろと文句を言う。
なにしろ働いたことのない女で、離婚した後も元夫のキャッシュカードを使っているのだ。
このままで行くと母親の介護をしなければならなくなる。
そんなのは嫌だ。仕事は続けたい。
先立つものは金だ。
明海は五年だけ新NISAで投資をしようと思い立ち、独身寮に入り、住居費を節約することにするが・・・。

「第四話 月収百万の女 瑠璃華(26)の場合」
瑠璃華はデートクラブに所属し、パパ活で稼いでいる。
20代のうちに一億稼ごうと決めている。
ある日、マネージャーから変わった依頼を紹介される。
鈴木菊子という小説家がご馳走するし、お金のサポートもするから、パパ活している女性の話を聞きたいというのだ。
何度か会い、食事をするが・・・。

「第五話 月収三百万の女 鈴木菊子(52)の場合」
鈴木菊子は武蔵小杉のタワーマンションに住んでいる。
夫が亡くなった時に、渋谷の一棟ビルと株や投資信託などの有価証券を受け継いだ。
それに自分の金融資産を含めて、ひと月に三百万ほどの金が入る。
しかし、何もすることがない。
いつものように、朝の株価チェックのあと、SNSを眺めていると、タケトという若い不動産投資家の物品援助を求める投稿が目に溜まった。
菊子はタケトに寄付をすることにするが・・・。

「第六話 月収十七万の女 斉藤静枝(22)の場合」
介護士の斉藤静枝は訪問介護の仕事をしているうちに、高齢者の部屋の「生前整理」を専門にする仕事を思いつく。
ある日、同じく起業をしようとしている友だちに誘われ、女性の起業を助ける会に参加してみた。
すると、前に会ったことがある鈴木菊子がいた。
会が終わった後、二人はいっしょにお茶を飲むことにするが・・・。

月収が異なる女性たちのお話ですが、それぞれに色々とあり、お金の多少を問わず人って満足することがないんだなと思いました。
特に身に沁みたのが、年金が四万円という乙部響子さん。
四万円じゃ、私暮らしていけないよ。
これから物価がどんどん上がっていくと、年金だけで暮らしていけるだろうか。
もっと暮らしを縮小しなくては、でも旅行には行きたいわぁ。
鈴木菊子さんなんか、悠悠自適の生活ができるのに、なんでと思います。
若い人たちをバックアップしていくのを老後の楽しみにしていくのでしょうかね。
斉藤静枝さんには頑張れとエールを送りたいです。
「生前整理」、してもらいたいですものww。

原田さんの本は明るくていいです。
これからの自分の生活を考えさせられるお話でした。


<お花見と美味しいお料理>
お花見にはまだ行っていませんが、お花見箱膳というものを食べに行ってきました。



一の膳と二の膳にご飯と汁物がついていました。


桜が五分咲?
夜桜は携帯で撮り難いですね。
明日は晴れるらしいので、犬連れで花見にでも行きましょうか。

岩井圭也 『夜更けより静かな場所』2025/03/28

六編からなる短編集。


「真昼の子」
夏季休暇中に暇をもてあました大学三年生の遠藤吉乃は父親の兄、茂の営む古本屋<深海>を訪れた。
伯父におすすめの小説を訊くと、ロシアの作家が書いた『真昼の子』を勧められた。
読んでみると面白くて、一晩で読んでしまった。
次の日も<深海>を訪れ、似たような小説か同じ作者の小説を読みたいと伯父に言った。
それから吉乃は<深海>に通うようになる。
ある日、伯父に読書の楽しみを共有できる機会がないことを愚痴ると、伯父は読書会を開いてみようと言い出す。
読書会は深夜〇時から二時までで、メンバーは伯父さんと吉乃を含めて六人。
課題図書は『真昼の子』。
吉乃には恋人がいた。その恋人はゼミの准教授で、妻子がいた。
『真昼の子』を読んでから吉乃のこころは変化していく。

「他人がどう言おうと、自分にとって大切だと思える一文に出会うためにわたしは本を開く」

「いちばんやさしいけもの」
真島直哉は元野球部員。プロを目指していたが、イップスになり、野球を止めたが、退部届けは出していない。親にも言っていない。
同級生の吉乃のことが好きだ。彼女が読書会のことを話しているのを聞きつけ、読書会に押しかけた。
彼が選んだ課題図書は絵本、『いちばんやさしいけもの』。

