近藤史恵 『ホテル・カイザリン』2024/01/12

ずっと前に非常食を買って置いておいたので、賞味期限がどうなっているのか確かめてみました。
そうすると、ビスケットなどは昨年の10月ぐらい、アルファ米は今年の1月、パンの缶詰は2月に期限が切れます。気づいてよかったわ。


ネットで調べると、ビスケットなどは期限が切れても六ヶ月ぐらいは食べられるというので、ビスケットを食べてみました。全然大丈夫です。
アルファ米は別の容器に入れてお湯を入れると、米の芯が残りました。
おかしいと思って作り方をよく見てみると、お湯の場合は15分、水の場合は60分待つそうです。作り方をよく読みましょうねww。
量が多いと思ったら、お茶碗で軽く二杯分で、意外と美味しかったです。
これからしばらくランチは賞味期限切れの非常食になります。

うちの場合はわんこたちがいるので、避難所には行けないと思いますので、どう避難するのか、考えておかなければなりません。



近藤さんの本は好きなので、新刊がでたら読むようにしています。
この本は長編小説だと思って図書館に予約したら、八篇の短編集でした。
実は私はあまり短編小説って好きじゃないんです。
この前、原田マハさんの『黒い絵』は二篇ぐらい読んでパスしてしまいました。
ダークなのは嫌いですもの。
この本もどうかと思って読み出したら、最後まで読んじゃいました。

「降霊会」
学園祭実行委員だったが、家の都合で学園祭当日までの一週間を休んでいたぼくは、幼馴染みの宮迫砂美がペットの降霊会をやるということを聞き驚く。砂美が何を企んでいるのか、心配になったぼくは降霊会に参加することにする。

「金色の風」
幼い頃からやっていたバレエを止めたわたしはフランス語を学びにパリに行く。
パリでベガという犬とランニングしていた女性と知り合い、わたしも走ってみることにする。
走っているうちに、わたしはあることに挑戦することにする。

「迷宮の松露」
わたしはモロッコにもう二週間も滞在している。
思い出すのはわたしを育ててくれた、美しい祖母のこと。
ある日、道に迷った日本人夫婦に話しかけられる。
ホテルまで送ってあげた翌日、お礼にもらったのが松露。
それは祖母との思い出のお菓子だった。

「甘い生活」
わたしは子どもの頃から誰かのものが欲しくなるタチだ。
しかし、誰かのものを欲しがるのはよくないことと知ってから、上手く立ち回る方法を考えた。
小学校の六年生の時、沙苗が持っていたオレンジ色のボールペンがどうしようもなく欲しくなったわたしは…。

「未事故物件」
植野初美は東京に引越し、一人暮らしを始めた。
それからしばらくして、朝の四時から洗濯機の音が聞え始めた。
管理している不動産会社に苦情を言うと、上の階は空き室だという。
音は一体どこからしているのか?

「ホテル・カイザリン」
ホテル・カイザリンはわたしのお気に入りのホテル。
わたしは毎月好きなマクベスの部屋に泊まる。
そんなある日、よく見かけていた女性のひとり客と知り合い、意気投合し、都合がついたら同じ日に泊まろうということになる。

「孤独の谷」
大学で風土病を研究している白柳は、『文化人類学Ⅰ』を履修している波良原美希から相談を受ける。
それは彼女が九歳の時に養子として引き取られた纏谷村に住む家族に関する妙な噂のことだった。「纏谷という村に住むものは、たったひとりで死ぬ」というのだ。
実際に彼女の父が謎の死を遂げていた。
興味を持った白柳はヘルシンキでの学会を終えた後、美希の叔母に会いにラトビアまで行ってみる。

「老いた犬のように」
ぼくは小説家。ぼくのミューズ、妻の葵が出ていってから書けなくなっていた。
彼女はぼくの半身で、優しい人だったはず、なのに…。
ある日、SNSでリプライしてきたハンドルネーム「南風」さんと、いつも行く喫茶店で、偶然話すことがあった。
行きがかり上、彼女の書いた短編を読んでアドバイスをすることになるが…。

しょっぱなからいや~な感じの終わり方だったので、イヤミスでいくのかと思ったら、違いました。
多彩な近藤さんの色々な面を見させてくれます。ダークサイドに寄ってますけどね。
八篇の中で、私は主人公が再生するお話の「金色の風」とモロッコの異国情緒漂う「迷宮の松露」が好きです。
松露って和菓子なんです。食べたいわぁ。
読みながら、そろそろ外国に行きたいなと思いました。

表題の「ホテル・カイザリン」はこんなホテルがあったら泊まりたいというものです。
明治時代の洋館を改装した、各部屋には創業者が好きだったシェイクスピアの戯曲の名前がついているホテルだそうで、主人公が泊まったマクベスの部屋はくすんだ紅色のカーテンで、ベッドカバーもカウチに置かれたクッションも炭灰色で、キングサイズのベッドと暖炉、ベランダがある部屋です。
ロミオとジュリエットの部屋は、シフォンのカーテンが繭のようにベッドを包んでいて、ベッドリネンは白いレースで揃え、ベッドのクッションにひとつだけ赤いクッションが紛れ込んでいるんだそうです。
ハムレットの部屋はどんななのか、興味があるわぁ。

