伊吹有喜 『雲を紡ぐ』2020/03/14

3月なのに、雪が降っています。
この頃、気候も変ですね。


いじめが原因で高校へ行けなくなった美緒。
祖父母がくれた赤いホームスパンのショールが唯一のよりどころでしたが、母はショールを捨ててしまいます。
母に怒りをぶつけますが、母は美緒の気持ちを理解できませんでした。
美緒は岩手県盛岡市にある祖母の経営する山崎工藝社へ家出をすることにします。
祖父の紘治郎は驚きつつも美緒を優しく受入れてくれ、美緒がホームスパンに興味があるのがわかると、自分の好きな色でショールを作ることを勧めまてくれます。
ホームスパンの職人である祖父や他の職人と働くことにより、美緒はホームスパンの魅力に惹かれ、自分の道を探っていくこととなります。

一方、美緒の両親に離婚話が持ち上がります。
教師である母、真紀は仕事が上手くいっておらず、子どもが不登校であることからネットで批判されていました。
真紀の母も元教師で、美緒のことにも色々と口出しをしてきます。
父、広志は家電製品の開発をしてきたのですが、会社が業績不振で家電部門から撤退するという噂があります。
仕事が減り、定時で帰れるのに家に帰りづらく、ドトールで時間を潰していました。
紘治郎とは母の香代の葬式の時に行違いがあり、それ以来会っていません。

初めて訪れた家族の危機にそれぞれがどういう決断をくだすのか・・・。

一番近いけれど遠いのは家族なのかなと思いました。
美緒の母は、「強くあれ」という自分の母の呪いに悩まされているようです。
そのため、いじめから逃げる美緒に強く当たってしまうのでしょう。
彼女が泣くのを見て、自分が許されなかったことをしている彼女が許せなくて、娘に向かって「女を売りにしている」と口走ってしまったのでしょう。
それに学校の教師もこうでなければいけないという理想を体現しなければなりませんから、救いがないですね。
広志さん、彼女のかたくなな心を溶かせるのはあなたです、頑張って下さい。
定年退職したら、盛岡に住むのもよさそうですよ(笑)。

盛岡にはまだ行ったことがないのですが、いい所のようですね。
都会に住むよりも自然と共に暮らす方が美緒には合っているみたい。
美緒が少しずつ自分の世界を広げられたのは、周りの人々と自然のおかげです。
まだまだしっかりと自分の道を歩んでいない美緒ですが、おじいちゃんの後を継いで、いいホームスパンの作品を作っていけるといいですね。

『西の魔女が死んだ』と中島みゆきの「糸」が合さった小説でした。
盛岡に行きたいなぁ~。

大崎梢 『横濱エトランゼ』2020/03/15



高校三年生の千紗は推薦で大学も決まり、横浜のタウン誌「ハマペコ」編集部でアルバイトを始めます。
近所に住む初恋の人である善正が働いていたので、無理矢理お願いして採用してもらったのです。
善正は編集長が入院したので編集長代理をして忙しい思いをしていました。

千紗はタウン誌の用事で訪れることで色々なお店や人と出会い、横浜の歴史や不思議、暮らしている人々の思いなどを知ることになります。

横浜には何回か行ったことがありますが、知らないことが沢山あります。
元町の百段階段、山手洋館の不思議、根岸の競馬場、馬車道まつり・・・。
今度行く時はもう少し歴史を知っていきたいと思いました。

大崎さんの作品では本屋や出版社のものが好きなので期待して読みましたが、ちょっと物足りない感じでした。
主人公が幼すぎるかな。
知らない横浜の魅力を感じるには良い本でしょう。


南杏子 『ステージドクター菜々子が熱くなる瞬間』2020/03/16



サイレント・ブレス』や『ディア・ペイシェント』などの医療小説を書いた南さんの最新作。
今度も女医ですが、扱うのはステージ。
スポーツドクターは有名ですが、医師でも色々な所で活躍するのですね。

