中山七里 『ヒポクラテスの悲嘆』2024/04/15

「ヒポクラテスの誓い」シリーズの五作目。


アメリカの引き籠もりは一千万人、日本は百五十万人。

「一 7040」
ミイラ化した遺体が見つかる。遺体は四十歳の女性で、大学受験に失敗した後、二十年以上も引き籠もっており、両親は引きこもり相談支援センターや民間のNPO団体に相談したという。
亡くなる前、三週間近く部屋に閉じ籠もって一歩も外に出ておらず、様子を見に行った母親が娘の死体を見つけた。
事件性はないと思われたが…。

「二 8050」
新卒で入った会社を辞めてから引き籠もっていた五十歳の男が屋根裏部屋で餓死しているのを八十歳の父親が発見する。
彼は妻が入院治療をするので、三週間泊まりがけで付き添いをしており、食料品は一ヶ月程度買いだめして置いてきたという。
検視官は自分に絶望して餓死を決意したというが、捜査員たちは疑念を抱く。

「三 8070」
浴室の浴槽で男が死亡していた。十歳上の八十歳になる彼の妻はで認知症。
二人はおしどり夫婦で有名だったが、男はホステスに入れあげていたという。
検視官は事故死と見做すが、埼玉県警捜査一課の刑事・古手川は死体が語りたがっていると思う。

「四 9060」
九十二歳になる民生委員をしていた知人の様子がおかしいとの通報が入る。
彼は息子と二人暮らしで、息子は資材会社を辞めてから引き籠もっているという。
自宅を訪れると体調不良で出られないというのに、近隣住人の話では毎日散歩に出かけているという。
古手川が通報者と一緒に自宅に行ってみると、息子がインターフォンに答えて、父は外出しているという。だが、近所の人はついさっき帰宅したばかりだと教えてくれる。
翌日、古手川が朝の散歩途中に話しかけてみると…。

「五 6030」
JR浦和駅東口で通り魔事件が起る。犯人は逃走し、行方は不明。
しかし翌日の朝方、空き店舗で容疑者の男が死体となって発見される。
容疑者は経産省のキャリア官僚の息子で、父親が出頭してくる。
息子はここ十年は仕事もせずに引き籠もっており、先の通り魔事件の犯人に心酔していたようだ。
父親が息子を殺したのか?

埼玉県警捜査一課の刑事・古手川が扱う不審死の遺体を浦和医大法医学教室の光崎教授たちが解剖し、自殺か事故死か他殺かを突きとめていくというシリーズです。
今回はロスジェネ世代(1970年から1984年ごろに生まれた40代から50代前半)の引き籠もりと老老介護がテーマになっています。
古手川刑事の上司、渡瀬警部と浦和医大の助教・栂野真琴の上司の光崎教授の出番がそれほどなく、今回は若手の古手川と栂野の二人がメインで動いています。
テーマが重くて、他人の不幸だとは思えませんでした。
いつ自分に降りかかってくるかわかりませんからね。
最後に意外なことがありますので、お楽しみに。気づいた人、すごいわ!

章のタイトルが何か最初は分からなかったのですが、「8050問題」が出てきてわかりました。
ちなみに「8050問題」とは、若者の引き籠もりが長期化することで、80代の親が50代の子どもの生活を支えるために、経済的にも精神的にも強い負担を請け負うという社会問題のことです。
章のタイトルは登場人物たちの年代を表しているんですね。

面白いシリーズですので、是非読んでみてください。

⑤ヒポクラテスの悲嘆


<今週のおやつ>




素敵な包装のカフェタナカのクッキー。
缶は薄いピンクです。
四種類のうち、わたしはナッツの入ったクッキーが好きです。