それなりに楽しめた短編集でした。
読むと、それぞれの方が気に入る物語が見つかるでしょう。

凪良ゆう 『星を編む』2024/01/05

汝、星のごとく』の続編。


「春に翔ぶ」
北原草介(後の北原先生)の父は老舗旅館の跡継ぎで、彼が小学校に上がる前に旅館を潰し、自己破産もせずに借金を返済し続けた。
そのため家計が苦しく、高校受験では私立の高校をあきらめ、大学は奨学金を利用した。大学院に入って触媒を研究し、研究者になろうと思っていたが、母が入院したため、大学院を中退し、地元の教員採用試験を受け、教職についた。
草介の中には両親に対して疎ましい思いがある。
ある日、草介は父の見舞いに行った病院で、勤務している高校の生徒、明日見奈々と出会う。

「星を編む」
柊光社ヤングラッシュ編集長・植木渋柿と薫風館Salyu編集長・二階堂絵理は青埜櫂の小説を世に出し、小説の刊行に合わせて漫画を復刊させ、物語を完結させようと奮闘している。

「どれだけ近くに寄り添って物語を共に作ろうと、ぼくたちは星にはなれない。けれどぼくたちは光輝くそれを愛して、編んで、物語を必要としている人たちへとつなげることができる。ぼくたちは、ぼくたちの仕事に誇りを持っている」

「波を渡る」
櫂が亡くなってからも人生は続く。その後の北原暁海と北原先生のお話。
互いに相手に好きな人ができたと思い離婚を申し出たりすることもあったが、二人には二人の夫婦の形がある。たとえそれが世間でいう夫婦と違っていても。

心に残った言葉。
「愛はどこまでもパーソナルなもので、逆に『瑕疵』や『不完全』こそが、最後まで心に刺さって抜けない甘い棘になるのかもしれない」

「おいしいねって一緒にご飯を食べられるのは、それだけで最大の幸せです」

「自分は自分、他人は他人、とそれぞれ別の個であることを理解できさえすれば、自身の暮らしと関係ない他者への攻撃が無用かつ無駄であるとわかるだろう」

それにしても毒親を持ったにしては、人間として素敵に育った方々ばかりです。
できすぎ感がちょっとありますが。
北原先生が暁美に手を差し伸べさせたわけが何となくわかりました。
出版社の人たちの忙しさは聞いてはいましたが、実感できませんが、大変さはわかります。
二階堂さんの女であるがために被っている苦い思いには共感しました。

「若いころから、わたしがどれだけ組織内の人間関係に苦労したと思ってるの。男性上司や同僚からはかわいくないって敬遠されて、後輩からは怖いって敬遠されて、円滑になるのであればと当たりをやわらかくしたら、なにを企んでるんだって敬遠されて」

まるで私のようではないですかぁ、笑。
二階堂さんが夫の優しさにあぐらをかいていたら、しっぺ返しを被ったのにはゾッとしました。
話し合うべきことはちゃんと話し合っておかなければね。

読みながら人生にはいいことばかりではないけど、それでもちょっと視点を変えてみると、それが幸せだと思えることもあるんじゃないかと思いました。
刺さる方には刺さるお話です。
『汝、星のごとく』を読んでいない方、よかったですね。是非、『汝、星のごとく』を読んでから、記憶の新しいうちにこの本を読んでください。
私は時間が経ってから読んだため記憶が定かではなく、これは誰で、どういう関係だったっけとなってしまい、感動も何もあったもんじゃないですわwww。

<今日のわんこ>


遊んでとママのそばに来たので、カメラを向けると、すぐにお座りしてポーズを取ります。


兄も同様です。おやつをもらえると思うのか、舌まで出します。


例の一日で音のしなくなったカモシカちゃんですが、喜んで追っかけ、こんないい笑顔をくれました。

明けましておめでとうございます。2024/01/01



わんこたちからの御挨拶です。
今年、兄、12歳、弟、10歳になるシニア犬です。
病気もせずに元気に過ごしています。


昨年、弟にはおもちゃ、兄には洋服をクリスマスプレゼントにしました。
おもちゃは紹介したので、洋服をお見せしましょう。
セールで白いのを買おうと思ったのですが、ノロノロしていたら売り切れてしまいましたwww。


黄緑色、似合っていますね(親バカ)。
兄だけでは弟が怒るので、弟もおめかしをしてみました。(一昨年買ったのだけど)


弟だけの写真を撮ろうとしたのに、兄がどきません。
タテガミが見事です。


洋服の後ろが可愛いので、後ろ姿を撮ろうとしましたが、顔を向けるので、こうなってしまいましたww。おちゃらけヨーキーに合わせてミッキーです。
犬に洋服を着せることに疑問な方がいるとは思いますが、犬も人間と同様に寒さに弱いのですよ。お散歩に行く時に喜んで着ています。

今年もドッグフレンドリールームがあるホテルを探し、彼らと一緒に色々なところに行きたいと思います。


辰年なので、龍の置物を買ってみました。
右側のかわいい龍は秩父今宮神社のおみくじのです。可愛いので飾っておきます。

さて、恒例の昨年読んだ本の中から面白かったものや考えさせられたものをご紹介いたしましょう。

<日本ミステリ>
『未明の砦』 太田愛
『四日間家族』 川瀬七緖
『看守の流儀』&『看守の信念』 城山真一

<日本文学>
『逆ソクラテス』 伊坂幸太郎
『正欲』 朝井リョウ
『永遠と横道世之介』 吉田修一

<歴史・時代小説> 今後の活躍を期待して
『写楽女』&『おくり絵師』 森明日香

<外国ミステリ>
『卒業生には向かない真実』 ホリー・ジャクソン
シリーズ三部作の最終話で、驚愕の最後です。是非『自由研究には向かない殺人』と『優等生は探偵に向かない』を読んでから読んでください。

