中山七里 『災疫の季節』 ― 2025/08/08
コロナ渦の事件を描いた作品。
『夜がどれほど暗くても』の続編。

「週刊春潮」の副編集長の志賀倫成は、部数を伸ばすために、人の不安と助平衛根性につけこみ、ワクチン接種の不安を煽るような記事を掲載していることに後ろめたさを感じていた。
反ワクチン団体に悩まされているくぬぎ病院で勤務医をしている高校時代の悪友、伊達充彦にもカルト教団のパンフレットに成り下がったのかと非難される。
そんな頃に反ワクチンを主張する阿神儀会がくぬぎ病院でワクチン接種を妨害しようとした時に、会の代表・阿川兵衛が薬品保管庫で筋弛緩剤を打たれて窒息死しているのが見つかる。
警視庁捜査一課桐生班が出動する。
容疑者は現場にいた70数名。
防犯カメラは襲撃メンバーにより止められており、不詳の下足痕や不詳毛髪が山ほどある。
コロナ渦以降病院業務のシフトはメチャクチャで、事件当時、自分がどこにいたのか他人に証言してもらうのは難しい。
捜査員の葛城公彦の脳裏に前途多難という文字が浮かんでいた。
志賀は自身の事件で出会った葛城から有益な捜査情報を引き出し、それを基に独自の取材を始め、阿川兵衛の生まれも育ちも東京都内で東大理三を経て医師免許を取得というプロフィールが嘘であったことがわかる。
阿川は茨城県久慈群大子町生まれの高卒で、母親が霊感商法で借金をしていたため、土地建物を売却したが、隣近所にも借金をしまくっていたため町を出ざるおえず、その後、両親は離婚し、彼は父親と暮らしていたという。
阿川はカルト教団に復讐する手段として、自らカルト教団のリーダーとなり、世間を撹乱しようとしたのか。
阿川が死んでからすぐに阿神儀会に新しいリーダーが現れる。
阿神儀会は独立した団体ではなくて、もっと大きな組織の一部なのか?
そして犯人は病院関係者なのか?
志賀の中で伊達への疑惑が芽生える。
コロナ渦のことを思い出しました。
医療関係者の方々には感謝しかありません。
本の中で伊達医師は言っています。
「問題なのは終息の時期や終わり方ではない」、「学ぶことだ。自分の言動を省みて、役に立ったことと立たなかったこと、失敗したことと成功したこと、後悔したこととしなかったこと。そういうのを忘れずにいれば、次に似たような災いが降りかかっても慌てずに済む」
果たして私たちは学んだのでしょうか。
次の災いの時に同じような間違いを犯さないでしょうか。
気になった言葉があります。
「所詮、出版社にとって思想など商品でしかない」
コロナ渦で暇を持て余している時にあることが気になり、それがネットや新聞などでどう扱われているか注目して見ていました。
そうすると、偏向的なことが書かれていたり、あったことを公にしないようにしていたりすることがありました。
マスコミは真実を報道するという使命があると思いますが、そんなことを考えているのは少数なのかもしれないですね。
ミステリとして読むと、な~んだってなっちゃいます。
この頃、最後の数ページで犯人を明かすことが増えて来ているような。
社会問題を扱うのは手慣れているのですから、無理にミステリにしようと思わなくてもいいような気がします。
新刊が8月と9月に出るようで、出版社が許してくれないのかもしれませんが、じっくりと時間をかけていいものを書いて欲しいです。
コメント
_ ろき ― 2025/08/10 05時15分52秒
_ coco ― 2025/08/10 06時44分02秒
自己規制するかもしれないけど、注意すべきは世論操作ですね。ネット情報をそのまま信じてしまうのも考えものです。気をつけないと。
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マスコミも商売だから売れないと困るし、面倒なことにはなりたくない(から自主規制)というのもわかりますが。
少数派の方たちに、がんばってもらいたい。
コロナ禍で、学んだのかなあ。喉元過ぎれば…の面もありますね。