森見登美彦 『新釈 走れメロス』2007/11/13

勝手に森見さんのことを新進作家としてしまいましたが、ひょっとして若い方達にはすでに知られている人ですか。
そうならすみません。彼っておもしろいですね。

「山月記」、「藪の中」、「走れメロス」、「桜の森の満開の下」、「百物語」。
あなたは誰が書いたかわかりますか?
すべてわかる人は、日本文学の年表をそうとう見てますね。
私は最初の3つしかわかりませんでした。
その3つしか読んでませんね。(たぶん。「桜の…」は読んだかも知れません)
答えを一応載せておきましょう。それぞれ中島敦、芥川龍之介、太宰治、坂口安吾、森鴎外が書きました。
この文豪たちの話を基に、森見さんは物語を書いちゃったんです。怖いもの知らずですね、笑。

場面は京都。なんと言っても京都!出てくるのは、摩訶不思議な人たちです。
面白かったお話を2つご紹介しましょう。

まずは「山月記」。例の虎に変身する話です。(はしょりすぎですね)
森見さんの書く山月記は、齋藤秀太郎という書くこと以外を馬鹿にしてやらない男の話です。
周りが単位を取るのに必死になっていようが、卒業していこうが、頓着せず、できるだけ長く大学に居座り続け、親が仕送りを止めようが、プロ並みの麻雀でお金を稼ぐ、そういう男です。
意外と彼、周りから尊敬されていたのです。
彼は卒業式に高見の見物に出掛け、まっとうな人生を歩こうという人たちに向かい、「さらば、凡人諸君」などと言うんですけどね。
人は自分が出来なかったことをやっている人を羨望の目で見るものですから、齋藤もその対象になるんです。
さて、齋藤が何になったかは、読んでのお楽しみに。

「走れメロス」はハチャメチャです。ネタバレしちゃいますが、面白いので書きますね。
『夜は短し 歩けよ乙女』に出ていた文化祭が、またまた登場です。
「象の尻」という意味不明の前衛的展示まで登場してます。
鯉のぬいぐるみを背負った黒髪の乙女が出てくるかと期待したのですが、残念、いませんでした。
主人公メロス役はアホ学生の芽野史郎。
彼がたまたま勉強でもするかと思って大学へ行くと、なんと文化祭真っ盛り。
仕方がないので、久しぶりに詭弁論部へ顔出しに行くと、看板がなくなっていて、代わりに「生湯葉研究会」という看板があるではありませんか。
炬燵に入っていた詭弁論部の面々に話を聞くと、「図書館警察」により、看板を剥がされたとのこと。
怒ったメロス、芽野は「生湯葉研究会」の看板を引きはがすと、「図書館警察」が現れ、傍若無人な陰の最高権力者、図書館警察長官の前に連れて行かれます。
因みに「図書館警察」とは、借りた本を返却しない連中に制裁を加えるのがもともとの役割ですが、今は得意な情報網を巡らせ、全学生の個人情報を一手に握り、大学を手の中にしている奴らなのです。
図書館って個人情報の宝庫ですよね。
何を読んだかを見ると、その人の頭の中がわかりますもの。(読んだ本を紹介している私の中身もバレバレ?)
長官は言います。「僕は誰も信頼しないのだ」 詭弁論部を救いたいなら、「グランドに設営してあるステージでブリーフ一丁で踊り、フィナーレを飾れ」と。
芽野は言います。「これから郷里へ戻って姉の結婚式に出なければならない」
無二の親友、(セリヌンティウス役)芹名を人質として置いていく。(実は芽野には姉なんていない!)
芹名は言います。「俺の親友が、そう簡単に約束を守ると思うな」
騙されたことに気づいた長官は、芽野の居所を探り、身柄拘束を命じます。
さて、さて、逃げる芽野。追う「自転車にこやか整理軍」。
果ては、あこがれの須磨さんや詭弁論部員までが芽野を追いかけます。
非情にも日は暮れ、芹名は桃色ブリーフ一丁でステージに上がり、大群衆からブーイングを浴びながら、「美しきドナウ」に合わせて踊り狂います。
そこに現れたのが、同じ格好をした芽野。
かくて二人は桃色ブリーフのみを身に付け、貧弱な肉体をさらし、踊り狂うのであった。
感動した図書館警察長官、「僕も仲間に入れてくれ」と服を脱ぎ捨てると、桃色ブリーフが。
彼らは友情で結ばれ、優雅に黙々と踊り続けるのであった。
アハハハ。「走れメロス」もこれではね。

結構こういう馬鹿らしい話、好きです。
文豪の作品が、森見さんによってどう料理されたか、読んでみてください。