女性警部フルダ・シリーズ  
『闇という名の娘』
『喪われた少女』
『閉じ込められた女』 ラグナル・ヨナソン

刑事ヴァランダー・シリーズ  ヘニング・マンケル
グレーンス警部・シリーズ  アンデシュ・ルースルンド&ペリエ
ボッシュ&バラード・シリーズ  マイケル・コナリー

ヘニング・マンケルさんはお亡くなりになっていますので、ヴァランダー・シリーズは途中で終了しています。
グレーンス警部とボッシュはまだ続きますが、最後(最期?)までいけるかしら。
北欧ミステリは今年も続けて読んで行きます。

<TV番組> Amazon Prime Videoで鑑賞
「ホームカミング シーズン1」
「ボッシュ:受け継がれるもの シーズン2」
「占いタクシー」
「天狗の台所」

<この頃好きなVlog> YouTubeで見られます
「英国暮らし」 mikazuki
「北欧暮らし」 Karu&Siiri
バックグランドミュージックと映像が素敵です。イギリスやフィンランドに住みたくなります。

今年1年でブログに紹介した本はおよそ250冊です。
読書はストレス解消や認知症予防になるといいますので、気になる本があったら、是非図書館へ行って手に取ってください。
私と趣味が合わなくて、面白くなかったら、読むのを止めればいいんですから。

昨年、沢山の方々がブログを読みに来て下さったようです。
というのも、この頃、アサブロのランキングがおかしいのです。
年末最後に3位、今朝は5位ということで、驚いています。


「ママ、それは僕たちのおかげです」 

お散歩から帰って来たわんこたちがおやつを求めて五月蠅いので、御挨拶をして終わりましょうね。

「皆様、今年もよろしくお願いしますワン」 

夏川草介 『スピノザの診察室』2023/12/20



雄町哲郎は京都の洛都大学の医局で将来を嘱望された内科医で内視鏡手術に優れていたが、三年前にシングルマザーだった妹が亡くなり、残された小学生の甥と暮らすために退局し、原田病院で働いている。
原田病院は消化器疾患を専門とする四十八床の病棟を備えた小さな地域の病院で、内視鏡処置の患者を除くと高齢の患者が多く、病気を治すことがゴールではない。
雄町はそんな患者たちに寄り添い、たとえ病が治らなくても、「少しでも多くの人たちが幸せにすごせるように、自分は何ができるのか」を考え続けている。

雄町のように地位も名誉も金銭も求めず、人間の幸福について考えている医師って特別ですよね。
彼は「医療というものに、たいして期待も希望ももっていない」が、「人は無力な存在だから、互いに手を取り合わないと、たちまち無慈悲な世界に飲み込まれてしまう。手を取り合っても、世界を変えられるわけではないけれど、少しだけ景色は変わる。真っ暗な闇の中につかの間、小さな明かりがともるんだ。その明かりは、きっと同じように暗闇で震えている誰かを勇気づけてくれる。そんな風にして生み出されたささやかな勇気と安心のことを、人は『幸せ』とよぶんじゃないだろうか」、「暗闇で凍れる隣人に、外套をかけてあげることなんだよ」と言います。
これは院長が言っている、「できるだけ患者の顔を見ようとする理念」、すなわち「外来にいても、入院になっても同じ医者が診れれば、患者も安心やろう。そしてできれば往診になっても看取りになっても、ずっと診てきた医者が患者のもとに足を運ぶ医療」に通じるものがありますね。

老いたら、こういう医療を受けたいと思います。
雄町のような医師がいたら、主治医になってもらいたいと思います。
でもねぇ、そんな医師がいるだろうか…。
夏川さんの書く理想の医師の姿にいつも感動しますが、現実を見ると、「こんな医師なんていないよなぁ」とつぶやいてしまいます。
これから夏川さんの書くような若い医師が増えていくことを期待しています。
私も良い患者になるようにしますが、年を取るとどうなるかなぁ…ww。

雄町医師と彼を取り巻く人たちが、『神さまのカルテ』のような感動をもたらしてくれます。

そうそう、京都の美味しい物。食べたくなりました。
雄町医師は甘党なんです。
阿闍梨餅は食べたことがあるので除外して、亀屋友永の『小丸松露』、パティスリー菓欒の『西賀茂チーズ』、村上開新堂の『マドレーヌ』、緑寿庵清水の『焼栗の金平糖』、そして矢来餅と長五郎餅が食べたいです。
京都には行きたいけど、観光客が多いと聞き、なかなか行く気にはなれないので、すぐには食べられないわぁ。


<今日のわんこたち>


ママにおもちゃを投げて遊んで欲しいと訴えているヨーキー弟。
その後ろで、何故かひっくり返っている兄犬、笑。


ママが弟に何をするのか興味を持って見ている兄。
弟は健気にジッと待っています。

小路幸也 『マンション フォンティーヌ』2023/12/17



膠原病になり、会社を辞めることになった羽見晃は、退職を機に物語を書いてみた。
十日で書き上げ、新人賞に応募してみると、受賞し、小説家としてデビューできることになる。
困ったことに、マンションの契約更新をしないと連絡してしまった。
会社の上司に相談すると、甥で不動産会社に勤める野木を紹介してくれた。
野木が勧めてくれたのが、東武伊勢崎線鐘ヶ淵駅から徒歩八分、墨田区にある二階建ての小さなマンション、<マンション フォンティーヌ>。

