原田ひ香 『ランチ酒 今日もまんぷく』2021/07/14

私の好きな美味しいものが沢山出てくるお話です。


犬森祥子はバツイチ、娘がいますが、一緒には暮らしておらず、たまに会う感じです。
仕事は夜中の”見守り屋”。
様々な依頼人の家に行き、話を聞いたり、ただ寝ているのを見ていたり、夜から朝まで人を見守ります。
唯一の楽しみが、仕事の終わりに、疲れを癒やしながら飲んで食べること。
どこのお店に行こうかと考える毎日。

そんな彼女に人生の転機が訪れます。
まず角谷との関係が進みます。
そして元夫に新しい家族ができます。
どんな道を選ぼうが、祥子さんなら大丈夫。
美味しい料理とお酒があれば。

第1酒から第16酒までお話があり、様々なお店が出てきます。
今回はお店の場所しかでていませんが、探せば見つかるのでしょうね。
広島の牡蠣やお好み焼き、ビールが美味しそうでした。
広島には一度行きましたがゆっくりできず、通り過ぎただけだったので、今度はじっくり美味しいものを食べたいものです。


今週のおやつ。


実はこの前のおやつの缶、可愛いので何に使おうかと楽しみにしていたら、夫に捨てられてしまいました。
お菓子がチョコレート味で私はあまり好きじゃないので夫にあげたら、食べ終わったので捨ててしまったみたい。
ショックです、笑。
こんどのクッキーは内緒にして、私だけで食べちゃおうかしら。

ちゃかり弟2021/07/15



暑さにも負けず、元気な犬です。


おやつの待てをすると、相変わらず弟はママの方を見ています。
この後、兄は離れておいてあった弟のボーロを食べようとして、失敗。
弟はちゃっかり兄と自分の分のボーロを食べたのでした。

時代小説、三冊を読む2021/07/16

本が溜まってきたので、まとめて紹介します。


佐伯泰英 『一夜の夢 照降町四季四』
このシリーズの最終巻です。
八頭司周五郎が八頭司家から呼び出され、屋敷に駆けつけると、心配していたことが起こっていました。
兄が何者かに暗殺されたのですが、このことを公にはできません。
周五郎は小倉藩当代藩主小笠原忠固の直用人鎮目勘兵衛に面会することにします。
一方、照降町では診療所が建てられ、宮田屋と若狭屋の普請が進んでいました。
佳乃の鼻緒屋も繁栄しています。
新設される中村座では佳乃をモデルにした『照降町神梅奇譚恋之道行』を新築初興行することに決まります。

周五郎はいつか照降町を出て行くと思う佳乃。
果たして周五郎が選んだ道とは…。

女職人の話かと思ったら、違いましたね。
佐伯さんの代表作は読んでないのでなんとも言えませんが、盛り上がりに欠ける作品でした。

赤坂晶 『極楽の鯛茶漬け 伊織食道楽事件帳』
芹沢伊織康昌は膳奉行並の職にあります。
祖父の康高が食中毒の咎で自刃し、膳奉行から膳奉行並に格下げになったのです。ようするに閑職に追いやられており、出仕しても土圭の間で正座したまま下城の時を待つだけなのです。
膳奉行持田次郎左衛門の娘と許嫁の関係なので、持田は伊織に目をかけてくれており、持田に将軍の食事について相談されれば助言します。

ある日、将軍の小納戸役の頭取の大道寺鳳楽に呼びつけられます。
何かと思って行ってみると、用があったのは鳳楽の料理人・安藤六堂の方で、芹沢家秘伝の薬膳料理本「神康調味集」を借り受けたいというのです。
その代わりに格下げになった膳奉行並から正式な膳奉行に戻すというのです。
もちろん芹沢家の門外不出の秘伝書ですから、断りますが、伊織は不審の念を抱きます。
案の定、その裏には驚くべき陰謀が…。

最初からシリーズにする気が満々の本ですね、笑。
表紙が可愛らしいですが、中身は硬派です。
伊織みたいな聡明で調理の腕のみか武道にも優れる人は嫌いではないので、次も読みますわ。
飽食に飽きた将軍相手ですから、料理がそれほど美味しそうではないのが難点です。何しろ将軍の好物が紅ショウガですからねぇ、笑。

