知念実希人 『祈りのカルテ 再会のセラピー』2022/09/15

祈りのカルテ』の続編。


諏訪野良太は純正医大付属病院での研修後、循環器内科医になりました。
学会の後、医学生時代の同級生で親友の小鳥遊と彼の後輩で女性研修医の鴻ノ池と飲んでいる時に、鴻ノ池に諏訪野が研修医の時に関わった患者の面白い経験を求められ、話し始めます。

「救急夜噺」
二年目の研修医・諏訪野良太は救急救命部で研修を行っていました。
そこに救急部の『常連』、広瀬秀太が現れます。彼はかなり進行したがんを患っており、純正医大付属病院で治療を受けているので、他の病人のように、軽く診察して帰宅させられません。
今回は何事もなく、反対に広瀬から心配される諏訪野でした。

その日、救急部は大忙し。朝一番に『お得意様』の末期の膵臓がん患者が最上階の特別病棟に入ることになり、暴れる急性覚醒剤中毒の疑いのある男が制服警官に連れてこられ、新橋の路上で倒れていた男が搬送され…。
路上で倒れていた男は去年深夜に救急車を呼び、『入院させろ』とごねた男でした。痙攣発作を起こしたので、薬物中毒を疑い、尿検査をしますが、検査の後に意識消失を起こします。
原因がわからないので、朝まで経過を見ていくというと、男は安堵したようです。
何故彼は入院にこだわるのか?不審に思う諏訪野。
諏訪野は経過観察室に飴玉が落ちているのを見つけ、あることに気づきます。

「割れた鏡」
諏訪野は形成外科での二ヶ月の研修をスタートしました。
指導医の三上翔馬の外来見学をしていると、女優の月村空良が芸能事務所の社長と共にやって来ます。
月村はこれまでに大きな美容整形手術を7回行っており、今回はあご辺りのフェイスラインを細くしたいと言います。これ以上の手術は危険だということで、紹介されてきたのです。
三上は月村は重度の醜形恐怖症で、断ると技術的に劣った外科医の手術を受けて酷い結果になるか、自殺をするかもしれないと、手術を引き受けます。
そんな中、諏訪野は病院にやって来た月村空良の双子の妹、海未と偶然出会い、二人の因縁話を聞くことになります。

「二十五年目の再会」
諏訪野の二年間の初期臨床研修の最後は暖和ケア科です。
諏訪野はホスピスに入院している一人の患者の担当となります。
その患者と色々な話をするうちに、彼には25年間会っていない子どもがいることがわかります。
子どもと会わせたいと思う諏訪野でしたが、患者は自分は犯罪者だからと言って会おうとはしません。
しつこく話をするうちに、患者はそれは冤罪で、彼は強盗などしていないと告白します。
諏訪野は彼のために、事件を調べ始めます。

最後のエピソードはお涙頂戴なのでしょうが、泣けませんでした。
だってすぐにわかっちゃうんですもの。

医学の目的が「人の病気を治し、命を救うこと」と言った諏訪野に、暖和ケア科の指導医がこう言います。

「医学は…『永く、そして、より良い生涯を送れるようにする』ための学問だね」
「人生は有限だ。その間、どれだけ充実した時間を送り、そして未練なく最期のときを迎えられるか。その手伝いこそが医学の本質だと私は考えている」

こういう風に考えると、高齢患者に対する認識も変わるのではないでしょうか。
ホワイトルーキーズ』で悩んでいた朝倉君(たぶん)にこの言葉を捧げたいです、笑。

キスマイの玉森主演でドラマ化されるようです。
知念作品のファンの方は他のシリーズの登場人物が出てくるので、嬉しいでしょうね。
サラッと読める本ですので、お暇な時にどうぞ。

中山七里 『人面島』2022/09/16

人面瘡探偵』の続編。


<古畑相続鑑定>に勤める相続鑑定士・三津木六兵は長崎にある島、仁銘島、通称「人面島」で、村長の鴇川行平が死亡したため、土地家屋の鑑定をすることになる。
仁銘島は今も隠れキリシタンが住む島で、平戸藩の財宝が埋蔵されているという伝説がある。

鴇川家には複雑な事情がある。
行平と亡くなった前妻華江の間に長男匠太郎がおり、その妻須磨子との間に公一郎がいる。
後妻の深雪との間に次男の範次郎がおり、亡くなった範次郎の妻由梨との間に雛乃がいる。
長男と次男の間には大っぴらにできない出来事があり、二人は反目し合っていた。
おまけに前妻の父は精神的に島に君臨している神社の宮司、法蔵地で、後妻の父は村の主要産業である漁業を統べる漁業組合長、佐倉だった。
今や行平がいたため押さえ込まれていた鬱憤やら憎悪、怨嗟が顕在化し、誰が行平の後釜として村長になって島の権力を握るかで、一触即発の状況になっていた。