<マンション フォンティーヌ>は、真っ白いアーチの入り口、中庭に噴水と少女像、花壇もあるフランスにありそうなオシャレな建物。
大家はリアーヌ・ボネというフランス人のおばあさん。
マンションは彼女が昔住んでいたところをモデルにして建てたという。
住民は野木が特別に選んだ人で、リアーヌとの面接がある。

一号室:三十年以上もここに住むM大の教授、坂東深雪
二号室:印刷会社に勤める鈴木幸介と出版社に勤める奈名の夫婦
三号室:訳アリ母子、パタンナーの三科百合と娘の杏
四号室:海外送金専門の会社に勤め、通訳もするハーフの貫田慶一郎
六号室:札幌出身で小中高と同じ学校だったという、ファッションブランドショ               ップ店員の坂上麻実奈と建設会社勤務の市谷倫子
八号室:新人作家、羽見晃、
九号室:コワモテ管理人、嶌谷拓次。

年齢も性別も嗜好もそれぞれ違うけれど、みんな仲良く、居心地がいい。
何か起ると、結束して事に当たる。

こんな偶然が本当に起るのというようなことが起り、やり過ぎ感がちょっとありますが、それは小路さんですから、仕方ありません。
バンドワゴンのような裏切られることのない、ほっこりしたお話です。
こんなマンションが本当にあったら、住みたくなります。


<今日のおやつ>


懲りずにホテルのパネットーネを買ってしまいました。
朝食代わりに食べると、食べ過ぎたのか、甘過ぎたのか、胃がもたれました。
この半分ぐらいの量でよかったわ。
軽そうに見えても、お菓子ですので、気をつけて食べましょうねww。

小川糸 『椿ノ恋文』2023/12/12

ミステリ小説のランキングが発表されました。
私の読んだものはとっても少なくて、10位中にかろうじて2、3冊です。
日本のミステリ小説では、『可燃物』が「このミステリーがすごい」で1位、「本格ミステリ・ベスト10」で2位、「週刊文春ミステリーベスト10」で1位、「ミステリが読みたい!」で1位。(「本格ミステリ・ベスト10」のランキングを見たい方は検索をして、Wikipedeaを見ると、1997年度から載っています)
あなたが誰かを殺した』はこのミスで3位、本格で3位、週刊文春で2位、ミステリが読みたいで5位。
世界でいちばん透きとおった物語』はこのミスで8位、文春で9位
海外のミステリ小説では、『ナイフをひねれば』がこのミスで2位、本格で3位、文春で2位、ミステリが読みたいで2位。
意外なことに、『卒業生には向かない真実』はこのミスで6位、本格で5位、文春で1位、ミステリが読みたいで4位。健闘しています。
哀惜』がミステリが読みたいで9位。
グレイラットの殺人』が本格で6位。

私はミステリが好きですが、ミステリばかり読んでいないので、読んでいないものが多いです。
本格的ミステリだけではなく、コージー・ミステリ・ベスト10なんかもやってもらいたいです。


「ツバキ文具店」シリーズの三作目。
一作目が『ツバキ文具店』、二作目が『キラキラ共和国』です。

びっくりしたことに、ポッポちゃんこと守景鳩子とミツローこと守景蜜朗との間に年子が生まれ、五人家族になっていました。
『キラキラ共和国』では小学校に入学したばかりだった長女のQPちゃんは中学三年生にもなり、六年前に生まれた次女の小梅と長男の蓮太朗が小学校に入学しました。

家族が増え、家事と育児で多忙のため、しばらく代書業はお休みしていて、この春に再開しました。
今のポッポちゃんのお悩みはQPちゃんとお隣さん。
QPちゃんの反抗期が始まってしまったのです。
お隣さんは音が五月蠅いと苦情を言ってきます。
頭の痛いポッポちゃんです。

代書業では様々な人たちと出会います。
書いた手紙は、義理の母親に宛てた、自作の料理に髪の毛が入っていたという事実を伝える手紙、結婚する娘に宛てた最後の手紙、海外から輸入した品質のよいペットフードと一緒に発送する手紙、認知症になった自分に宛てた手紙、退職届、車の免許証を返納しない父へ宛てた最後通告の手紙、自分が同性愛者であることを、両親にカミングアウトする手紙、隣に住む女性に宛てた詫び状などです。
どの手紙も読むと素敵で、こんな風にはなかなか書けないなぁとつくづく思います。

ある日、大島に住む男性がポッポちゃんに会いたいと言ってきます。
会った時にその人が見せてくれたのが、彼のおじに宛てた先代のおばあさまの手紙です。
先代が書いたとは思えない情熱的で赤裸々な内容の手紙です。
戸惑いつつも、先代の思いを受け入れるポッポちゃん。
大人になりましたね。