坂井希久子 『江戸彩り見立て帖 色にいでにけり』
知らないで読んだのですが、『居酒屋ぜんや』を書いた作家さんの本でした。
今回の主人公はお彩。
腕のいい摺師だった父親が火事で視力と仕事場を失ったため、貧しい長屋でほそぼそと針仕事をしながら暮らしています。
そんなお彩のたぐいまれな天性の資質に気付き、それを利用しようとするのが京男の右近という男です。
一体彼の意図はどこにあるのでしょうか。

江戸時代のカラーコーディネーターのお話です。
お彩が右近を嫌ってばかりいるのが、ちょっと鼻につきますが、これからどんな風に彼女の色彩感覚が生かされていくのか興味が湧きます。

道尾秀介 『雷神』2021/07/17



埼玉県で小料理屋を営む藤原幸人のところに一本の脅迫電話がかかってきます。
15年前に幸人の妻は事故で亡くなり、娘の夕美には事故の詳細は伏せられていました。
男は店にまで来て脅すので、幸人は娘と妹を連れて、どこか遠くへ行こうと思います。
写真を学んでいる夕美は父に尊敬する写真家の一枚の写真を見せ、その写真が撮られた場所に行きたいと言います。
それは三十年前に一家で逃げ出した村、新潟県羽田上村で写されたものでした…。

三十一年前、幸人の母は不審な死を遂げます。
その一年後、村の伝統祭”神鳴講”の日に、幸人と姉は雷に打たれ、毒殺事件が起こり、父が犯人だと疑われたのでした。

幸人たち三人は名を偽り、祭を取材に来たと思わせ、羽田上村へ潜入し、三十年前のことを村人たちに聞いて回ります。
はたして母の死の真相は何か、そして父は本当に罪を犯したのか…。

閉鎖的な村故、最初の罪が明かされず、そのため次の罪が犯され、そして三十年後も…。
無垢は一見よさそうに見えますが、無垢故に悲劇を生むこともあるのです。
はたして三十年後の悲劇は避けられなかったのでしょうか。

道尾さんの本を読むのは初めてだと思いますが、なかなか面白かったです。
『神』シリーズは他に『龍神の雨』と『風神の手』があるそうなので、読んでみたいと思います。

小堀鴎一郎・養老孟司 『死を受け入れること 生と死をめぐる対話』2021/07/18

この本はそれほど生と死については語っていません。
どちらかと言えば、二人の辿った人生について語っていると言った方がいいようです。


小堀さんと養老さんは学校は違いますが、それぞれ1938年、1937年生まれなので同級生です。

小堀さんは森鴎外の孫に当たり、鴎外の娘・杏奴の子です。
小・中学校と自由な教育をすることで有名な成城学園で学びます。
成城学園には試験も成績表もなかったそうです。(今はどうなのかしら?)
中学校三年の時に大秀才の同級生に「医者ほど立派な職業はない」と勧められたから医者になることにしたそうです。
戸山高校から東大を目指すことにしたのですが、いかんせん試験に慣れていません。そのため受験に失敗し他の私立高校に入学し、戸山高校へ編入学をすることにします。一年の時はダメで、二年の時に編入学できました。
しかし当時戸山高校は毎年100人ぐらいが東大に入るような進学校だったので、本人曰く、落ちこぼれてしまい、浪人します。
浪人二年目に東大に合格しますが、医学部に入るためにまた一年浪人したそうです。結構苦労したのですね。東大医学部にそこまでこだわったのは何故なのか?
外科医として食道癌を専門にし、東大医学部付属病院、国立国際医療研究センター病院に勤務し、定年退職後、埼玉県新座市の堀之内病院に赴任し現在に至っています。堀之内病院でのことは、映画「人生をしまう時」を観てください。