「能力と生きる価値の間には、いっさい関係がない」

「隠花」
安井京子は非正規の図書館司書で<深海>の常連客。
新卒から勤めているのに、月給は18万円から上がらない。
母から家に帰るなら、家は売らないと言われたので、それなら売れと言うと、男はいないのか、元夫とはどうなのかと訊かれる。
彼女が選んだ課題図書は詩集「隠花(いんか)」。

「自分を信じている限り、花は萎れない。誰だってそうだ」
「幸せではないが、もういい」

「雪、解けず」
中澤卓生はグラフィックデザイナーで、<深海>の常連客。
実の父親は病気の母を捨て、子を置き去りにした。
その父からSNS経由で会いたいと連絡が来る。
彼が選んだ課題図書は歴史時代小説「雪、解けず」

「登場人物への共感は、必要でしょうか」

「トランスルーセント」
国分藍は元ヴァイオリニスト。7歳でヴァイオリンを始め、大学でプロになれないことを悟り、音楽教師になるが、学級崩壊し、一年で辞めた。
緩い<深海>でバイトとして働き始めてから三年が経つ。
ある日、店主の遠藤から楽譜を渡される。
それは戦後日本を代表する作曲家が書いた無伴奏ヴァイオリン曲<トランスルーセント>の自筆の楽譜で、販売価格が二百万というものだ。
今度の読書会で弾いて欲しいというのだ。
三年間、ヴァイオリンに触れていなかったが、国分は弾くことにする。

「美しい音だけが音じゃない。がむしゃらに生きていれば、雑音も出るし騒音も立つ。それが当たり前なのかもしれない」

「夜更けより静かな場所」
吉乃は最後の読書会から八カ月経つが、伯父とは会っていなかった。
就職の内定がなかなかもらえず、やっともらえたのが七月で、それから卒論の執筆で忙しかったからだ。
久しぶりに<深海>に行き、片付けていると、伯父が書いた自伝『夜更けより静かな場所』が見つかる。
初めて知る伯父の過去・・・。

「居場所は必ずしも探すものじゃない。自分でつくったっていいはずだ」
「誰もが、選択と偶然の連続を生きている」

吉乃は「小さな選択」をする。


岩井圭也の本を読んでいないと思っていたら、読んでいました。
最後の鑑定人』とか『プリズン・ドクター』のようなミステリを書いていたのですが、今回はミステリではありません。
意外でしたが、とても好きなお話です。
読書会に参加したことがありませんが、こんな読書会なら参加してもいいかもしれませんね。
課題図書は架空の本ですので、探さないようにしましょう。
もしあるなら、私は『真昼の子』を読んでみたいです。

簡単に言うと、本の中の登場人物たちが本や楽譜などを通し、自分を見つめ直し、ある選択をしていくというお話です。
最後の伯父さんのした選択はよくわかりませんでした。
理由のない、漠然としたものからそうしたのでしょうかね。(ネタバレになるので詳しくは書きませんが)

特に本好きな方におすすめしたい作品です。

小湊悠貴 『若旦那さんの「をかし」な甘味手帖 北鎌倉ことりや茶話 1~2』2025/03/22

美味しそうな表紙買いですw。


『若旦那さんの「をかし」な甘味手帖 北鎌倉ことりや茶話』
秋月都は25歳。東京の調理師専門学校に通った後に保育園の調理師になり、転職して一年ほど「花園家事代行サービス」に勤めている。
調理師免許を持っているので、料理の担当だ。

休日に独り暮らしをしているアパートで料理を作っていると、会社から電話が来た。
最年長スタッフの佐伯がギックリ腰になってしまい、代わりに新規のお客さんでお試しプランの料理を希望している方のところに行ってもらえないかというのだ。