菜々子は医療事故をきっかけに都心の大病院を退職し、兄が経営する個人病院で働き始めます。
市の教育委員会で働いている同級生に頼まれ、市民会館でステージに立つ出演者たちの医療サポートをすることになります。
出演者には末期癌のお笑い芸人、白血病の少年、歩行困難のある女社長、演歌歌手、慢性疾患持ちの和太鼓メンバーたち、アルコール依存症の市民合唱団の指揮者
など、どの人もステージに立つためには医療的配慮が必要です。
最初は兄に反対されていましたが、菜々子の熱意に周りも協力してくれるようになっていきます。

菜々子が大病院を辞めるきっかけになったことも上手くおさまりますが、そんなことでくじけていたらこれからも医師を続けるのが辛いんじゃないかなと思いました。
今の時代、モンスター・ペイシェントなんか沢山いますから。
それに問題のありそうな彼氏が出てこなくて、変だなぁと思っていたら、やっぱりねぇ。
でも、彼女のような内科医が身近にいてくれたらいいなと思いました。
ホーム・ドクターになっていただきたいぐらいです。

前作に比べると印象の薄い作品ですが、後味のいいほっこりできるお話です。

お家で遊びます2020/03/17

「今日はおうちでボール遊びをしました」


「ママ、ボールを取ってみて下さい」


「僕の方が速いです」


「ママはトロいですねぇ」


「取れないならハウスに入っちゃいますよ」


「ママはダメですねぇ」


「ボールを取るまで僕はここに居座ります」
疲れたママは戦線離脱をしました。


二匹で遊べない犬たちが、「ママ、遊んでよ」と呼んでいます。

西條奈加 『わかれ縁』2020/03/18



浮気と借金を繰り返すろくでなしの亭主、富次郎に愛想を尽かし、別れようと決心して家から飛び出した絵乃はたまたま出会った椋郎に拾われ、公事宿の『狸穴屋』で手代見習いとして働くことになります。
『狸穴屋』は離縁の調停を得意とする公事宿で、女将の桐は七度も離縁をしているつわもの、椋郎は桐の下で働く手代でした。
公事屋に離縁を頼むと十両必要ですが、絵乃にはそんなお金は払えません。
そのため絵乃は初仕事として自分の離縁を成すことになります。
実は絵乃は幼い頃、母に捨てられ、自分も母に似ているのではという思いがありました。
色々な夫婦のあり方に関わっていくうちに手代として成長していく絵乃でしたが、自分を捨てた母を思案橋で見かけ、椋郎の助けを借りて母のことを調べることにします。

離縁は亭主の側からしかできないなんて、本当に理不尽なことです。
縁切寺があったようですが、遠いとそう簡単に行けないか。
女は男の従属物という考え方が強い時代だったので仕方がないのでしょうけどね。
最後がホッとできたのでよかったです。
これから絵乃がどう成長していくのか、椋郎とどうなるのか、続きを書いてくれるのかしら?
この話の前に是非とも神楽坂日記シリーズの方の新刊を書いてもらいたいのですけどね(笑)。



このお方、ボールを離さず、ママに怒られてしまいました。
ボールで遊ぶのが一番で、おやつは二番。
チュールを見せられてもボールは離さず、お兄ちゃんがチュールを全部食べてしまいました。

石川智健 『本と踊れば恋をする』2020/03/19



東京の二子玉川に住んでいる十屋龍之介はアルバイトが禁止の高校に通っていたので、父親の遺した蔵書が高く売れたことをきっかけに「セドリ」になりました。
「セドリ」とは古本屋にある本の中から高く売れそうな本を見極めて買い、他の人に売って儲ける人のことです。
ある日、多摩川沿いを歩いていると「古書有」という立て看板がありました。
行ってみると海外にある洒落た古書店のような店があり、入って本を見ていると、洋服に羽織をまとった不思議な格好をした店主、朝香裕也に万引きを疑われてしまいます。
朝香は「贋作本」を作るのが趣味の人で、古書店は開店休業中でした。
たまたまやって来たニ代目ビブリオディック(古書探偵)の吟子のおかげで疑いは晴れましたが、盗まれたのは彼の「贋作本」で、盗まれた本を探し出すと彼の店の本の中から好きな本をやると言われます。
店に高く売れる本があるのに気づいていた龍之介は吟子と一緒に偽作本探しをすることになります。