本の中の心に残る言葉。
ミツローの言葉。 
「失くしたものを追い求めるより、今、手のひらにあるものを大事にしたらいいんだ」

バーバラ婦人の言葉。
「男はあくまでも嗜好品」
「この世界って、遊園地みたいなもの」
「遊園地でどれだけ楽しめるのかが、人生の真価」

ポッポちゃんの言葉。
 「幸せは、日々もがく泥の中にあるのかもしれない」

全部は書きませんでしたが、バーバラ婦人は流石です。
彼女は人生最後の恋に生きることを決め、彼氏のいる南仏で暮らしています。
彼女のおかげでお隣さんとのこともなんとかなりそうで、よかったね、ポッポちゃん。

どうなのかなと思ったのが、子どもたちの代わりにお詫びの手紙を書いたことです。
騒音問題ってそう簡単には解決できませんが、だからといって嘘の手紙を書いて出したということが、何やら引っかかります。
後でバレたらどうなるのか…。

そうそう、前も思ったのですが、手紙の内容はなかなか書けないものなので仕方ないのですが、文字は本人に書かせた方がいいように思います。
昔は文字を書けない人がいたので、代筆しているのですが、今は大体の人は書けますもの。
文字を見ていると、前は感じませんでしたが、上手すぎるなと思いました。
こんなに読みやすい字を書く人ってあまりいないような気がします。
美村龍三の葉書の字は本人らしくていいなと思いましたが、他の方の字はまともに読めるきれいな字なので、本人に書かせましょうよ。
自分で書けない手紙なら、せめて真心こめて字ぐらいは書けよって思う私は変ですか?

鎌倉のお菓子や食べ物が出てきて、無性に食べたくなりました。
特にフルーツ大福とはなさんの太巻き寿司、ブンブン紅茶店のスノーフレークケーキが食べたいです。
近頃、鎌倉には行っていませんが、外国人観光客で混み合っているのでしょうね。
人のいない時期っていつなのかしら?鎌倉に住んでいる方、そっと教えて下さい。
こそっと行きますからww。

手紙には涙が浮かび、ポッポちゃんたち家族の何気ない日常には心がほんわり温かくなり、手紙っていいなぁとつくづく思わせられるお話です。
シリーズの最初から読まなくても大丈夫です。私なんか忘れてますから、笑。
是非、読んでみて下さい。

坂木司 『アンと幸福』2023/12/05

久しぶりの「和菓子のアン」シリーズです。
和菓子のアン』、『アンと青春』、『アンと愛情』に続く四作目です。


「江戸と長崎」
デパ地下の和菓子店『みつ屋』でアルバイトしているアンこと梅本杏子は、椿店長が銀座にできたみつ屋の旗艦店の店長になりいなくなったので、寂しくてたまりません。
新しい店長は男性で、ガタイがよく体育会系っぽく、アンには苦手なタイプで、立花とも相性がよくなさそう。
お客様に対して差し出がましいところがあり、アンが接客しているのに口を挟んでくることがある。何故?

「秋ふかし」
ある日、一人のおばあさんが店に現れ、ショーケースの中のお菓子を指して不思議なことを言う。「こっちのトーマスも」。トーマス?機関車の?
その頃、アンは思い立って『イモで辿る日本史』という市民講座に参加する。
なんと、講座で聞いたことがおばあさんの言葉のヒントになる。

「掌の上」
スーツを着たお客様が定期的に開かれる部下とのお茶席用にと、既存のものに一手間加えた和菓子を予約していくが、包装紙などをお店のものじゃなく、持参したものにして欲しいと言う。
アンは彼は気づかいのあるいい人だと思ったが、同じバイトの桜井は違うみたいだ。

「はしりとなごり」
大学生らしき二人連れ男性に和菓子についての教えを請われる。
俳句の集まりに、お題の『月と花』に合っていると思って持って行ったお菓子が微妙な反応だった。お菓子の何がよくなかったのだろうと言うのだ。
そんな頃、アンは店長の藤代から正社員にならないかと声をかけられる。

「お菓子の神さま」
この頃、立花の様子がおかしくて気になるアンだったが、初めての出張もあり、なかなか彼と話ができない。
出張は椿店長と一緒で、若山の海南にある橘本神社で行われる『全国銘菓奉献祭』、別名『菓子祭』にみつ屋が参加するので、手伝いに行くのだ。
椿店長といっしょなので、美味しいものを食べ、温泉に泊まり…などと遠足気分ではあるが、ちゃんと仕事もしないとと思うアンではあった。
ところが神社に行くと、そこに意外な人が…。

「湯気と幸福」
菓子祭も無事に終わり、アンの悩みもなくなり、彼女たちが行った先は白浜のアドベンチャーワールド。そこにはかわいいパンダがいる。

「学歴もない、資格もなければ、美貌もない」とイジイジしたアンちゃんが嫌でしたが、少しは前に進もうとする気持ちがでてきたようです。
市民講座に行ってから勉強したくなって大学に行こうとか思わないのかなと思ったら、思いませんでした。残念。
でも、新店長がアンちゃんにいい影響を与えたようで、よかったわ。

そうそう、デパ地下に来るお客さんはお茶とか俳句とかの素養がある方が多いのでしょうかね。
まあ、若い子のバイトが多い近所の和菓子屋では何を訊いても知らなさそうですものね。何か訊きたいことができたらデパ地下の和菓子屋で訊いてみよう。(こちらのボロが出そうwww)