北鎌倉の羽鳥家は花桃屋敷と呼ばれていて、羽鳥一成と各務恭史郎というふたりの男性が住んでいた。
一成は和服を着た無表情の男性で、恭史郎は背の高い、青年実業家というような男性だった。
一成は和菓子職人で、恭史郎とふたりで、店頭販売をやっていない、ネット販売と受注専門の和菓子屋を営んでいるという。
実は都の父親は山梨県で和菓子職人をしているのだが、都は和菓子に嫌な思い出があり、和菓子は苦手だった。
その日、都は依頼人のリクエストでアジフライを作り、料理が気に入られ、定期契約プランを契約する約束をしてもらえる。

都は羽鳥家で働くうちに和菓子への苦手意識を克服し、一成のめいの家出や甘味処「ことりや茶房」の再開などに関わっていくことになる。

『若旦那さんの「をかし」な甘味手帖 2 北鎌倉ことりや茶話』
「桜の章」
都が羽鳥家で働き始めてからもうすぐ一年になる。
茶房の接客担当の一成の姉、瑠花が急用で来れなくなり、都は小料理屋のバイトの経験があることから、急遽、瑠花の代わりを務める。
「藤の章」
恭史郎は花桃屋敷に引き籠もった一成と十数年ぶりに会話をかわし、彼の和菓子に感動し、いっしょに菓子工房をやることになったことを思い出す。
都と恭史郎、そして瑠花の娘のまりなの三人がチケットをもらったのでテーマパークに行く。
「牡丹の章」
茶房で新しいバイトを雇う話が出、都は月に二回、隔週の日曜にバイトをすることになる。
都が家事代行の担当をしている石川苑美は姉にコンプレックスがあった。しかし、姉と鎌倉をいっしょに回るうちに、偶然に「ことりや茶房」に入り、いつしか姉に対するわだかまりがなくなっているのに気づく。
「若葉の章」
一成は老舗料亭の跡取り息子の志貴和仁から常連の客の宴席で出すデザートを依頼される。志貴の料亭が贔屓にしている和菓子屋は一成の兄の店、「翡翠堂」で、一成のデザートが採用されなければ、「翡翠堂」のものになるという。一成のデザートは採用されるのか。

お話はほんわかしたもので、スイスイ読めます。
とにかく美味しい和菓子が出てくるので、嬉しくなります。
「ことりや茶房」のパフェと洋風どらやき、食べてみたいですわwww。

新川帆立 『ひまわり』2025/03/19

今朝、雪が降っていたので、積もるのかと期待したのですが、止んでしまいました。
今年は1回も積もらないみたいです。


昨日のお散歩で、蕾だったのに、もう咲いています。


ちょうどいい具合に菜の花が咲いていたのですが、兄はクンクン匂いを嗅ぐだけで、こっちを向いてくれません。
河津桜とヨーキー弟の写真は撮ったので、兄も撮ろうと思いましたが、無理でした。


河津桜のところに来ても匂い嗅ぎを止めません。
そういえば弟は兄のように匂い嗅ぎをしません。
兄は弟よりも舌と鼻が敏感なのかもしれませんね。


カメラを向けると、横を向いてしまいます。


これもダメです。
みなさん、わんこがちゃんと前を向いている写真があったら、そのわんこはすごいんですよ。
それともうちの兄がダメわんこなんでしょうか?
この日の夕食後、兄、ご飯を吐いて、う〇ちが緩かったです。
寒さか疲れからか?
前期高齢者になると、犬も病気になりやすいのかしら?



朝宮ひまりは大学卒業後、総合商社に就職し、約十年間、小麦を扱う部署で働いてきた。
しかし、三十三歳の時に交通事故にあい、頚椎を損傷し、四肢麻痺となる。
リハビリを重ねたが、二十四時間体制でヘルパーが必要な状態になる。
会社に戻りたいと希望したが、ヘルパーが一緒だと、守秘義務を守れない可能性があるため復職は難しいと告げられ、退職を余儀なくされた。
転職、求職活動をするが、仕事は見つからない。
役所の就労支援相談では、生活保護の申請をすすめられる。
そんな頃に、検察官をしている友人から司法試験を受けて弁護士になったらどうかと言われる。
クライアントが満足する仕事をしさえすれば、性別も経歴も関係ない。
そういう場でなら、自分の能力を発揮できる。
そう思ったひまりはロースクールに通い、司法試験を受験することに決めた。
しかし・・・。