そんななか、宮司の代替わりで継承の儀が行われる。
法蔵地は次の宮司として匠太郎を指名していた。
儀式の最中に、悲劇が起る。
密室となった祈祷所で、匠太郎が死んでいたのだ。
六兵は人面瘡のジンさんの助けを借り、真相を探ろうとするが、次なる殺人が…。

おどろおどろしい孤島で次々と起る殺人事件で、口の悪い人面瘡の推理が冴えます。でも犯人が簡単にわかっちゃうし、横溝正史には負けてるしで、ちょっと残念。
主人公が「とんでもなく変」な六兵だからかな、笑。


<今週のおやつ>


かわいいピンクの箱の中身は…。


カフェタナカのビスキュイ・ガナッシュキャラメルです。
キャラメルだからか、噛むとネチッとします。
チョコレートが苦手だといいながら、食べてますww。

ヘニング・マンケル 『イタリアン・シューズ』2022/09/18

ヘニング・マンケルは刑事ヴァランダー・シリーズを書いたスウェーデンの推理小説家です。
この本は彼が書いた普通の小説で、こういう作品も書くのだとちょっと驚きました。
マンケルは2015年に67歳でお亡くなりになっています。


フレドリック・ヴェリーンは離れ小島に住む元医師。
経済的に不自由のない六十六歳の男。
十五歳の時にウェイターをしている父に何になりたいかと聞かれ、医者になることにした。
しかし十二年前、医療事故を起こしてしまい、彼は医師を辞め、祖父が住んでいたこの島に引きこもった。
島にいるのは彼と犬と猫と蟻塚…。

島にやってくるのは郵便配達員のヤンソンだけ。
十二年前にダイレクトメールだけなら寄らなくてもいいと言ったにもかかわらず、ヤンソンは郵便物がなくても、午後二時にやって来る。

ある日、四十年も前に捨てた女、ハリエット・フーンフェルトが現れる。
アメリカへ出発する日を一日遅く告げ、別れの言葉も言わずに彼は消えたのだ。
ハリエットは病で余命幾ばくもなく、約束を果たして欲しいと言う。
正真正銘唯一の美しい約束を…。

フレドリックとハリエットは湖に向けて出発する。

湖の帰りに、ハリエットは遠回りをして、彼女の娘のルイースに会って欲しいと頼んだ。
トレーラーハウスから出てきた娘に、ハリエットは…。

島に帰ってきたフレドリックは、彼が医師を辞めたきっかけになった娘、アグネス・クラーストルムを訪ねようと思う。
アグネスは身寄りのない三人の少女たちをあずかり、小さな施設を運営していた。

ハリエットが島に来てから、彼の生活は少しずつ変化していく。
やがてアグネスの施設にいたシマという少女がやって来て、そしてハリエットがルイースと共に最期の日々を過ごしに来る…。

フレドリックはとんでもなく、嫌な男です。
人の話を盗み聞きし、人の手紙をこっそり読み、人のハンドバッグの中を調べたりするという悪い癖があります。
責任を取らずに逃げてばかりいるし、状況によっては嘘をつくし、自意識過剰でエゴイスト。島で一人でいると、傷つかなくてもいいしね。
でもそんな彼に過去が否応もなく追いついてきました。
人は死ぬ前に自分の人生の清算をさせられるものなのでしょうか。

本の中の印象的な言葉。

「人生は人と靴の関係のようなものだ(中略)いつか足に合うようになるなどと思ってはいけない。足に合わない靴は合わないのだ。それが現実なのだ」

スウェーデンの美しい景色と男の孤独が身に染みる小説です。
続編もあるようで、英語版で『After the Fire』が出版されているので、読んでみようかと思いますが、フレドリックのような男は懲りなさそうです、笑。

M・W・クレイヴン 『キュレーターの殺人』2022/09/20

ワシントン・ポー・シリーズの三作目。


クリスマスが心底嫌いなワシントン・ポーは、クリスマス・イブの日、友人でもあり同僚でもあるマチルダ・”ティリー”・ブラッドショーに、直属の上司であるステファニー・フリンのベビーシャワーに連れてこられていた。
そこに呼び出しが…。