養老孟司さんは4歳の時に父親が亡くなり、医者だった母親に育てられます。
小学校四年生から虫取りに夢中になり、それからずっと続けているそうです。
カトリックの修道会であるイエズス会が運営する栄光学園中学校・高等学校で学び、ストレートで東大に入学し、医学部に進み卒業します。
彼が医学部に行ったのは、農家に生まれ、婿をとらされて家業を継ぐのが嫌で、家を飛び出し医者になった母親が、手に職を持った方がいい、医者になったほうがいいと言ったからだそうです。
でもインターン中に三回医療事故を起こしかけ、人って簡単に死ぬんだと怖く思い、医者に向いていないことを悟り、解剖学の道に進んだそうです。
虫取りも解剖も一人でやるので、自分は組織には向かないと言っています。
57歳で退官し、それ以来ハッピーだそうです。

二人で東大の思い出を語っています。
養老さんは昆虫のことを勉強したかったのですが、東大の農学部にあったのは「害虫学」で、虫を見れば害虫と思えというようなところだったそうです。
医学部には変った先生が多かったようです。
例えば、ある教官が「ここから(東大病院)紹介できるのは天国しかない」とか信じられないような傲慢な発言をしたり、東大病院の重みを過大評価して、命が軽く扱われるようなことがあったそうです。
女医も歓迎されていなく、ソ連の医者の半数が女子であるから、ソ連の医療は程度が低いという先生もいたとのこと。
東大に女子学生が少ないのは、東大が女性にあまり向かないからという面があると養老さんは言っていますが、今も変っていないのかしら?

80歳を越している二人ですが、健康診断もせず(小堀さんは医師の義務としての最低限の検査のみ)、病院にも行っていないそうです。健康なのですね。
養老さんによると、ホスピスに勤めている女医さんが、ホスピスで一番元気そうにしているのは、その日その日を楽しんで生きている人だと言っていたそうです。
その人たちにとっては今しかないんだから。死ぬことを考えても仕方がない。今日一日どうやって暮らすかを楽しんでいる。要するに、それが生きているということだと。
「人生は遊び半分でいい」というのが彼の言葉です。
小堀さんは「死を怖れず、死にあこがれず」と言っています。
二人共に自分の好きな仕事をして、社会的に認められているからこそ、人生に悔いはないと言えるんでしょうね。

本の中に出てきた茨木のり子の詩「さくら」を載せておきます。


さくら

ことしも生きて
さくらを見ています
ひとは生涯に
何回ぐらいさくらをみるのかしら
ものごころつくのが十歳ぐらいなら
どんなに多くても七十回ぐらい
三十回 四十回のひともざら
なんという少なさだろう
もっともっと多く見るような気がするのは
祖先の視覚も
まぎれこみ重なりあい霞だつせいでしょう
あでやかとも妖しとも不気味とも
据えかねる花のいろ
さくらふぶきの下を
ふららと歩けば
一瞬
名僧のごとくにわかるのです
死こそ常態
生はいとしき蜃気楼と


「死こそ常態 生はいとしき蜃気楼」とは深い言葉です。
若い頃は「自分の感受性ぐらい」や「わたしが一番きれいだったとき」が好きでしたが、老いを感じるこの頃は73歳で書いたといわれる「倚(よ)りかからずに」が心を打ちます。


倚(よ)りかからずに

もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある

倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ


「倚りかかるとすれば それは 椅子のせもたれだけ」とはなんと潔いことか。
茨木さんは夫が亡くなった49歳の頃から独り暮らしをしていました。
79歳の時、親戚の人が訪ねてきて、亡くなっている茨木さんを発見。遺書は死ぬ前から用意されていたそうです。
望むらくは、彼女のような死を。
死を選べなくても、自分の望みだけは前もって告げておこうと思います。
後は委ねるだけですよね。どうなることやら。

「ポルトガル 夏の終わり」を観る2021/07/19

映画で海外旅行をしようという2作目。
行くのはポルトガルの町、シントラです。
シントラは首都リスボンから電車で40分、町全体が世界遺産です。
ムーア人が建てた城跡や、ジョアン1世が夏の離宮として建てた王宮、イスラム・ゴシック・マヌエル・ルネサンスなどの様々な建築様式で造られたペーナ宮殿など、それぞれの歴史を象徴する貴重な建造物が残っているそうです。
バイロンが「エデンの園」と称賛した町でもあります。


