近藤史恵 『山の上の家事学校』2024/04/22



四十三歳、新聞記者の仲上幸彦は一年前に離婚してから荒んだ一人暮らしをしている。
妻は同業者だったが、娘が産まれてからはライターをしていた。
ある日、家に帰ると妻と子の荷物がなくなっていて、テーブルの上に離婚届とここ一年間の幸彦の行動レポートが置かれていた。
離婚してからできるだけ娘の側にいたいがために、幸彦は大阪支所に異動願いを出し、ほぼ本決まりとなっている。

異動のことを話しに幸彦が母親に会いに行くと、妹が家族を連れてやって来た。
彼女は幸彦にリフレッシュ休暇を利用して、大阪にある男性のための「山之上家事学校」に通ってはどうかと勧めてきた。

三月のはじめ、幸彦は大阪に行き、不動産会社で物件を探し、山之上家事学校の説明会に行った。
猿渡という青年と一緒に花村校長からの説明を聞き、きていた生徒に紹介された。

幸彦は山之上家事学校の寮に入り、とりあえず二週間、授業を受けることにする。
カリキュラムは洗濯と調理実習などの必修の授業の他に自由選択として編み物や育児研修、消火活動、子供のヘアアレンジなどがあり、意外に幅が広い。

家事学校で家事を学んでいくうちに、幸彦は日々の暮らしについて考えさせられると共に離婚前の自分がどうしようもなくダメな奴だったことに気づかされる。

調理実習でポテトサラダを作る場面があり、そういえばポテサラ論争があったなぁと思い出しました。
何も家事をしてこなかった高齢男性にとって、料理を作ることなんかたいしたことじゃないと思っていたり、女性ならそれぐらい作るのが当たり前と思っているのでしょうね。
幸彦もそうでした。
花村校長はこう言っています。

「家事とは、やらなければ生活の質が下がったり、健康状態や社会生活に少しずつ問題が出たりするのに、賃金が発生しない仕事、すべてのことを言います。多くが自分自身や、家族が快適で健康に生きるための手助けをすることで、しかし、賃金の発生する労働と比べて、軽視されやすい傾向があります」

気づいた幸彦はこう思います。

「ぼくたちは、家事と愛情を結びつけたくなるし、ケアをしてもらえることが愛情だと思ってしまいがちだけど、それはもしかしたら違うんじゃないかなって」
「ケアと愛情を結びつけるなら、自分もちゃんと相手をケアするべきなのだ」

覚醒した幸彦でしたが、それでも彼は元妻の苦しみを理解できませんでした。
花村校長はこう言います。

「わたしは、家事をやることに男性も女性も関係ないと思っています。それでも社会から押しつけられる圧力は全然違う。そこは認めないと公正ではありませんね」

まだまだジェンダー平等までには遠い道のりです。
でも、少しでも幸彦のように覚醒する人が増えていくと、少しは生きやすい世の中になっていくかもしれません。
是非、男性の方に読んでいただきたい本です。