クリスマス・イブの日、カーライルのジョン・ブル運輸の管理事務所で、シークレットサンタのプレゼントのマグカップから指が二本出てきた。マグカップの側面には”#BSC6"と書かれていた。

クリスマス当日、聖ルカ教会で、洗礼盤の中央に切断された指が二本置かれていた。賛美歌ボードにA4サイズの紙が一枚はさんであり、紙には”#BSC6"の文字が書かれていた。

ボクシングデーには、ホワイトヘイヴンにある<フィスキンズ・フード・ホール>のデリカテッセンのカウンターの真ん中に二本の指が置かれていた。”#BSC6"と書かれたA4の紙がプラスチックの値札に折り込まれており、店の防犯カメラに殺人犯の姿が写っていた。

ポーは検死をエステル・ドイルに依頼する。
エステルによると指は三人の被害者、女性二人と男子一人、から切断されたもので、二本の指のうち一本は生前に、別の一本は死後に切断されていて、それぞれ切断方法が異なるという。

犯人は三つの犯行現場すべてにもぐり込んでいた。
三人の被害者の遺体が次々と見つかり、身元が明らかになっていくが、三人に共通することはなかなか見つからない。
しかし、一人の被害者の自宅付近の現場検証をしているときに、ポーはひらめく。新しい手がかりが得られたと思われたが…。

ポーの推理が冴えますが、一つ解けたかと思うと、次と、息つく暇もないくらいに謎が次々と出てきます。
そして最後に明かされる真実が恐ろしかったです。
気色の悪いことが出てきますので、そういうのが嫌いな人は読まない方がいいかも。
ポーとティリーのコンビは安定してきました。
ティリーのすっとぼけたような常識のなさがなくなってきて、普通の人になってきつつあります。

本の中に出てくるオンラインのチャレンジ型殺人ゲームというのが気になりました。2015年頃ロシアで、2017年頃にはアメリカで流行したようです。
日本ではそれほどマスコミでは取り上げられていなかったようですが、実際はどうなのでしょうね。

ワシントン・ポー・シリーズは後二冊、『Dead Ground』と『The Botanist』が出版されているようで、翻訳が待たれます。
オススメのシリーズですので、まだ読んでいない方は一作目の『ストーンサークルの殺人』から読んでみてください。

アンソニー・ホロヴィッツ 『殺しへのライン』2022/09/21

<ホーソーン&ホロヴィッツ>シリーズ第三弾。


わたしことアンソニー・ホロヴィッツが書いた探偵ダニエル・ホーソーン物の第二弾『メインテーマは殺人』の販売戦略の打ち合わせが行われ、ホーソーンも呼ばれた。
そこで新しくチャンネル諸島のオルダニー島で行われる文芸フェスにホーソーン共々参加することになる。

打ち合わせの六週間後、わたしとホーソーンはオルダニー島へ向かった。
フェスに参加する作家たちは不健康な料理が売りのシェフ、目の見えない霊能者、戦争史家、児童文学作家、フランスの朗読詩人、そしてホーソーンとわたし。
みんな一癖も二癖もありそうで、親しくなれない感じ。
ホーソーンは上機嫌で、わたしは彼が何か企んでいるにちがいないと思うぐらいだった。

オルダニー島は第二次世界大戦中、ナチスに占領されていた。
犯罪発生率は低く、これまで一件の殺人も起きていない。
現在はNAB計画、すなわちノルマンディ=オルダニー=ブリテン送電線計画で揉めているという。

フェスの一日目は戦争史家の講演と懇談会、二日目はフランス朗読詩人と霊能者、わたしとホーソーンのトークショー、夜にはフェスの後援者でオンライン・カジノのCEOチャールズ・ル・メジュラーの家≪眺望邸≫でパーティが行われた。
そして三日目の朝、わたしはホーソーンに起こされる。殺人が起ったというのだ。
殺されたのはル・メジュラー。

ガーンジー代官管轄区警察からトロード本部長補佐とジェーン・ウィットロック特別巡査がやって来る。
ホーソーンは顧問として警察とは別に捜査していくことになる。

やがて次の殺人が…。

可哀想なことに、ホロヴィッツはホーソーンになかなか信用されません。
ホームズとワトソンやポアロとヘイスティングズなら、二人の結びつきは強いのに、このシリーズではホーソーンはホロヴィッツをほぼ無視し、いつも彼は蚊帳の外に置かれています。
トークショーでは自分を語ったというのに、ホロヴィッツには絶対に教えないのは何故かしら。ホーソーンはコミュ障か。
シリーズが進むうちに、ホーソーンの過去が徐々に暴かれていき、二人は少しは親しくなるのかな?

