ブレンダン・スロウカム 『バイオリン狂騒曲』2025/01/16



レイ・マクミリアンはシャーロットにある自宅でバイオリンケースを開けた。
ケースの中にあったのは、白い片方のバスケットシューズと脅迫状。
バイオリンはどこだ?
チャイコフスキー・コンクールまで一ヶ月もないというのに。

盗まれたバイオリンはレイの奴隷だった曾祖父が音楽好きの主人からもらったもので、ノラおばあちゃんが屋根裏にしまっておいたのをレイがもらった。
大学四年の時、そのバイオリンがストラディヴァリウスであることがわかった。
バイオリンに価値があることがわかると、今までレイがバイオリンを弾くことに反対し、バイオリンに見向きもしなかった母親や親戚が、そのバイオリンは自分たちのものであると言い出す。
奴隷の所有者であったマークス家は、バイオリンの所有権を主張し、バイオリンを返すように言ってくる。
バイオリンはレイがノラおばあちゃんからもらったもので、レイ以外の誰のものでもないというのに。

バイオリンを盗んだのは誰なのか?
母や親戚か。それともマークス家か。
レイはチャイコフスキー・コンクールのための練習を続けながら、バイオリンの行方を捜す。

レイは黒人バイオリニストです。
バイオリンを弾くことが大好きで、才能もあるのに、母親は無関心で、バイオリンなんか止めて仕事について金を稼いでこいという人だったため、誰にも師事せず、独学で学んだのです。
たまたま運よくオーケストラのオーディションでジャニス・スティーヴンズ博士に出会い、マーカム大学で全額支給の音楽奨学金をもらえることになります。
そして、様々な差別や偏見を乗り越え、チャイコフスキー・コンクールに出場しようとしていたのです。

レイがバイオリンを弾く描写がとてもよいなと思っていたら、著者のスロウカムはレイと同じ黒人バイオリニストだそうです。
あとがきに、実際に人種差別や不当な扱い、偏見と闘ってきたことと、今も無意識の差別に出くわすことがあると書いています。
本の中に書いてあったことは実際に彼に起ったことなのですね。
レイの物語をきっかけに、どんな人でも「やりたいと思うことをやるようになってほしい」、まわりの人たちも「やりたいことをやるようにうながして」欲しいそうです。

「ひとりでは、ぼくたちは孤独なバイオリン、さびしいフルート、暗いなかで歌うトランペットです。
みんなが集まれば、オーケストラになれるんです」(あとがきより)

ミステリとしては犯人が容易に推測できちゃいますが、アメリカの人種差別やバイオリンの所有権問題、バイオリストの暮らし、チャイコフスキー・コンクールの様子など興味深く読めました。
人種差別問題に興味のある方や音楽好きにお勧めの本です。