川瀬七緖 『四日間家族』2023/08/28



坂崎夏美は集団自殺に参加することにする。
参加者は夏美も入れて四人。
長谷部康夫という還暦の説教好き男と寺内千代子という七十三歳のスナックを営む派手な老女、そして十六歳の何を考えているのかわからない丹波陸斗という高校生。
青梅にある岩國山の山奥で死ぬ間際だというのに、どいつもこいつも一筋縄でいかない嫌な奴らで、もめていた時に、真っ赤な車体の車が現れる。
その車から出てきた女が、何者かの指示に従い森の中に入っていき、少ししてから出てきて、去っていった。
それからしばらくして聞えて来たのが赤ん坊の泣き声。
探しに行くと、さっきの女が持っていたリュックの中に赤ん坊が入っていた。
無事に赤ん坊を保護したのだが、何故か女が戻って来た。
赤ん坊を殺しに戻って来たと思った四人は赤ん坊を連れて逃げるが…。

SNSに赤ん坊の母親を名乗る女が四人を赤ん坊連れ去り犯だと糾弾する動画がアップされる。
このままでは彼らは誘拐犯として警察に逮捕される。
赤ん坊を警察に連れて行くべきなのか。
それにしてもあの女たちは捨てたはずの赤ん坊を何のために取り戻そうとしているのか。

やがて死のうと思っていた訳あり四人は、赤ん坊の命を守るために、一致団結して戦っていくことに…。

読んでいるとSNSの恐ろしさをひしひしと感じました。
プライバシーなんかあってもなきが如しですね。
もはやSNSがない世の中は考えられないので、とても難しいことですが、そこにある真実らしきものが本当に真実なのか、一見すると正義のように見えるものが本当に正義なのか、など色々と見極める力を培うべきですね。

それにしてもどこを見ても不愉快でしかない存在の四人が、赤ん坊を触媒として変わっていく過程が面白かったです。

「(前略)自分を満たさなければ他人を救うことなどできないということだ。わたしたち四人は、三郎を救うという目的を通して常に自身を癒やしていた。今まで見つけられなかった生き直すチャンスを、貪欲に掴もうとしているのだと思う」

そう簡単に人間の本質は変わらないとは思いますが、四人はこのことをきっかけに、もう一度生き直すことができそうな希望のある最後でした。

手に汗を握る(?)逃亡劇で、ドラマか映画になりそう。
読み出すと止らなくなりますよ。

川瀬さんのインタビューはここを見て下さい。