今回はとっても読みやすかったのに、伏線に気づかずスルーしてしまったようです。
ホロヴィッツの気持ちに寄り添ってしまい、目をつけるところを間違えてしまったのよね。
私は探偵にはなれないわぁ、笑。

ロバート・ソログッド 『マーロー殺人クラブ』2022/09/22

単行本なのですが、本格的ミステリーではなく、コージーミステリーなので、お間違えなく。


77歳のジュディス・ポッツは、ロンドン郊外のマーローで大おばから相続した古い邸宅に暮らしている。
おばから株も引継ぎ、全国紙に掲載されるクロスワード・パズルを作り、一週間に二つか三つ提出しながら、誰にも束縛されない、悠々自適の生活を送っている。
自分では自分のことをマーローの住人に知られていないと思っているが、彼女のことをみんな知っている。

ある夜、いつものように裸でテムズ川で泳いでいると、隣人のステファン・ダンウッディの家のあたりから叫び声が聞こえた。
川から呼びかけたが、彼女の言葉は銃声に遮られた。
急いで家に帰り、警察に電話をするが、やって来た警察官はろくに調べもせずに帰って行った。

翌朝、マリク巡査部長から電話が来たが、何も心配はないと言う。
納得のいかなかったジュディスは昨夜どこから銃声がしたのかを調べてみた。
するとステファン・ダンウッディの遺体を見つけてしまう。
警察はステファンが殺されたと考えようとはしないようだ。
そこでジュディスは決心した。自分で彼の殺害事件について捜査しようと。

それから次々と殺人事件が起る。
ジュディスは聞きこみ先の司祭の妻ベックスとドッグ・ウォーカーのスージーと仲良くなり、彼女たちを殺人事件の調査に引き込んでいく。
なかなか事件解決の糸口を探せないマリク巡査部長は、ジュディスたちを警察の民間アドバイザーにする。

さて、三人の女性たちは事件を解決できるのか…。

出てくる女性たちは個性的な面々です。
司祭の妻のベックスは「デニム・レギンスとジレを着た完璧な主婦」。
ドッグ・ウォーカーのスージーは「ロング・ジョン・シルヴァーと共に航海に出そうな様子で歩く、がっしりした体格の女性」。
ジュディスは「背よりも横幅のほうが目立つ、いつものように濃い灰色のケープをまとった、変わり物の貴族風の女性」。
そしてマリク巡査部長は、「全力をつくしたい、いい警官に、いい妻に、いい母親であり娘になりたい」と思う謹厳実直な女性。
四人は自覚していませんでしたが、女であること、妻であること、娘であることを強いられることに飽き飽きしており、日常生活に満たされない思いを抱いていました。しかし今回の殺人事件をきっかけに、はっちゃけてしまい、もう後には戻れなくなってしまいます、笑。
殺人事件って麻薬のようなものなのかしら?

二作目「Death Comes to Marlow」が来年1月に発売されるようです。
結婚式前夜のパーティで密室殺人が起り、ジュディスはまたまた警察は頼りにならないと捜査に乗り出すようです。
懲りないおばあさんたちのようですww。

トリミングの日2022/09/23

トリミングに行くので、久しぶりに二匹とママパパで出かけました。


もう秋ですねぇ。曼珠沙華が咲いています。

弟犬はいっしょが嬉しいのか、あっちこっちに行き、挙動不審です。
兄犬はいつもはしないのに、ママが来るまでパパを止めたり、振り向いてママを見たりします。
水飲みのために立ち止まり、写真を撮ろうとすると、兄がちゃんとカメラの方を見るではないですか。なんと笑っています。


夏の間は二匹とママパパで歩くことがなかったものね。
犬たちもいっしょがいいんですねぇ、笑。


いつものポーズですが、二匹がいっしょに写真に収まります。
なんか弟の方が疲れた顔をしてますね。
耳がライオンのタテガミみたいです。


弟は舌を出した方が可愛いですね。


何故か耳毛が乱れました。
兄はおやつが欲しいので、じっとおやつを見つめています。

今回はトリマーさんがいつもと違う方だったので、顔の切り方がちょっと違いました。
横楕円形ではなく、縦楕円形という感じです。

二匹共に3.5㎏でした。
もうちょっと軽い方がいいかな?
弟は気温の変化に敏感なのか、ちょっと〇んちが緩かったです。
兄は他の犬の吠え声に反応して、吠えまくって、抱いてるママはちょっと困りました。
家では滅多に吠えないのに…。

