三浦しをん 『まほろ駅前多田便利軒』2008/02/05

この本は三浦さんが直木賞を取った本です。
彼女のどの本を読んでも、同じものがなく、作家の多才さを感じますね。
でも、この本、私的には前の2冊ほど好きではありません。
なんでこの本で直木賞なのでしょうかね?

多田啓介は一人で便利屋をして暮らしていました。
彼は一度結婚していて、奥さんは弁護士。
子どもができたのですが、この子どもが死んでしまい、そのことがしこりになって離婚していました。

お正月が過ぎてしばらくして、バス停の前の家から仕事の依頼がきます。
どうもバスが間引き運転しているらしいから、始発から最終までバスを調べてもらいたいというのです。
なんで休みの日に調べるんだよ。普通の日の方がいいというのが、わからないのかよ。
などと悪態をつきながらも、お得意さんなので出掛けました。
仕事が終わって、帰ろうとすると、バス停のベンチに誰か男が座っています。
この男は多田の高校時代のクラスメイト、行天晴彦でした。

高校時代の行天は言葉を全く発しない男で、変人として通っていました。
工芸の時間、何人かの生徒が騒いでいたので、多田は悪意から、椅子をわざと彼らのうちの誰かが引っかかるようにと置いておきました。
本当に誰かが椅子に引っかかり、行天にぶつかってしまいます。
行天は機械で小指を切ってしまい、初めてみんなの前で、「痛い」と声を出しました。
指は無事にくっつきましたが、この事件以来、多田は行天に対して引け目を感じていました。

バス停で出会ってから、行天は多田の事務所に居座るようになります。
あんなに無口だった行天が、妙にしゃべるようになっていて、便利屋の仕事を手伝うはずなのに、身体を動かすのが嫌がりますし、どんでもない凶暴性もあるようです。
彼の家族が何やら彼に影響を与えていたらしく、下手をすると親を殺しそうな感じです。
どうも結婚もしていたらしく、なにやら訳ありのようです。
不思議な、男二人の生活が始まります。

もう若くはない人なら、良くも悪くもいろいろな経験があり、それがその人の人生に微妙に影を投げかけていることがありますよね。
それがその人の人間的幅になっていくように思います。
失敗(人生に失敗はない?)から何を学ぶのかが大切なのかもしれません。
さえない、一般的に見れば社会の下層、今時の言葉(古いか)でいうと、「負け犬」の二人ですが、一生懸命生きていさえすれば、みな等しく美しい(?)。
なんとなく、どうってことないんだけれど、地道に生きていこうと思えました。