本書には四肢麻痺の症状やリハビリ、サポートの必要性、国や住んでいる自治体による介護福祉制度や就労支援制度の現状、ロースクールや司法試験の仕組みなど色々とリアルに書いてあります。
新川さんは弁護士なので、ロースクール入学前後以降は自分の体験を踏まえているのでしょうが、四肢麻痺に関することは誰に取材したのかと気になっていました。
そうすると、本の最後に実際に頸髄を損傷し、四肢麻痺の障害を負いながら、日本で初めて音声認識ソフトを使用して司法試験を突破して、弁護士になられた方がいて、協力していただいたと書いてありました。
菅原崇さんという方で、詳しく知りたい方はここを見てみてください。

障害があろうがなかようが、弁護士であろうがなかろうが、大事だと思ったことがあります。

「法律家は言葉のプロです。(中略)言葉のプロとして、言葉の力を信じなさい。言葉があるかぎり私たちはつながれる」
「でも言葉に希望を託すしかない。それが僕たち法律家の戦い方だ」

理不尽だとか不当だとか思ったことがあったら、声をあげようということです。
どうせ言っても無駄だと思って言わないでおくと、そのままになって続いていくのです。(特にお役所はそうかもww)
それに言わないでいるとわからないので、助けようもないものね。

私なんかはすれているので、ひまりは恵まれているし、彼女の成し遂げたことは誰もができることではないなぁとちょっぴり思いました。
とにかく知らなかったことが沢山書かれていたので面白かったです。
新川さん、『女の国会』から少しずつ路線を変えてきているのね。
ひまりがちょっと剣持麗子のように思えてしまいましたけどww。
読んだのがこちらの方が後ですが、『目には目を』より先に出版されています。

私のような年配の方よりも、若い方々に是非読んでいただきたい本です。

小路幸也 『バイト・クラブ』2025/03/18



<カラオケdondon>の七号室は<バイト・クラブ>の部室。
<バイト・クラブ>に入るための資格はたったひとつ。
【高校生の身の上で<暮らし>のためにバイトをしていること】

初めは<カラオケdondon>でバイトをしている紺野夏夫だけだったが、いつの間にか五人が集まるようになる。
みんなで仲良くやっていたのだが、ある日、とんでもない事件が起こり…。

登場人物が多い上に、誰と誰が同級生とか先輩とかと関係が入り乱れているので、記憶力に自信のない私には大変でした。
そういう方のために、登場人物をまとめてみました。
読む時に参考にしてくださいね。

<バイト・クラブの仲間>
紺野夏夫:県立赤星高校三年生。<カラオケdondon>でバイトをしている。
父はヤクザらしいが、会ったことはなく、母子家庭で育つ。父親から金を貰っているようだが、自分の小遣いは自分で稼ぐことにした。
菅田三四郎:受験校の私立蘭貫学院高校一年生。<三公バッティングセンター>でバイトをしている。中学校で野球をしていたが、ヘルニアになり、中二で止める。家の運送会社が倒産したので、自分の小遣いや交通費を稼ぐためにバイトをしている。学校はバイト禁止だが、担任がうまく隠してくれている。
渡邊みちか:県立赤星高校二年生。ファミレスでバイトをしている。祖母と母親と三人暮らし。母親の具合が悪くなり、バイトを始める。
坂城悟:県立一ノ瀬高校二年生。ガソリンスタンドでバイトをしている。母は東京でホステスをしているので、祖父母と暮らしている。
田村由希美:私立榛学園一年生。<花の店マーガレット>でバイトをしている。三四郎の幼馴染み。両親が離婚し、父親といっしょに住んでいる。学校はバイト禁止ではないので、自分のことは自分でしようと思い、バイトを始める。