本探しのミステリだと思ったら、途中から十屋家の秘密が暴かれたり、龍之介君の初恋(?)話だったりで、贋作本は見つけられずに終わりました。
次から贋作本の捜査活動が始まるのでしょうかね。

本の中からいい言葉を見つけました。
エリオットの言葉。
「本は生きていることを実感させてくれる。しかも、わたしたちはもちろん、永遠に生き続けたりはしないんだが、もしかしたら永遠に生きられそうな、そんな気にまでさせてくれる」

朝香の言葉。
「人には、小説にしか逃げ場がなくなるときがやってくる。そうなったら、その状態から目を背けるな。必死に読め。それこそ死ぬ気で。そうすればきっと、本が心を解してくれるはずだ」

本の題名はここからですか。
「本を読むということは、本と踊ること」

これからどう展開していくのか、気になる本です。

今のような時に本の中に逃避するのもよさそうです。
本の中ならどこにでも行けるし、何でもできますものね。

米澤穂信 『巴里マカロンの謎』2020/03/20

米澤さんの本では『満願』とか『王のサーカス』とかの方が好きですが、一応この小市民シリーズも読んでいたので読んでみました。
11年ぶりの新刊だとか。


高校生の小鳩君と小佐内さんは中学校時代に何でも推理したがる性格で苦い目にあっていたため、小市民を目指すべく互恵関係を結んでいました。
今日もスイーツ好きの小佐内さんに誘われ小鳩君はマカロンを食べに新しくオープンしたお店に行きます。
彼らの行く所に謎が現れる。
何故か小佐内さんのお皿には3種類乗っているはずのマカロンが4種類のっていました。
一体誰が置いたのか。
お店の人に聞けばいいのに、彼らはそれをせず、自分たちの力で謎を解こうとします。(「巴里マカロンの謎」)

小佐内さんと小鳩君はマカロン事件で出会ったパティシエの娘に誘われ、中学校の文化祭に行きます。
娘のクラスでニューヨークチーズケーキを出すのだとか。
ところが二人の行く所に事件が起こるのが鉄則。
小佐内さんが中学生に拉致され・・・。(「紐育チーズケーキの謎」)

小鳩君が新聞部にアンケートを届けに行くと、何やら雰囲気がおかしいのです。
どうしたのかと聞くと、友人の堂島から謎解きを頼まれます。
ドイツ風揚げパンの中に1つだけマスタードを入れ、その1つに当たった人が記事を書くことにしていたのに、誰もマスタードが入っていたと言わないというのです。
誰が一体嘘を言っているのか。(「伯林揚げパンの謎」)

また例の中学生が小佐内さんと小鳩君を呼び出します。
今度は行ってもいないパーティで飲酒をしていたということで停学をくらったというのです。
一緒にいたという子たちはみんな彼女がいなかったと言っているのに何故なのか。
二人は無実を証明するために奔走します。(「花府シュークリームの謎」)

小市民になりたいというわりに色々な事件に自分たちから巻き込まれに行っているような小佐内さんと小鳩君です。
二人の性格からして小市民になるのは無理そうですねぇ。
一緒に行動しても全く何もないという二人。
これからも付き合うなんてことはなさそうですね。
どちらかに恋人ができたら互恵関係も終わりかな。
私としてはかわいい高校生はいいから次の太刀洗さんの活躍を読みたいです。

早朝の花見2020/03/21

人混みを避けるべく、朝早くに桜を見に行くことにしました。
6時に行くぞと言っていたのですが、結局、7時出発となりました。
電車には乗りたくないので、歩いて行ける所です。


まだ三分咲き?五分咲き?それでも桜はいいです。


ポツポツと人が歩いていたり、ジョギングしていたり、犬連れがいたりします。


日の良く当たる木は7分咲きぐらいになっていました。
朝は苦手なので、毎日散歩はできませんが、家にばかりいるより外に出るのも健康にいいですね。

散歩と言いながら、途中でやっていたのが、マスク探しです。
コンビニがあると中に入り、「マスクありますか」と夫が聞いて回っていました。
ラッキーなことに5軒のうち1軒でありました。
お兄さんが着いたばかりの荷物をわざわざ見てくれて、2つしかなかったのを売ってくれました。

