人生、いろいろありますという本(文庫本)2024/01/18



もも吉は京都祇園の元芸妓で一見さんお断りの甘味処「もも吉庵」を営んでいる。
メニューは四季おりおりの麩もちぜんざいだけ。
「もも吉庵」に今日も悩みを抱えた人たちが相談に来る。

「第一話 幸せの四つ葉探して京の春」
昼は個人タクシードライバー、夜は祇園甲部の芸妓という美都子が幼馴染みの建仁寺の塔頭・満福院副住職の隠善と甘いもんを食べにいった帰りに、駐車しておいた美都子のタクシーに無理矢理乗り込んできた女性とその旦那、そして幼いこども。
女性は切羽詰まった感じで、何か緊急事態かと思った美都子は彼らを乗せると、彼女は「前のタクシーを追ってください」という。どういうこと?

「第二話 空豆に商う心教えられ」
京大出身の皆川遙風は第一志望のメガバンクから内定をもらっていたが、銀行が経営破綻したため採用の取り消しになる。就活戦線は既に終盤を迎えており、ゼミの教授の勧めに応じて京都に本社のある京洛信用金庫に就職した。ゼミの同期は日本を代表する大手の銀行や保険会社に勤めているのに、自分はここで燻ったままで一生を終えるのかと思うと苛立ちを覚えてしまう。
そんな時にやっと融資の仕事ができるようになるが、遙風は最初の融資に失敗してしまう。支店長は案内係の朝倉に与信審査の方法を遙風に教えてやってくれと頼む。すると朝倉は遙風を京麩の半兵衛麩へと連れて行く。

「第三話 祇園会の会議は踊るおもてなし」
「風神堂」の斉藤朱音と若王子美紗は「祇園祭黒子会」の会議の幹事を任される。
「祇園祭黒子会」とは、祇園祭の裏側で、黒子のように見えないところで働く有志の集まりだ。第一回会議が開かれ、会議は紛糾し、議長を務めた明智夢遊は困ってしまう。というのも力になってくれると言っていた庭師の山科仁斎がことの発端になったのだ。朱音は夢遊のために、場を和ませようと策を巡らせる。

「第四話 おむすびに込めた愛あり萩ゆる」
渡辺真凜は困っていた。小学一年の娘、彩矢が遠足におむすびを持って行きたいと言い張るのだ。真凜にとっておむすびはトラウマで、作ることも食べることもできない。
そんな頃、父が昔いっしょに暮らしたことのある陶子に指輪を渡して欲しいと言って亡くなる。陶子こそトラウマを引き起こした張本人。ためらいながらも真凜は父のスマホに入っていたもも吉の電話番号に電話をし、陶子の居場所を訊くが…。

「第五話 京セリは雪解けを待ち耐えて生き」
元芸妓、もも雛こと陽向とゲーム会社、サンガエンペラーの社長をしている夫の内山爽馬は苦境に立たされていた。
常務の谷川が会社の金を私的流用し、無謀な投機をしたため、巨額な損失を被り、二度の不渡りを出していた。その上、内山が命令したという告発文のようなものを谷川がネット上にアップしたのだ。
自暴自棄になった内山にもも吉は自分の辛い過去を話す。

人の悩みは様々。そんな人たちにもも吉はそっと寄り添い、的確なアドバイスを施します。
第一話では自分の心次第で物事の見方が変わることを教えてくれます。
第二話には商いをする時に役立つ教えが書かれています。
第三話では朱音がまたまた活躍してくれます。わたしとしては夢遊さんの気持ちに応えて欲しいな。
第四話では陶子の隠された思いが明らかになります。
第五話は涙なくして読めません(たぶん)。
もも吉が世の中のままならぬことを、『出会いもん』として考え、生きてきたのです。そんな彼女だからこそ、沢山の人たちにいいアドバイスができるのでしょう。
最後に食いしん坊の隠源住職の言葉を書いておきます。