女優のフランソワ・クレモント(フランキー)はバカンスにポルトガルのシントラにやって来ました。
自分のバカンスなら、夫と二人で楽しめよといいたくなりますが、彼女はわざわざ他の家族も呼びつけていますが、それには理由がありました。
呼びつけられた5人(前夫のミシェルと彼との息子・ポール、今の夫・ジミーの娘・シルヴィアと彼女の夫・イアン、彼らの娘・マヤ)の中で特にシルヴィアとイアンはフランキーに呼びつけられたことに不満を持っているようです。

フランキーの息子のポールは15歳の時に義理の妹のシルヴィアと関係を持ったようです。
まだ母親から独立していない感じで、彼の部屋が水漏れしていると、フランキーに文句を言いに来るような奴です。
自分でホテルと交渉すれよな、大人なんだから。
彼はどんな仕事をしているのかわかりませんが、NYで仕事をしたいからと母親からお金を巻き上げようとしています。
それが上手くいかないとわかると、母がくれた腕輪を森の中に投げ捨てます。
腕輪、見つかったかしら?

シルヴィアはイアンと離婚を考えており、密かに娘のマヤと暮らす部屋を探しています。
マヤは母の行動を知っており、離婚はしてもらいたくないようです。
一人でビーチに行き、電車で話しかけて来た男の子とひと夏の淡い恋をします。

ミシェルはジミーにフランキーと別れた後に自分がゲイであることに気づいたことを告白します。
そしてフランキーと別れた後は人生が変るとジミーに言います。

そんな家族たちの中にフランキーのヘアメイクを担当していたアイリーンが恋人のゲイリーとやって来ます。
フランキーはアイリーンがポールとくっつかないかと期待して招いたのです。
ゲイリーはアイリーンにプロポーズをしますが、アイリーンは断ります。
フランキーの意図を知ったポールとアイリーンは互いに結婚には向いていないことを確認し合います。

美しい世界遺産の町のあちこちで、彼らは会話をし、最後に全員がロカ岬に集まります。フランキーが日没に集まるように言ったからです。
ただ集まって岬をそれぞれバラバラに下るだけ。
フランキーが何をしたかったのかは最後までわからないまま終ります。
ただ美しい一日の終わりの風景が映っているだけです。

イザベル・ユペールさんの着ていた衣装が素敵でした。スカートは少し派手な色でもいいのですね。今度マネをしましょう。
私はジミーがフランキーのために買っていたお菓子が気になりました。
たぶん「ピリキータ」という店のケイジャーダ(チーズタルト)でしょうね。食べてみたいです。
映画の中でフランキーが弾いていたのが、フランツ・シューベルトの「楽興の時」第2曲変イ長調だと思います。
映画で出てきた場所はマサス海岸、王宮、ペーナ宮殿の庭園と東屋、結婚の泉、森林公園、レガレイラ宮殿、ロカ岬、ペニーニャの聖域などです。
宮殿の中が映っていないので行って中を観たいですね。

何気ないたった一日を描いた作品です。
何も考えることなく、美しいシントラの町を眺めていくといいでしょう。

西條奈加 『亥子ころころ』2021/07/20

『まるまるの鞠(いが)』の続編です。


「南星屋」は元武家出身の菓子職人・治兵衛と出戻り娘のお永、孫娘のお君の三人で営む店です。
全国各地の銘菓を季節ごとに、仕入れや天気、気分次第で毎日二種作り、販売しています。値段が手頃で美味しいので、大層賑わっており、すぐに売り切れになります。

そんな「南星屋」に一大事。治兵衛が手を痛めてしまったのです。
菓子を二種作っていたのを一種にし、片手で仕上げられるものばかり選びましたが、それをいつまでも続けてはいけません。
医者の見立てではへたをすると半年もかかるかもしれないとのこと。
職人を雇うと儲けどころか足がでます。
どうしようかと困っているところに、地獄で仏とはよく言ったもんで、店の前に男が行き倒れており、雲平というその男が菓子職人だったのです。