<この五人と関わる大人たち>
筧久司:58歳。<カラオケdondon>のオーナー。昔、お寺の書道教室の先生の尾道というお坊さんがバイトをしながら学校に通っている子供たちに場所を与えていた。その時、お世話になったので、自分もそういう場所を作ってみようと思い、自分の店の七号室を<バイト・クラブ>のために解放している。
尾道広矢:35歳。尾道グラフィックデザイン代表。グラフィックデザイナー。書道の先生の孫で元高校球児。
塚原六花:35歳。私立蘭貫学院高校の教師で、三四郎の担任。広矢とは高校の同級生で、17年ぶりに再会する。
紺野志織:夏夫の母親。六花とは高校の同窓生で、二つ上。
長坂康二:夏夫の父親。
河野良純:ガソリンスタンドのオーナー。長坂とは小中の同級生。
渡邊なみえ:みちかの祖母。
渡邊さより:みちかの母親。志織の三つ上の先輩。
黒川優馬:さよりの同級生。
野呂希美:42歳。<花の店マーガレット>の社長。由希美の父親、健司の元同僚。
西森茂二朗:85歳の野球好きのおじいさん。

何が起こるのか、ワクワクしながら読みましたが、期待したほど大したことではなくて、ちょっとガッカリしました。
まあ、小路さんですから、人が傷つかない、ほっこりしたお話です。
それが小路さんのいいところですから、仕方ないんです。

この本の中のいい言葉を載せておきます。

「どうしようもないことを考えても本当にどうしようもないのよ」
その通り。グダグダ考えずに行動しろ。

「親を選んで生まれてくることはできないっていうけどさ、違うよな。そこをスタート地点にして生まれちゃったけど、ゴールは自分で選べることにちゃんと気づけってことだよな、きっと」
親ガチャがどうした。親なんか関係ない。自分の人生だ。自分で考えて進め!

この本もYAの若い人たちにお薦めです。

髙田郁 『星の教室』2025/03/17



大阪に住む潤間さやかは、中学1年生の二学期半ばに、同級生の暴力により肋骨を骨折し、ひと月入院した。
苛めのことは親にも教師にも言わず、不登校を通し、卒業証書は受け取らず、中学校を中途退学した。
高校を卒業する歳になり、アルバイトでもいいから働こうと思ったが、履歴書を求められる度にバイトを辞めた。
今のバイト先のレンタルビデオ店「アガサ」は珍しく三ヶ月も続いている。

そんなある日、さやかは七十前後の女性に夜間中学校が舞台の映画があるかと訊かれる。
店長の緒方が知っていた。
その時、緒方から隣町にある河堀中学校に夜間中学校があると知らされる。

さやかは夜間中学校に行ってみた。
まだ中学校に行くことが怖い。学校の中には入れない。
フェンスで囲まれた校庭伝いから帰ろうとしてグランドを見ると、体育の授業をしていた。
服装も年齢もバラバラで、とても学校の授業とは思えなかった。

それから一週間毎日、バイト後にさやかは河堀夜間中学校に行き、フェンス越しに授業の様子を見ていた。
ところが、あることがきっかけとなり、さやかは河堀夜間中学校に入学することに・・・。
さやか、二十歳の春だった。

さやかが仲良くなった生徒たちには様々なバックグラウンドがある。
グエン・ティ・スアン:日本人と結婚して日本に来た。英語はさやかと同じ授業だが、識字クラスで学んでいる。
正子ハルモニ:在日。車椅子で学校に来ている老女。
遠見巌:宮古島出身の腰痛持ちの初老の男性。
山西蕗子:中国残留孤児。面倒見がよく、さやかが夜間中学校に入るきっかけを作った恩人。
松峰健二:23歳の五分刈りの青年。料理店に住み込んで修行をしている。

先生方も個性豊かだ。
江口先生:さやかのクラス、二年三組の担任で体育教師。
鈴木先生:みんなから慕われている養護教諭。
田宮先生:社会科教師。
吉村先生:1年4組の担任。国語教師。M教(問題教師の略)

用瀬裕という漫画家が取材に来る。
彼は二十年以上も前、高校一年生の時に苛めに遭い、高校を中退。その後、漫画家としてデビューし、『ハイスクールぶるうす』を描き、一世を風靡した。
人生を『生きなおしたい』と思い、東京から大阪に居を移している。

いい仲間たちと信頼のおける大人たちに囲まれ、さやかの頑な心がほどけていき、やがて叶えたい夢を持つようになる。

髙田郁さんは時代小説を書く方だと思っていましたが、そうでもないのですね。
あとがきによりますと、この本は漫画原作者時代の2001年に連載したものを土台にしているそうです。
ですから2001年から2002年のお話です。