乙女な立花君が今回、ものすごくイジイジしちゃて、読んでるとイライラしてきました。
彼は彼で立派な人なのに、なんでそう思うのか、私にはわかりません。もっと自信を持とうよ。
アンちゃんはお友だち宣言してますが、立花、告白しちゃえ、と思うのは私だけでしょうか。
実は私、この巻でアンちゃんが結婚するのかと思っちゃった。
だって題名が「アンの幸福」ですよ。まぎらわしい。

今回は謎にも和菓子にもあまりワクワクしませんでした。
その代わりにアンちゃんの家の食べ物が美味しそうでたまりませんでした。
白菜のとろっとろに煮たやつ美味しいよね。今夜は普通の豚汁だけど、ミョウガの豚汁、今度作ってみよう。
後半で和歌山旅行が出てきて、『ひとり旅日和』か、と思ってしまいました。
椿店長がいなくなりホームズ役が立花君とアンちゃんになって、謎のグレードが低くなったような感じがしますが、次はなるほどとうなるほどの謎をお願いします。


<先週のわんこ>


太陽の位置が変わり、影が長くなっています。


光が眩しいです。

いつもはママの寝床の上で寝ようとする兄犬ですが、今朝は来ませんでした。
お年なので、寒さが身に染みて、暖かい自分の寝床で寝ている方がいいようです。
ちょっぴり寂しいママです。

読んだ文庫本2023/12/03

新刊本やミステリ本の合間に読んだ文庫本をまとめて紹介します。


ほしおさなえ 『紙屋ふじさき記念館 あたらしい場所』
コロナ禍で就職活動を行い、吉野百花は念願の藤崎産業に入社し、藤崎一成と共に広報部の『記念館準備室』という部署の所属になる。
ほかの人のアイディアも欲しいので、百花と三人の新入社員が中心のプロジェクトチームが組まれる。
新しい記念館として川越の古い商家の建物を借りることが決まる。
百花は新記念館の計画について考えているうちに、和紙の素晴らしさを広めるだけではなく、和紙に潜む可能性を探り、あたらしい使い方を考え、伝えていくことが大事だと思うようになる。
やがて新記念館のオープンの日が近付く。

ほしおさんの作品の良いところは、無駄に恋バナを入れないところです。
他の作者なら一成と百花を恋人同士にしようとするでしょうがね。
嫌な奴も出てこないし、ア、いとこがいましたが、最後に彼なりに一成を認めていたので、問題ないです。登場人物たちがみんな優等生過ぎるのが難点と言えば難点かな、笑。
このシリーズはこれで終わりです。川越に移ってからの記念館の様子も読みたかったのですが、ほかの川越を舞台としたシリーズが出て、記念館の様子がわかることを期待しますわ。

青木祐子 『これは経費で落ちません!11』
沙名子と太陽の結婚が本決まりになり、沙名子が作ったタスク表をひとつずつ処理していこうとするが、なかなか思い通りにはいかない。
同居か別居か、仕事は続けるか転職するか、婚約指輪や結婚指輪は買うか、両親への挨拶はどうするか、名字は、結婚式は、会社への報告は…etc.。
なんとかひとつひとつクリアしていくが…。

太陽があまりにものんき過ぎて、これからどうなるのかちょっと心配です。
それにしても経理関係のお仕事の本だと思って読んでいたのに、いつの間にか結婚のお話になっていました、笑。
名字をどちらのにするか、じゃんけんで決めるなんて、ナイス、沙名子。そういえば夫婦別姓は未だにできませんねぇ。
ここまで来たら、二人の行く末を最後まで読んでいきます。

中村颯希 『神様の定食屋:4 ハレの日のさじ加減』
この春から大学生のバイトが加わり、ミニコミ誌の影響か、それなりに繁盛していた「てしをや」だったが、SNSに「てしをや」のチキン南蛮がある芸能人の勝負メシという間違った情報が載せられ、客が普段の三倍以上になり、開店前から行列ができるようになる。
喜んだのも束の間、いろいろと問題が出てくる。
神様は相も変わらず、哲史に未練のある死者を押しつけてくる。
バズりはいつまで続くのか…。

今回は小春というバグが現れましたが、いつもと同じお決まりの展開ですので、ご心配なく。
なんのことのない変わらない日常が、なかなか気づけないけど一番いいんですね。

友井羊 『スープ屋しずくの謎解き朝ごはん 巡る季節のミネストローネ』
<第一話:春待つ芽吹き>
理恵は伊予たちから山菜採りに誘われる。山菜を採った後にいつものように慎哉の知り合いの山中で暮らす老人のお宅に行くと、孫の女性がいて、祖父は二ヶ月前に亡くなった、祖父から秘蔵のお宝の話を聞いてないかと尋ねられる。理恵たちはお宝探しを手伝うことになる。
<第二話:真夏の島の星空の下>
半月ほど前、理恵は従妹の睦美とその母親の瑛子と三人で沖縄旅行に行った。
その時、二つの奇妙な体験をした。一つ目はスーパーマーケットに買物に行き、来た道を正確に戻ったはずなのに、別の場所にたどり着いたということ。二つ目は久高島に置いてきたはずの貝殻がバッグの中に入っていたということ。
この話をスープ屋しずくで話すと…。
<第三話:秋に君の言葉を聞きたい>
前郷亜子は大本命の清原仁美を抑えて弁論大会の校内代表に選ばれる。ところがその後、亜子が仁美を引っ掻いて、全身傷だらけにしたという噂が流れる。というのもかつて亜子はカッとなると喧嘩相手を引っ掻くということをしていたからだ。
困った亜子はスープ屋しずくの娘、露に相談する。
<第四話:答えは冬に語られる>
スープ屋しずくの店主麻野は大量の稲庭うどんをフードバンクに寄付しに行った。そこにいた女性スタッフが、麻野が警察官の麻野静句の夫だとわかると、静句が友人の希美にひどいことをした理由を聞いてもらえないかと言い出す。
詳しい事情を訊いてみると…。