雲平は京からやって来たらしいのですが、元は治兵衛のような渡り職人でした。
番長にある旗本屋敷に奉公している弟分の亥之吉からの便りが半年ほど前に途絶えたのを心配して、駆けつけてきたのです。
旗本屋敷に行ってみると、亥之吉は屋敷を出て行方不明とのこと。
治兵衛は雲平のために、弟の相乗寺の元住職である五郎に旗本屋敷のことを探ってもらうことにします。
亥之吉のことがわかるまで、雲平は店で働いてくれることになります。
雲平は立派な職人で、いつしか治兵衛は彼と一緒に働くことで職人としての矜恃を思い出していました。

美味しそうなお菓子と人情溢れるお話です。
続編はあるのかしら?
できればお永とお君の二人が幸せになって終わって欲しいですね。
ほんわかした時代小説がお好みならおすすめです。


また弟が兄が部屋から出ようとしていますと教えてくれていましたが、出られないと思ってほっておくと、何やら爪の音が聞こえます。


まさかと思って見に行くと、兄がリビングにいます。
どうやって部屋から逃げ出したのか、わかりません。
置いてあった荷物の上になんとか飛び乗り、部屋から出たのかしら?
ママ会いたさに、すごい根性です。

昨日もパパがハウスと言っても動かず、ママの指示を待っていました。
家の順位はママ→兄→パパ→弟なのかな。
パパと弟の順位がどうなのか、ちょっとあやふやですが、笑。

澤田瞳子 『星落ちて、なお』2021/07/21

2021年第165回直木三十五賞受賞作品。
一般的に直木賞と言われていますが、通称なんですね。
(ちなみに芥川賞も通称で、正式には芥川龍之介賞です)
直木賞は「毎年、春秋の二回、すぐれた大衆文学を書いた新進もしくは中堅の作家に贈られる」賞のようです。(「精選版日本国語大辞典」による)
もう一作の『テスカトリポカ』はエグいお話らしいので、文庫本になったら読もうかと思います。図書館では予約が300以上なのですよ。


河鍋暁斎没後の娘・とよ(暁翠)の人生を描いた話です。

一応父の河鍋暁斎のことを載せておきます。
天保2(1831)年に今の茨城県古川市に生まれ、7歳で歌川国芳に浮世絵を学び、その後狩野派の前村洞和と洞和の師匠白陳信に師事。
安政4(1857)年に独立し、狂斎と号し、狂画、風刺画などを描く。
明治3(1870)年、書画会で描いた戯画が原因で投獄され、出獄後に号を暁斎と改める。
1881年第2回内国勧業博覧会に出品した『枯木寒鴉図』が妙技2等賞を受賞。
狩野派を土台に浮世絵を交え、高い写実力で知られる。奇行・奇談に富んだ酒豪家としても知られた。
代表作は『地獄極楽図』、『花鳥図』、『山姥図』など。
(「ブリタニカ国際大百科辞典」より)

             河鍋暁斎  ≪地獄極楽図≫

享年59歳で暁斎は亡くなり、弟子の酒問屋・鹿島屋の八代目・鹿島精兵衛が葬儀の支度から僧侶の手配までの一切を取り仕切っていた。
暁斎は娘のとよと体の弱いとよの妹のきくと暮らしていた。
暁斎の子は嫁いだとよの姉のとみと養子に出した弟の記六、そして兄の周三郎がいる。

周三郎は暁雲の画号を持ち、本郷大根畑の家に暮らしている。
彼は母親が産後の肥立ちが悪く亡くなったため他家に養子に出されたが、養子先の父母と反りが合わず、17歳で戻って来てから暁斎に弟子入りした。
暁斎の奔放さを引継いでおり、墨絵を描かせれば、門下で右に出る者はいないほどだった。
ところが養子に出されたことを未だ根に持っているのか、暁斎死して今も暁斎たちによそ者扱いをされたとか色々と難癖をつける。
暁斎の残した遺品もとよたちに断りもなく売ってしまおうとする。
とよには、暁斎が北斎のように、自分の片腕として使える葛飾応為みたいな女絵師を持ちたくて、お前に絵を仕込んだとまで言う。
とよはそれは違うと言えない。

