堤未果 『ルポ 貧困大国アメリカ』2010/04/27

マイケル・ムーアのドキュメンタリー映画でわかっているつもりでしたが、アメリカの貧困層の悲惨さは、思った以上でした。

 
<第一章 貧困が生み出す肥満>
2005年8月、ハリケーン・カトリーナによる高潮、強風、大雨によりルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、フロリダの各州が壊滅的な被害を受けました。
ルイジアナ州ニューオリンズでは堤防が決壊し、市の80%が水没したそうです。
この時の様子がテレビで映し出された時、人々は黒人と肥満児の多さに驚いたそうです。

ルイジアナ州では2人に1人がフードスタンプ受給者です。
フードスタンプとは、低所得者に支給される食料費補助のための金券です。
無収入で四人家族に月額518ドル、一日の食事に1人1ドル40セント支給されます。(本文による)
しかし、受給者のほとんどの家に調理器具がなかったり、キッチンがなかったりするので、買うものは簡単に調理できるインスタント食品やジャンクフードだといいます。こういうものを食べていると、太りますよね。

学校では貧困児童のために無料ー割引給食制度があります。しかし、予算が少ないため、人件費を削り、調理に手間がかからないメニューになっています。ようするに栄養価よりも、安価で高カロリー、調理が簡単なものを出しています。
日本の給食の方がいいようです。
 
アメリカ国内で「飢餓状態」を経験した人口、つまり「飢餓人口」は2005年に全人口の12%だったそうです。
アメリカでですよ。なんか変じゃないですか。日本で「飢餓人口」はどれぐらいなんでしょうね。
この「飢餓人口」の6割は母子家庭。子供のいる家族はいない家族の2倍。
ヒスパニックかアフリカ系アメリカ人が多く、収入が貧困ライン以下だそうです。
国際肥満協会」は2010年までにアメリカの国内児童の半数以上が肥満児になるであろうと予測していますが、2010年現在、どうなんでしょうね。

<第2章 民営化による国内難民と自由化による経済難民>
ニューオリンズの堤防の決壊は人災であったと言われています。
ブッシュ政権下、災害対策の重要な要素を含む公共事業を民営化するようになったためだそうです。
民営化するとどんな弊害があるかというと、責任の所在が曖昧になるのです。
結局、ニューオリンズでは復興が遅れ、難民になってしまった人がたくさんいたそうです。

<第3章 一度の病気で貧困層に転落する人々>
ムーアの『シッコ』が描いた世界です。
例えば、腰を悪くし、病院で治療を受け、会社の医療保険を使いました。
よくなったから復職しようとしたら、会社から拒否され、結局仕事が見つかりません。
無保険者になるか、支払い能力を超えた医療費を払い続け、貯金を使い果たし、メディケイド受給者になるのか、残された道は二つに一つです。
病気で病院に行き、必要な検査や治療をしようとすると、保険会社から拒否されました。
保険が使えない治療を受けると高額な請求書が来ました。払えずにいると・・・。

そういえばテレビドラマの『ER』で、「この治療をすると○○ドルかかります」と治療をする前に何度も言っていましたね。病院はお金がもらえないと困るからですか。
そのため患者は医者にできるだけかからないようにし、市販薬とビタミン剤でなんとかしようとしています。(儲かるのは誰?) 
一方、株式会社化する病院が増えています。利益を追求するため、いのちやサービスの質は二の次になります。
病院では経費削減のために人員削減が始まり、看護師の業務が増加し、医療ミスが多発。
恐ろしいですね。

「医療従事者が圧迫され、患者と共に犠牲になっている最大の原因が、製薬、保険会社の支配する市場原理主義システムである」

日本に生まれてよかったとつくづく思います。

<第4章 出口をふさがれる若者たち>
アメリカでは、軍のリクルートが盛んだといいます。
高校が生徒のリストを軍に渡しているのだそうです。
プライバシーはどうなっているのでしょう?
軍はそのリストから、貧しく将来の見通しが暗い生徒のリストを作り、リクルートしているのだそうです。それも嘘八百をならべて。
嘘の例①大学の学費を出してやる。
学費を受ける前に前金の納付が義務付けられているそうです。
ちなみに費用は1200ドル(本による)一体どれだけの人が払えるんでしょう!
嘘の例②「医療保険」が家族全員対象。
退役軍人省の予算削減のため、実際に診察を受けようとすると、一年先になるそうです。
嘘の例③学費ローンの返済免除プログラムがあるけれど、年間4000ドルほどなので、長期間の拘束期間があり、緊急時の呼び出しに応じる義務があります。
頑張ってローンを組んで大学に行っても、暗い未来が待っています。
大学に行っても、それに見合う職につけないのです。
それなのに、ローンが残り・・・。

アメリカの軍のすごさを感じたのが、オンラインゲームです。
その名も「アメリカズ・アーミー」。
リアルかつスピード感あふれるハイレベルなゲームだそうで、子供を洗脳しようという手ですか。よく考えています。
 
<第5章 世界中のワーキングプアが支える「民営化された戦争」
アメリカの貧しい若者が、軍に行かざるえない状況に追い込まれていくのと同様に、大人も結局は貧困から戦争請負会社の派遣社員として戦争を支えることになります。
職がない人に派遣会社はトラック運転手にならないかともちかけます。なんと場所はイラク。
背に腹はかえられぬ。信条なんかは横に置き、お金のためにイラクに行きます。
ある人はイラクで放射能を浴び、白血病になり、帰国後医療費で稼いだお金は消え、イラク前よりひどい貧困状態になります。
ある人はクウェートのトラック運転手募集に応募したはずなのに、イラクに連れて行かれ、働かされます。
トラック運転手になるはずが、別の労働をさせられます。
今やイラクでは基地建設から兵士の食事、健康管理まですべて民営企業に外注しています。その上、兵士も傭兵に発注されているそうです。
ちなみに、彼らは民間人なので、戦死者にはなりません。

「もはや徴兵制など必要ない。政府は格差を拡大する政策を次々に打ち出さすだけでいいのです。経済的に追いつめられた国民は黙っていてもイデオロギーのためではなく生活苦から戦争に行ってくれますから」
 
「戦争ビジネスにより大企業は潤い、政府の中枢にいる人間を資金的にバックアップしています」

一体我々はどうしたらいいのでしょう。
「何よりもそれら大企業を支えているのが、実は今まで自分たちが何の疑問も持たずに続けてきた消費至上ライフスタイルだったという認識と責任意識」を持つことだそうです。
それにしても、これが本当だとしたら、アメリカで生きていくことは大変ですねぇ。
日本でもワーキングプアとか、格差社会とかいう言葉がこの頃よく聞かれます。
アメリカ社会のようにならないようにしていかなければなりません。
でも、この頃の政治家たちは何を考えているんだか、心配です。

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