西友にも寄ってみました。
イオンの方が流通の面でしっかりしているのでしょうか?
棚にはトイレットペーパーはひとつもありません。
びっくりしたのが近所のドラッグストア。
8時過ぎに前を通りがかったのですが、人が10人ぐらい並んでいます。
開くのが10時ですよ。
一番前には白髪の老女、その後は若い人が並んでいます。
若い人たちは平日並べないので、頑張って並んでいるのかとも思いましたが、おばあさんは・・・。
こんなに並んでいれば、トイレットペーパーは買えないわと納得しました。

久しぶりに一万歩ぐらい歩いたので、ちょっと疲れましたが、気分転換にはなりました。
まだまだ続きそうですが、気持ちを緩めることなく暮らしていきたいです・・・とは思うのですが、ニュースを見ると外出する人が多くて感染が拡大しないかと心配です。
東京は大丈夫なのか・・・?

マライア・フレデリクス 『レディーズ・メイドと悩める花嫁』2020/03/22



タイタニック号が沈没した1912年。
世間はタイタニック号の話題で持ちきり。
ベンチリー家でレディーズ・メイドをしているジェインは、長女のルイーズが結婚することになり、結婚式の準備で忙しくしていた。
ルイーズはひっそりと結婚式を挙げたかったのに、お相手のウィリアム・タイラーの母親が盛大な式を挙げたがり、ロング・アイランドにあるウィリアムのおじ、チャールズ・タイラーの屋敷で結婚式を行うことになる。

ジェインとルイーズ、そしてベンチリー婦人は屋敷で結婚式が無事に行えるかを調べ、タイラー家の人たちと知り合いになるためにロング・アイランドへと向う。
ところが両家の母親たちは式のことで意見が合わず、花嫁衣装をつきとめようとしてゴシップ紙の記者がやってきたりと、ルイーズが不安になることばかり起きてしまう。
その上、悪いことにチャールズ・タイラーの子どものナニーをしていたソフィアが殺されてしまう。
ルイーズは婚約解消を言い出す。
無事に結婚式を挙げさせるために、ジェインは新聞記者のマイケル・ビーハンの助けを借りながら、殺人事件を調べ始めるが…。

女性の職場が限られ、参政権も与えられなかった時代に、レディーズ・メイドをやりながら自分の道を歩んでいこうというジェインの姿がいいです。
彼女ほどの頭があれば、今の時代ではそうとういい仕事に就けたでしょうに。
女性の参政権運動も起こっていて、ジェインたちがデモ行進に参加する様子が描かれています。
ちなみにアメリカで女性が参政権を獲得するのが1919年です。
ジェーンはこれからどういう風に生きていくのでしょうね。
娘が出てきたので、結婚はするようですが。

三巻目の"A Death of an American Beauty"が4月に発売されるようです。

小原周子 『病院でちゃんとやってよ』2020/03/23



急性期病棟から送られてくる患者を引き受けるリハビリテーション病棟で働いている大八木新菜は、今日も身勝手な患者家族に困っています。
何故か看護師長から毎回当てられるのがとんでもない患者とその家族。
親の現実を見ようとはせず、リハビリをすれば回復する、いえ、前以上によくなるはずと思い込んでいる家族に納得させるのは大変です。
仲が良く、仕事のできる理学療法士とたまに飲んで愚痴るのと毎日のエアロビがストレス解消。
ところがそんな新菜のところに母親がやってきて居座ることになります。
家に帰るように言うと、なんと父とは離婚して、今や父は別の女と暮らしているのだとか。
一人暮らしを満喫していたのに・・・と思っていたら、とんでもないことが起こります。
母が倒れたのです。仕事は続けたいのに、どうすればいいのか・・・。
今まで人ごとだったのが、自分の身に。

まだまだ親は大丈夫と思って心配していない方、読んでみてください。
いつか来る道ですから。
その時、このなかに出てくる家族のように振る舞ってしまう可能性がありますよ。
思ってもみないことが起こると、人間どうしたらいいのかわからず、自己中になりがちですよね。

最後が悲しいですね。
頑張る新菜にハッピーエンドが欲しかったわ。