明治となって以来、日本の絵画界は大きな変革を遂げていた。
西洋から流入した油絵がもてはやされ、狩野派は黴臭いものとみなされた。
西洋画法に見られる色彩や遠近法をどう導入するか、新しい日本画の模索が始められていた。
それなのに周三郎は何一つ変らぬ絵を描き続ける。

             河鍋暁雲 ≪カラスの図≫

とよはとよで偉大な父を超える才を持っていない自分を十分自覚していた。
それ故、兄の自らの筆に対する自信と強さ、不器用さを、どれほど羨ましく思ったことか。
それでもとよは筆を投げ出すことができなかった。
縁あって結婚し、娘を産むのだが…。

自らを「画鬼」と称した暁斎ですが、子たちは父を超えようとしても、超えられず、もがき続け、特に周三郎は父に執着し過ぎたため空しい最期だったようです。
時代にこびろとは言いませんが、父から独立し、もう少し柔軟に自分の描くべき絵を追求していけなかったのでしょうか。
カラスを見ただけで、画才があるのがわかるだけに残念です。

暁翠は美人画を得意としたそうです。

           河鍋暁翠 ≪五節句之内 文月≫

もう一人の偉大な父を持った絵師と言えば、本にも出てきた葛飾応為ですが、彼女の絵と比べるとスケールが小さく、小粒という感じです。
本人の性格によるのか、応為の方が伸び伸びと育ち、父親にそれほど依存していなかったみたいです。
葛飾応為について知りたい方は、朝井まかての『眩(くらら)』を読んでみてください。

直木賞を取ったというので、読んでみましたが、私には『火定』の方が読み応えがありました。

読んだ本2021/07/22

本が溜まってきて、記憶が定かではなくなりつつあるので、一遍に紹介します。


『猟犬』 ヨルン・リーエル・ホルスト
ノルウェーの警察ミステリー。
ラルヴィック警察の警部であるヴィリアム・ヴィスティングは、七年前の誘拐殺人事件の容疑者有罪の決め手となった証拠が偽造されていたということで、責任を問われ停職処分を受ける。
ヴィスティングは署内の誰がDNAの証拠物件を紛れ込ませたのかを見つけ出すために、独自に再度事件を洗い直すことにする。
ヴィスティングの疑惑を大々的に報じた大手タブロイド紙≪VG≫の記者をしている娘のリーネは父親の無実を信じ、ヴィスティングと一緒に真相を追うことにするが、別の事件にも関わることになる。

シリーズの8作目で、このシリーズは最初から訳されていないようです。
前の作品を読んでいないから理解できないという訳ではないです。
父が静なら娘が動という感じです。(アラ、あとがきにも書いてあったわ)
そういえば警察小説に出てくる警官たちって、幸せな家族がいる人って少ないわねぇ。ヴィスティングは一緒に暮らしている彼女がいるけれど、そろそろ別れそうだし…。

『生物学探偵セオ・クレイ 街の狩人』
『森の捕食者』では人並み外れた働きをしたセオ・クレイですが、大学を辞め、テクノロジー企業に勤めているようです。でも野性味溢れる彼がいつまでも我慢できるわけがないわよね。
9年前に失踪した子どもの父親が来て、事件を調べてもらいたいと言われると、引き受けちゃいます。

彼の調査方法などは本を読んで下さい。本当にこんな感じで行方不明者や犯人を捜せるのかとびっくりしますよ。
地元警察やFBIと協力関係を築けないのは彼の性格が悪いのかしら、笑。
ちょっと変った探偵が好みの方には面白いかも。

碧野圭 『菜の花食堂のささやかな事件簿 裏切りのジャム』
館林優希は会社を辞め、下河辺靖子先生の料理教室や菜の花食堂、瓶詰の生産・販売を手伝っています。
菜の花食堂は週六日、ランチタイムから夕方まで営業しており、夜は予約のお客さまだけですが、なかなか評判がよく、上手くいっています。
実は靖子先生、謎解きが得意なんです。
今回も5つの謎
①夫のダイエットに妻がカリカリする訳 ②捨て犬の秘密 ③誰が何のためにジャムをカビさせたか ④何故義母は同居を拒むのか ⑤パンの謎
を解いていきます。

