サマンサ・ラーセン 『公爵家の図書係の正体』2024/10/09

「英国貴族の本棚」シリーズの第一作目。


1784年、40歳になるティファニー・ウッダールはロンドン近郊の村に異母兄のユライアと一緒に住んでいる。
ユライアは薄給の教会区の牧師補をしていたが、半年ほどまえからボーフォート公爵家本宅、アストウェル・パレスで図書係の仕事をしている。
その仕事には兄妹が住むコテッジが用意されていた。

ある日、兄が朝食におりてこなかった。
呼びに行くと、兄は自分の嘔吐物にまみれて部屋の中で死んでいた。
ティファニーは兄が死んだことよりも、はじめてわが家だと感じられたコテッジを失うことが悲しかった。
ティファニーは兄にとって体の良い使用人だった。
父が死んだ時に兄はほんの少しの財産を相続し、贅沢品にそのお金を使ってしまった。
ティファニーにはユライアの葬儀をし、埋葬するためのお金さえないのだ。
このままでは路頭に迷う。

ふとティファニーは思った。
自分は兄とおなじぐらいの背格好だ。
顔立ちはユライアにそっくりで、顔の輪郭は卵形で、薄青の瞳にふっくらした口唇をしている。
学生時代に兄になりすましたら、両親は気づかなかった。
自分がユライアになったらどうだろうか。
ティファニーは屋敷に兄は具合が悪いので休むと告げに行き、暗くなってから、兄をポッキリヤナギの下に埋めた。

次の日からティファニーは兄のふりをしてアストウェル・パレスに通い始めるが、思いもかけないことが起る。
シャーリー牧師からの求婚、屋敷での物の紛失、不可解なメイドの死…。

医師によるとメイドは毒殺されたという。
ユライアがメイドと同じような死に方をしているのに気づいたはティファニーは、自分自身とユライアのために犯人を探すことを決意する。

1780年代はフランスのマリー・アントワネットがヴェルサイユ宮殿で華やかな生活を謳歌していたころで、イギリスも同じようなものだったようです。
貴族の人たちの服装は華やかではありますが、今と比べると大分窮屈だったようです。
でも、服装以上に窮屈だったのは、女性たちの暮らしです。
彼女たちの意思は尊重されず、多くの行動が制限されていて、読んでいくにつれて、ティファニーの苦労が偲ばれ、兄のふりをしたことは仕方がないことだと思いました。

そういえば牧師がなんともキモい、俗物として描かれていますが、当時の牧師はそういう人が多かったのでしょうかねww。

「著者の覚え書き」と「読書会での質問集」は一読の価値がありますので、お話が終わったからいいわと思わずに目を通して下さいね。

作者はアメリカ人ですが、よくイギリスの貴族社会のことを調べています。
別名で歴史ロマンス小説も書いているようです。
原題は『A Novel Disguise(斬新な変装)』というようですが、久しぶりにひどい日本語の題名を見ましたわ(失礼)。
二作目の『Once Upon a Murder』は今年の2月に出版されています。
元召使いの男の死体をティファニーが見つけてしまい、彼女は第一容疑者になるようです。

イギリスの1780年代の貴族の暮らしがよく描かれているので、興味のある方は読んでみて下さい。

コメント

_ ろき ― 2024/10/10 04時47分41秒

うん…たしかにこのタイトルはなんだか…。
18世紀の女性は大変そうですよね。変装で通すのも難儀でしょうけど。

牧師さんも、次男か三男とかで神学校に送られ、ただ職業としてこなしていた人も多そうですよね。
この本、電子図書館になかったけど、そのうち入るかもしれないので、気長に待とうと思います。

_ coco ― 2024/10/10 17時13分42秒

ろきさん、この頃の男性は化粧をしていたので、なんとかごまかせたようですよ。
18世紀には女性に生まれたくないですよね。
約30年後に描かれたオースティンの小説にも変な牧師が出てきましたよね。ア、牧師になった人もいたか。この時代には牧師って簡単になれるものなのですね。
歴史をちゃんと学んでいないので、おかしなことを書いていたら教えて下さいね。イギリスのこの時代は日本と同じように長男以外は冷や飯食いだったのかしら?

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