「まず自分が幸せにならんと、他人を幸せにでけへんさかいなぁ」

巻末に京都の美味しいお店が載っていますので、ご参考に。


日本橋二十一屋通称「牡丹堂」で働く小萩は、小萩庵でお客の依頼に基づいたお菓子を考え、作っている。

「鹿の子の思い」
ある日、小萩庵に紺屋(染物屋)の十歳の娘、茜がやって来る。
彼女の店で働いている職人の岩蔵に、自分の父親になってもらいたいという願いを込めたお菓子を作って欲しいという。
小萩は彼女の母が得意だという鹿の子絞りにかけた鹿の子と、一見無骨で内側に軽やかで繊細なものをもつ岩蔵を表す練り羊羹の二つを作り、茜の書いた文を添え、岩蔵に持っていくが…。

「黒茶、花茶に合うお菓子は?」
二十一屋は西国の大名、山野辺藩の御用を賜っている。このほど新しい留守居役が着任することになり、顔合わせの場を持つこととなる。
しかし、その日は札差の箔笛の別邸で茶会がある。その茶会では清国のお茶を三種類出すという。そのためお茶に合うお菓子を三種類考え、作らなければならない。
その上、葬式饅頭百個も頼まれる。
顔合わせの当日、二十一屋は総勢七人で山野辺番の髪屋敷に行くが、途中で三人が抜け出す。
しかし、それが見つかり、新しい留守居役から咎められる。絶体絶命の危機。

「とびきりかたい、かりんとう」
小萩庵に国学者・学而の妻、お香とその娘のお花がやって来る。学而が煙草を吸いすぎるので、控えてもらうためのお菓子をお願いしたいという。
話し合いの結果、お菓子の他に謎をかけた和歌を添えることになる。
小萩がお菓子を届に行くと、文治郎という男がいて、禁煙に失敗した学而をからかう。そのため学而はへそを曲げてしまう。せっかくの妻と娘の心遣いがダメになってしまうのか?

「吉原芸者の紅羊羹」
小萩庵に吉原芸者の千代菊がやって来る。このたび二挺鼓の打ち手としてのお許しをいただいたので、自前芸者になるお披露目のお菓子を頼みたいのだという。
別の日、見世で饅頭を買い、ここで食べたいという若い娘が現れる。母が病気で長くないという手紙を出しても返事がない姉をたずねて、はるばる越後から来たという。姉は竜泉の百川で働いていると言うので、お萩は簡単な地図を描いて渡す。
翌日、千代菊のところにお菓子の見本を持って行くと、昨日の娘が現れる。なんと千代菊が彼女の姉だった。娘は米といい、母に顔を見せてやってくれと言うが、千代菊はお披露目があるし、お座敷がかかっているので帰れないと断るが、米は納得しない。その翌日、千代菊が残りの半金をもって来る。
はたしてお披露目はされるのか…。

出てくる和菓子がとても美味しそうで、食べたいです。
初めは頼りなかった小萩がだんだんと一人前になり、人の心がわかるようになってきて、いいお菓子を提案できるようになっています。

茜の言う、「あたしが考える幸せっていうのはさ、にこにこ笑って今日もいい日だったねってご飯を食べることだよ」には驚きました。若いのにわかってらっしゃる。
どの人も他の人の幸せを思った行動をとるのですが、それがうまくいかないのは、人生の機微ってものでしょうか。
最後の「吉原芸者の紅羊羹」には泣かされました。

そうそう茶会に出されるお茶は、「緑茶 碧螺春」と「茉莉花茶 福州白龍珠」、「黒茶 正山頂普洱茶王」です。
「緑茶 碧螺春」は中国十大銘茶の一つで、江蘇省蘇州市の洞庭山で生産される非発酵茶。香りは非常に濃厚で、ほのかに花果の香りがして、淹れた湯の色は青く住んでいて、味は濃厚で後味もいいそうです。
「茉莉花茶 福州白龍珠」はジャスミン茶のことです。
「黒茶 正山頂普洱茶王」はプーラール茶かな?癖があって、好き好きですよね。

これからも小萩庵に次はどんな訳アリお客が来て、どんなお菓子を作るのか、楽しみです。

二冊ともシリーズ物ですが、シリーズが進むにつれて面白くなっていっています。

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