夜間中学校に通う人たちは、AIがまとめてくれましたが、戦後の混乱期に学齢期を迎えたため学校に通えなかった人や不登校などの諸事情により、学校に通えないまま中学校を卒業した人、日本や本国で義務教育を修了していない外国籍の人、経済的な困窮などの理由で昼間に就労や家事手伝いを余儀なくされた人などがいます。
2020年の国勢調査によると、義務教育未修了者は約90万人。
2024年10月では全国で53校の夜間中学校があります。
2024年5月の生徒数は1969人で、外国籍の生徒が1256人(中国やネパールが多い)で日本国籍は713人。39歳以下の若年層が1114人。
今はこの本の夜間中学校と少し様子が変わっていると思いますが、こういう人たちがいるということを心の片隅にでも置いておいてください。

本の中のいい言葉。
「『学び』とは、誰にも奪われないものを自分の中に蓄える、ということなのか。
誰のためでもない、自分のために。自分の人生のために」

なお、夜間中学校が舞台の映画とは山田洋次監督の「学校」です。
もし夜間中学校に興味を持ったなら、この本を読んで、映画を見てみてください。
若い人たちに読んでもらいたい本です。

寺地はるな 『雫』2025/03/14



2025年春、老朽化した高峰ビルの取り壊しのため、リフォームジュエリー会社『ジュエリータカミネ』は営業を終了する。
『ジュエリータカミネ』のジュエリーデザイナー、永瀬珠は次の仕事を決められずにいた。
『ジュエリータカミネ』は、高峰能見が父親の死後、宝石店をリフォームに特化したサロンにしたものだった。
永瀬がデザインしたものを木下しずくが、高峰ビルにあった『コマ工房』の冶金職人として形にしていた。しずくは、今、星母島という離島に住んでいる。
他に高峰ビルに『かに印刷』が入っていた。『かに印刷』には、上司のパワハラによって会社を辞めた森侑が勤めていた。

永瀬、高峰、しずく、森の四人は中学校の美術の授業で同じ班になり、卒業制作で永遠を表す「雫」がモチーフのレリーフづくりをした。
それ以来、30年間、共に過ごした仲間だった。

2025年から2020年、2015年・・・1995年までと五年ずつ時が遡っていきます。
生きるのが不器用な四人が30年間のままならない人生をどのように生きていったのでしょうか。

私がこの物語で一番印象に残ったのが、美術の田村先生です。
彼と出会えた四人は幸運でしたね。

主人公の永瀬珠は独りでしっかりと立っている人です。

「変化しながらゆるやかに繰り返し、続いていくことを「永遠」と呼ぶのだから、終わることも、変わっていくことも、離れることも、なにひとつ悲しいことではない」

「大切なひととふたりで歩くのが幸せな人も、たくさんの人に囲まれることに喜びを感じる人もいるだろう。でもわたしはひとりで歩くほうがいい。誰かとすれちがったら、笑顔で手を振る。そして、どうかご無事で、と祈る」

「晴れてよかった。人々は人生の折々でそう口にする。でも、わたしは雨の日が好きだ」

こういう永瀬は普通の人たちには理解されないでしょうね。
仲間たちがいてよかったですね。

気をつけなければと思ったのが、心配だからと、「・・・した方がいいよ」と相手に言うことです。
言われる方にしたら、自分を否定されていると思ってしまうことがあるのです。
誰にでも変われることと変われないことがありますものね。
気をつけましょう。
あなたはあなたのままでいい。そう言ってもらえると、安心できますよね。

若い人たちにお薦めの本です。人生を肯定的にみることができますよ。


<今週のおやつ>


「台湾人が好きな日本のお菓子」という記事に出てきたお菓子が駅ビルの期間限定ショップで売っていました。
定番といちごを買ってみました。普通に美味しいです。


オスロコーヒーというのがあったので、入ってみました。
プリンとサンドイッチ、カフェオレを頼みました。
プリンは大きく見えますが、普通の大きさで固めでした。
カフェオレはコーヒーの味が強めです。
次回はセムラを食べたいです。