アンデシュ・ルースルンド&ペリエ・ヘルストレム 『死刑囚』2023/08/19

スウェーデン・ミステリ。
エーヴェルト・グレーンス警部シリーズの第三弾。


警察署に出勤してきたエーヴェルトは、待合室にいる男が脳出血を起こしているのに気づく。
この傷害事件の被疑者はジョン・シュワルツというカナダ人の男で、彼はフィンランドとスウェーデンを結ぶフェリーでダンス音楽を演奏するバンドの歌手として働いていたが、歌っている時にこの男が女性たちに痴漢を働いているのを見てかっとなり、頭を蹴りつけたのだ。

一見、ごくありふれた事件のように見えたが、シュワルツのパスポートが偽造されており、インターポールで英語圏の国に問い合わせてもらうと、驚くべきことがわかる。
彼は死んでいたのだ。
六年前に、アメリカの死刑囚監房で…。

一作目の時に思ったように、このシリーズは推理を楽しむものではないです。
現代社会に巣くう問題を提起をしているんです。
今回のテーマは「死刑制度」と「冤罪」。
アメリカには、日本もですが、死刑制度がありますが、スウェーデンにはないのです。(ヨーロッパで死刑制度のある国はベラルーシだけだそうです)
死刑囚が生きていることがわかり、アメリカ側は引き渡しを望みますが、スウェーデン側はどうするのでしょうか。
そして被害者の遺族や加害者の家族、エーヴェルトたちの思いは…。

エーヴェルトは相変わらず、不機嫌で、音楽を大音量で流し、踊り、大した仕事をしているようには見えません。
彼の世界は恋人のアンニを中心に動いています。
叶わぬ夢とは知りつつも、思い切れないエーヴェルトに憐れを感じます。
彼が周りの反対を押し切って警部補とし、自分の部下にしたマリアナ・ヘルマンソンがこれからエーヴェルトのストッパーとしていい働きをしてくれそうですが、それでも彼は変わらないでしょうね。

最後の結末には暗澹たる気持ちになりましたが、三作目にして初めてこのシリーズを面白いと思いました。
北欧ミステリ、お勧めです。