出てくるスープが本当においしそうで、飲みたくなります。
菜の花とベーコンのスープ、冷製ミネストローネ、ナスとショウガのポタージュ、栗のポタージュ、オレンジカリフラワーのポタージュ…。
謎解きはこんなおいしそうなスープの付け足しって感じかな(失礼)。
最後がハッピーエンドみたいなので、このシリーズは終わりなのでしょうか?

長月天音 『キッチン常夜灯』
チェーン店「ファミリーグリル・シリウス浅草雷門通り店」の店長をしている南雲みもざはマンションの真上の部屋が火事になり、自分の部屋に住めなくなり、会社に相談する。そうすると墨田区向島にある元寮で今は倉庫の一室にしばらく住めることなる。倉庫には倉庫を管理する金田という男性が住んでいる。
勤務後のある夜、金田が教えてくれた洋食屋を探してみると、本当にあり、「キッチン常夜灯」という看板がかかっていた。
「キッチン常夜灯」はサービスの堤さんと寡黙な城崎シェフがやっているフレンチのお店で、深夜に開き、朝に閉まる。
不眠気味のみもざは居心地の良さから常連になる。
そこは店長という鎧を着たみもざが鎧を脱ぎ、素になれる貴重な場所なのだ。
おいしいお料理を食べ、いろいろな事情のある常連たちと話すようになるうちに、みもざの仕事に対する気持ちにも変化が現れてくる。

「スープやしずく」で出てきた栗のポタージュがこの本でも出てきました。
おいしそうですねぇ。自分でもできるかもしれませんが、誰かに作ってもらいたいです。
とにかく出てくるお料理がすべておいしそう。食べたい…(涎)。

私の昔の職場の人が元ファミレスの店長で、休みも取れず、きつかったので、転職したと言っていました。
みもざはとても真面目な人ので、店長となるとこうあらねばならないと思い込みすぎて、自分から大変な状況にしていそうですね。人に頼ることも大事です。
私もみもざと似た性格なので、よくわかります。
みもざと同様に頑張りすぎるあなた、読んで、肩の力を抜き、なごんでください。

『キッチン常夜灯』以外はシリーズですが、どれも読みやすく、ほっこりしますので、軽いものを読みたい時におすすめします。

中島久枝 『しあわせガレット』2023/12/01

ガレットに引かれて読んでみました。
ガレットとはフランスのブルターニュ地方の蕎麦粉を薄く丸く焼き、ハムや卵、野菜などを具材にし、食事として楽しむものです。
ちなみにクレープは小麦粉で作ったものです。
そういえば中島さんは「日本橋牡丹堂 菓子ばなし」シリーズを書いている人ですね。時代小説だけを書く人ではなかったのですね。


詩葉(ことは)は人づきあいが苦手だ。たわいのない会話が出来ず、その一方でみんなと仲良くしなくてはならないという気持ちが強い。
大学では英文科を選び、英語に関わる仕事をしたいと思っていたのに、就職活動に出遅れ、なんとか警備保障会社に滑り込んだが、二年で辞めた。
その後、契約社員として英文翻訳の会社で一年働き、それからは派遣社員になった。
今は千駄木の大学時代からのアパートで暮らし、結婚もしていないし、子どももいない、貯金もない、安定した仕事もない、ないない尽くしの三十五歳。

派遣契約が終わった日に、詩葉は”ポルトボヌール ガレットとクレープの店”を見つけ、入ってみた。
店主は多鶴という赤い髪をした女性で、メニューのページに詩葉の好きなゴーギャンの絵があった。

ガレットにかブルターニュにか、はたまた店主にかはわからないが、魅了された詩葉は四日間この店に通い、四日目に思い切ってこの店で働かせてもらえないかと頼み込んだ。

ポルトボヌールは不思議なお店。
食べるガレットは必ず自分で選び、他の人とはシェアしてはいけない。
ガレットは多鶴がその人だけのために心を込めて焼くのだから。

詩葉は多鶴や店に来る常連たちと交流するうちに、いつしか自分と折り合いをつけ、変わっていく。

多鶴さんは厳しいです。俳優を辞めて新しい道を進もうとする男性が、今の僕に相応しいガレットをお願いすると、ピシャッと言います。
「あなたはこれから自分の新しい人生を生きるんだから、自分で決めるのよ」
「行き先は変わるだけで旅は続くんだから」

こんな多鶴さんも人生で迷うことがあり、ブルターニュの旅先で出会ったマダムにこう言われます。
「思いどおりになる人生なんてないのよ。だから面白いんじゃないの。もう、好きに生きたら。誰かのためじゃなくて、自分のために」

