北村薫 『語り女たち』 ― 2007/04/05
家が金持ちなので、遊んで暮らせる男がおりました。
彼には空想癖があり、本を読むことが何よりも好きでした。
しかし、年をとるうちに、だんだんと視力が落ちてきて、本を読むのが面倒になってきました。
そこで思いついたのが、昔のアラビアの王がしたように、訪れる女の話を聞こうということです。
新聞に広告を載せると、女たちが話にやってきました。
竹林からついてきた虫を呑み込んでしまい、子を身ごもった女の話。
幼い頃、気になっていた男の子の名を聞く、子供の話。
妻とそっくり同じマネキンを作り、そのマネキンを愛する夫の話。
「走れメロス」の別バージョンが印刷された本を買う話。
自分の前世が梅であったことを思い出す女の話。
それぞれが、なんとも不思議な話なのです。
この中で、好きな話のひとつは、「海の上のボサノヴァ」です。
誰も聞いていないようなフェリーの上で歌を歌う、歌うたいの話です。
音楽の意味を考えさせられます。
「音の響く空間にいる人には届くもの、それが音楽です。どんな大金持ちが楽団を雇っても、同じ部屋に召し使いがいたら、その召使いの耳にだって音は流れ込むんです。
空気は生きてる人間には、平等に吸える。一万倍の金持ちだって、一度に一万倍吸って吐くわけにはいきません。その空気の揺れが音楽なんです。だから、わたしは歌う時、音の届く所にいる人は、皆、お客さんだと思っています。仲間なんです。聞くつもりはなくても、そういう人も、わたしと同じ空気を共有してる。生きているんです。」
彼には空想癖があり、本を読むことが何よりも好きでした。
しかし、年をとるうちに、だんだんと視力が落ちてきて、本を読むのが面倒になってきました。
そこで思いついたのが、昔のアラビアの王がしたように、訪れる女の話を聞こうということです。
新聞に広告を載せると、女たちが話にやってきました。
竹林からついてきた虫を呑み込んでしまい、子を身ごもった女の話。
幼い頃、気になっていた男の子の名を聞く、子供の話。
妻とそっくり同じマネキンを作り、そのマネキンを愛する夫の話。
「走れメロス」の別バージョンが印刷された本を買う話。
自分の前世が梅であったことを思い出す女の話。
それぞれが、なんとも不思議な話なのです。
この中で、好きな話のひとつは、「海の上のボサノヴァ」です。
誰も聞いていないようなフェリーの上で歌を歌う、歌うたいの話です。
音楽の意味を考えさせられます。
「音の響く空間にいる人には届くもの、それが音楽です。どんな大金持ちが楽団を雇っても、同じ部屋に召し使いがいたら、その召使いの耳にだって音は流れ込むんです。
空気は生きてる人間には、平等に吸える。一万倍の金持ちだって、一度に一万倍吸って吐くわけにはいきません。その空気の揺れが音楽なんです。だから、わたしは歌う時、音の届く所にいる人は、皆、お客さんだと思っています。仲間なんです。聞くつもりはなくても、そういう人も、わたしと同じ空気を共有してる。生きているんです。」
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