「コンパートメントNo.6」を観る2025/08/10

フィンランド人監督ユホ・クオスマネンが同国の作家ロサ・リクソムの小説
『HYTTI NRO6』を基にして制作した映画で、2021年カンヌ国際映画祭のグランプリ作品です。
小説は今年7月にみすず書房から刊行されています。


1990年代のモスクワ。
フィンランド人のラウラはモスクワの大学で学んでいる留学生で、大学教授の恋人イリーナと暮らしている。
しかし、他の人たちにはイリーナのフィンランドの友だちだと紹介されているので、ただの同居人と思われている。
一緒にムルマンスクまでペトログリフ(岩面彫刻)を見に行くはずだったが、イリーナに急に仕事が入り、ラウラは一人で行くことになる。

モスクワ発ムルマンスク行きの寝台列車6号コンパートメントに乗り合わせたのは、ロシア人労働者リョーハ。
リョーハは乗ってきた早々からウォッカを飲み、タバコを吸い、食い散らかし、ラウラに侮蔑的な言葉をかけ、しつこく絡んでくる。
ラウラはしばらく食堂で時間を潰すが、閉めると言われてコンパートメントに戻ると、酔っぱらったリョーハが話しかけてくる。
「こんにちは」と「さようなら」がフィンランド語で何と言うのか聞いてきたので、「Hei」と「Hei hei」だと教えてやると、馬鹿みたいだと笑う。
「愛している」は何て言うのかと言うので、当てつけに「Haista vittu」だと嘘を教えてやる。
列車で買春しているのかと聞いてきたので、ラウラの我慢も限界になり、車掌に別のコンパートメントに変えてくれと言うが、我慢するように言われる。
他の車両を見に行くが、どこにも空きがない。
しばらく時間を潰してから戻ると、リョーハは酔いつぶれて寝ていた。

サンクトペテルブルクに着いても、男は寝ている。
ラウラは列車から下り、モスクワ行きの列車の時刻を聞き、イリーナに電話をするが、イリーナに「もう帰ってくるつもりなの」と笑われ、帰ると言えなくなる。

列車に戻ると、コンパートメントに男の子と赤ちゃんを抱いた女がいる。
赤ちゃんが泣き出し、ラウラがコンパートメントントを出ていくと、リョーハが跡を追ってくる。
食堂で別々のテーブルに座り、二人は話をする。
リョーハはムルマンスクの鉱山で働らくらしい。

列車はペトロザボーツクに一晩停車する。
リョーハは老婦人に会いに行くので、一緒に来ないかとラウラを誘うが、ラウラは断る。
公衆電話でイリーナに電話をしていると、男がやって来て、さっさと出ろと因縁をつけられる。
そこにリョーハが車でやって来て助けてくれる。
結局、ラウラはリョーハの車に乗り、老婦人に会いに行くことになる。

次の日、ラウラは間違えた車両に乗り困っていたフィンランド人男性を自分のコンパートメントンに招く。
リョーハは口を聞かなくなる。
やがてフィンランド人男性は列車を下りていく。
彼がいなくなった後にラウラは思い出がつまったビデオカメラが盗まれたことに気づく。
泣きながらラウラはリョーハにイリーナとのことを話す。
二人はいい雰囲気になるが、リョーハはそれ以上の関係になるのを嫌がり、ムルマンスクの住所も教えてくれない。

ムルマンスクに着いた時に、リョーハはいなくなっていた。

ラウラはペトログリフを見に行こうとするが、冬は道が通行止めになっていて行けないことがわかる。
困ったラウラは採掘場に行き・・・。


フィンランドとロシア、映画に出てくる町がわかる地図を載せておきます。
赤い点付近が最終地のムルマンスクです。
何日かかったのでしょうね。今だと車で20時間、列車で一日半ぐらいで着くようです。

今年の7月から本格的にフィンランド語を学び始めました。
どれぐらいフィンランド語が聞き取れるかと調べるために見たのですが、ロシアが舞台ですから、ロシア語が99%の映画でしたww。
聞き取れたのは、「Hei」ぐらいで、「Haista vittu」は全くわかりませんでした。
これはフィンランド語の悪態、罵り言葉で「くそくらえ、くそったれ、くたばれ」という意味なんですって。
ちなみに「vittu」は女性器を指すスラングで、人気がある悪態言葉だそうです。
(参考:「ネイティブがよく使うフィンランド語の悪態、罵り言葉5選」の中の動画がおすすめですw)

1990年代のロシアとフィンランドの関係はどうだったのでしょうね。
歴史に疎い私なのでわかりませんが、1991年にソ連崩壊が起こっています。
フィンランドはロシア領になったこともあるし、どちらかと言えばロシアの方が上という意識があったのではないかと思いますが、どうでしょう。

リョーハが最初と最後でまったく違う印象になります。
列車に乗った時には何か嫌なことがあったので、飲んで紛らわしていたのでしょうか。しらふになった時の彼はいい面構えをしています。


リョーハ役はロシア人俳優、ユーリー・ボリソフ。
ラウラのために力を貸す彼は素敵でしたが、二人の道はもう交わることはないのでしょうね。
ラウラにとって新しい一歩を踏み出すための旅になったようです。

この映画で一番心に残ったのが、老婦人の言葉です。

「女性は内なる自分を持っている、とても賢い生き物。心の声に従って生きるの」

彼女は15才で心の声を聞き、それを信じて、それ以来43年も幸せに暮らしているそうです。
あら、58歳?もっと年寄りに見えるけど、ロシア人女性は老けてる?
ラウラはどんな心の声を聞いたのかしら。

北極圏を走るボロい車がいつ走れなくなるのか、すごく心配になりました。


期待していたペトログリフがよく見られなかったのが残念でした。
冬はどう考えても雪やら氷で埋もれてよく見えないでしょうに、何故そんな頃に行こうと思ったのでしょうね。
そうそう、その前に、寝台車は男女いっしょなんて、絶対に嫌です。
そう言えば何年か前の日本もそうだったと思い出しましたわ。

アメリカ映画みたいに派手な演出はない、見る人を選ぶ映画ですが、ロシアの風景が心に残るいい映画でした。
こんな旅はしたくないですけどねwww。
本は図書館に予約しているので、読むのが楽しみです。

「コンパートメントNo.6」劇場予告