詩葉は久しぶりに会った高校時代の恩師にこう言われます。
「人それぞれ立場が違うんだから、全員が同じ意見にはならないの。それでいいのよ。あなたはあなた、私は私。遠慮したり、自分を曲げたりする必要はないわ」
「居心地のいい場所を探すのはそんなにいけないこと?(中略)運良く見つけたら、その場所を大事にするの。あなたの人生なんだもの。あなたらしく毎日を過ごすのが一番。誰かのためじゃなくて、自分のためよ」

本に出てくるゴーギャンの『ブルターニュの少女たち』はこの絵だと思います。

       『浜辺に立つブルターニュの少女たち』(1889年)

真ん中の女の子の目が「反逆者の目」で、恨めしそうな顔をしているそうです。
そう言われるとそうですね。
ゴーギャンはパリがいづらくてブルターニュに行き、ついにタヒチまで流れていきます。
結局は「居心地の悪さって自分の中にあるもの」で、「世界のどこに行っても追いかけてくる」もの。そうですね。
 
「流されるほうが楽なのよ。違う、そうじゃない、私はこう思う、こうしたいって言うにはエネルギーがいる。疲れるのよ。ゴーギャンが不機嫌そうな顔をしているのは、分かるわ。あの人はいつもひりひりして、居心地がわるかったんだと思う。……でも、そっちの道を選んだの。いいじゃないの、面倒くさい奴で。無理していい人のふりをするくらいなら、少しくらい嫌われても、私は私の道を歩きたい」

私がゴーギャンが嫌いだったのは、ゴッホを袖にしたというだけではなく、不機嫌な顔をしているからだったのですね。
今頃気づきました、笑。

お話自体はよくある内容で、目新しさはありませんが、多鶴さんの作るお料理が美味しそうで、こういうお店があったら行きたいなと思いました。
まあ、多鶴さんと性格的に合うかどうかわかりませんがねww。

生きづらいと思っている方がいたら、この本を読んでみるといいかも。
読むのが面倒な方は(読んで欲しいですけど)、私が本から抜粋した言葉を読んで、少しでもこころに触れることがあったら嬉しいです。

原田ひ香 『喫茶おじさん』2023/11/29



57歳の松尾純一郎はバツイチで、再婚した妻は娘と暮らすといって出ていき、離婚はまだしていないが、一人暮らしだ。
実は妻の反対を押し切り大手ゼネコンを早期退職し、退職金の一部を使い喫茶店を始めたが半年で潰していた。
現在無職で、知り合いの口利きでどこかの会社に勤めようと考えている。
そんな彼の楽しみは出かけた先の純喫茶巡り。
東銀座、新橋、学芸大学、上野、渋谷、池袋…。
ネットで調べてコーヒーとその店の看板メニューをオーダーして食べるのが至福の楽しみ。

こんな彼にみんなは言う。
「あなたは相変わらず、何もわかっていない人なんですねぇ」(妻)
「お父さんって、本当に何もわかってない」(娘)
「お前は本当に、何もわかってないんだなぁ」(友人)
こう言われても、ピンとこない純一郎。

こんな彼が最後に行き着いたのは…。

世の中のお父さんの悲哀と無神経さを併せ持った純一郎の胃袋の強さに感心しました、笑。
嫌なことや挫けることがあっても、喫茶店に入って美味しいコーヒーを飲み、食事をするとすべて忘れてしまえる。
そういう彼の神経の太さが周りの人にはうらやましくもあり、腹立たしくもありなんでしょうね。

すごいんですよ。ある日なんか銀座の喫茶店に入り、ブレンドとタマゴサンドを食べた後にキッシュとケーキのセット、和栗のタルトを食べるんです。
別の日なんか赤羽でモーニングのバタートーストとコーヒーを食べた後で、またモーニングの厚切りトーストとアイスコーヒーを食べ、老舗のフルーツパーラーでフルーツサンドとホットコーヒーですから。
57歳の男性ってこんなにパンとかスイーツを食べられるものなの?

それに無職なのに、金銭感覚もおかしいです。
「安い、安い」と言いながら、一日に喫茶店2~3軒を回り、2000円から3000円程度使い、ある日なんかとんでもない散財をしています。
東京駅の某デパート内珈琲店でビーフカツサンドとコーヒーを食べたというのに、その後に駅中の某和菓子屋の喫茶店であんみつとコーヒーまで食べるのですから。
一体いくらになるの?
物好きな私はついついメニューを探し、計算してしまいました。
もったいないと思うのは私だけ?
こういう金銭感覚に疎いところが、喫茶店を潰し、奥さんに三行半を出させてしまうのかもね。

読みながらどこの喫茶店か調べて行きたくなりました。
赤羽のプチモンドのフルーツサンドや新橋のカフェテラスポンヌフのナポリタンが食べたいです。
ナポリタンの作り方が書いてありましたが、どなたか作った感想を教えて下さい。
美味しいのなら作ってみるかも。
原田さんは食べ物の描写が本当に上手いですね。

退職して悠々自適な生活なら、こんなのほほんおじさんがいてもいいかなと思いますが、真面目な方が読むと、イラッとくるかも、笑。
松尾さんのことは棚にあげておいて、純喫茶巡りを楽しみましょう。


<今日のわんこ>


久しぶりに兄がやる気になりました。
弟のサンタさんを奪い取り、取ってみろです。
弟はしばらく経つと兄が怖くてサンタさんをあきらめました。
いつもは兄を押しのけるのですけどね。


神社のイチョウも色づきましたが、散りそうです。