ちょっとした人の悪意にヒヤッとさせられるシリーズです。

椹野道流 『最後の晩ごはん 後輩とあんかけ焼きそば』
芦屋にある定食屋「ばんめし屋」で働く五十嵐海里のところに、芸能人時代の弟分、里中李英がやってきます。
彼は地道に小規模な舞台作品に出演し続けて経験を積み、今や「主役を張れる演技派俳優」として認められるようになっていました。
新しい事務所に正式に移籍し、舞台稽古があるので、年内に東京へ引越すると報せに来たようです。
それまで「ばんめし屋」の近くの短期貸しマンションに住むと言います。
よろこぶ店主の夏神と海里、眼鏡のロイドは早速送別会をすることにします。
しかし送別会の日、李英は現れません。心配した海里が李英のマンションに駆けつけると…。

海里が挑戦している朗読のことが少ししか書かれてなくて残念。
なかなか進みが遅く、引き延ばしますねぇ、笑。
もちろん最後は海里が再度舞台に、ですよね。

どの本もそれなりに面白いので、興味が持てたら読んでみて下さい。


今週のおやつ。


六花亭のおやつです。(夫が好きなんです)
今回は保冷用バッグがついていました。
柄が可愛いのですが、それなりの仕様で、しばらく使うとダメになりそうです。
ちゃんとしたビニール製のしっかりしたバッグなんか売っていないのでしょうか?
あったら欲しいわ。

海堂尊 『医学のひよこ』2021/07/23



懐かしい桜宮市のみんなが登場します。
読みながら、アレ、知らないよと思ったら、この本の前に『医学のたまご』という本があったんですねぇ。
途中から読んだので、中学校3年生になった主人公の曾根崎薫君に何があったのか、そしてどんな目に遭ったのかが詳しくわかりません。
読む場合は順序よく、『医学のたまご』→『医学のひよこ』→『医学のつばさ』と読みましょうね。

中1の時の「全国統一潜在能力試験」で全国1位をとったばかりに、飛び級で東城大学医学部に入学した曾根崎薫。
たまたま父親が問題作成者で、息子を実験台にして問題を作ったため、1位になれたのです。ようするにいかさまみたいなもんです。
前回、薫は正規の大発見をしたと脚光を浴びた後でその発見が間違いだったとわかり、トンデモ中学生になってしまいました。
その原因の一端が指導教官の藤田教授にあるため、薫は東城大学医学部に不信感があるようです。

ある日、中学校の仲間たちで秘密基地の側にできた洞穴を探検することにします。
メンバーはしっかり者で、面倒見のいい学級委員の美智子とガリ勉で医学部志望の三田村、「平沼製作所」の孫で「平沼深海科学技術研究所」の所長の息子のヘラ沼、そして薫です。
洞穴の中には白くて大きい「たまご」がありました。
4人はそのたまごを毎日放課後順番で観察することにします。

たまごは新種の生物ではないかと思った4人は東城大学医学部に研究協力をお願いすることにし、薫は『神経制御解剖学教室』で一緒に学んでいる佐々木アツシ(『モルフェウスの領域』参照)に相談します。

やがてたまごの孵化が始まり、赤ちゃんが生まれました。
<いのち>と名づけられた赤ちゃんは医学部付属病院の看護師たちの協力も得、オレンジ3階に運ばれ、無事に育って行くのですが…。

新種の生物を手に入れ、動物実験をし、研究発表を目論む研究者たちと、動物実験に反対し、<いのち>を守り、育てていこうとする子どもたちとの戦いです。
東城大学側では藤田教授が登場し、文科省スカーレット小原紅と組み、日本政府まで巻き込んでいきます。
中学生側に付き戦うのが、懐かしの田口先生(いつのまにか教授になってます)と高階学長、ロジカルモンスター白鳥。
さて、この戦いはどうなるのか。

子どもたちののどかな冒険小説かと思いながら読んでいくと、醜い大人たちの争いが紛れ込んできて、嫌ですねぇ~。
『医学のつばさ』では大逆転と行きたいものです。