そろそろ涼しくなるので、お昼のお散歩が出来るので、ママは嬉しいです。

江戸時代のお菓子屋シリーズ2022/09/24



中島久枝 『菊花ひらく 日本橋牡丹堂 菓子ばなし<10>』
鎌倉の旅籠屋の娘、小萩は春に日本橋牡丹堂の菓子職人の伊佐と祝言をあげてから、季節は秋になりました。
小萩庵には次々とお客がやってきます。
反射式のぞき眼鏡のお披露目会のための菓子や過ぎさったことを思い出に変えるための十五夜のお菓子、重陽の節句に菊好きが集まる宴で出す菓子、占い師から用意するように言われた亥の子餅などを頼まれます。
ちょうどその頃、曙のれん会では天敵勝代が関係する面倒事が起っていました。
そして店の跡取り息子、幹太は芸妓千波と逢瀬を重ねていましたが…。

菊を楽しむとはどういうことか、それぞれの幸せとはなどと色々と考えさせられました。

知野みさき 『深川二幸堂 菓子たより』
「深川二幸堂 菓子こよみ」シリーズに続くお話です。
「すくすくー小太郎-」
光太郎とお葉の間に子が生まれます。お葉の連れ子の小太郎は指南所で心ないことを言われ、お葉は光太郎と小太郎を進造のもとへ行かせることにします。
「睡蓮ー八郎ー」
八郎は菓子屋・よいちで蓮と言う女と出会います。蓮はどういうつもりかわかりませんが、八郎に会いに二幸堂まで来て、次に八郎がよいちに帰る日に合わせて王子に行くとまで言います。蓮の腹づもりは…?
「千両箱ー暁音-」
いつまでも埒が明かない玄太と汀の関係をどうにかできないかと暁音は相談され、一計を案じます。
「伯仲ー孝次郎ー」
網代屋の菓子番付が出ました。菓子好きの七は番付に合点がいかず、網代屋に番付を書いた鷲兵衛に会わせろと頼み込みますが、けんもほろろに断られました。
鷲兵衛の番付も今年で二十年。お年を召されて、舌が利かなくなったのではないかと思わないこともなく、とにかく食べてもらわないと始まらないと考え、菓子くらべをすることにします。

七のお菓子に対する執念にはびっくりです。
和菓子が無性に食べたくなるお話です。

中島久枝 『浜風屋菓子話 日乃出が走る<一>』
十六歳の日乃出は御三家、大名家のご用も務める大店、元老舗菓子司橘屋の一人娘だった。
しかし明治維新で半年、一年とまとめていただくはずのお代は帳消しになり、ご用立てしたお金は戻らず、さらに主人の仁兵衛が白河の関で客死したため、店を閉めることになる。
日乃出は叔父が日本橋で営む千鳥屋に引き取られる。
日乃出はひいおじいさんが越後の寺の住職からもらった掛け軸のことが気になって仕方がなかった。掛け軸には「菓子は人を支える」という意味の言葉が書かれていて、橘屋の魂のようなものなのだ。
日乃出は夜中に掛け軸を取りに店に行くが見つかってしまう。
その翌日、橘屋を買った谷善次郎の屋敷に呼ばれ、日乃出は谷と言い合いをしてしまう。
おもしろがった谷は日乃出に百日の間に百両をつくれたら掛け軸をやるという勝負を持ちかける。
日乃出は後先も考えずに、父の仁兵衛しか作り方を知らない幻の菓子、薄紅で百両を作ると言ってしまう。

日乃出は松弥という腕のいい職人がいるという横浜の浜風屋に送り込まれるが、なんと松弥は死んでいない上に日乃出は下働きということになっていた。
店は草ぼうぼうの路地にあり、古くて小さく、滅多に客は来ない。
さらに店にいたのは仁王様のような浜岡勝次と女形のような角田純也の二人で、彼らの作る大福はこんなにまずい大福をつくれるものかと思うほどだった。
これでどうやって百両を作れというのだ。

日乃出はなんとか二人の男たちを味方にし、百両目指して孤軍奮闘、試行錯誤し頑張るが…。

お嬢様だった日乃出がなんでお菓子を作れるのか、不思議でした。見ていただけで作れるほど簡単なものじゃないと思うのですけどね。
それに不味い大福を作る職人が短期間で上手になるものか?
あ、江戸時代といいながら、明治時代が紛れ込んでますね、すみません。
明治時代と言えば文明開化ですから、西洋菓子が入ってきています。
シリーズになっているようですが、どういう風に続いて行くのかしら?

人情物を読みたい方は日本橋牡丹堂か深川二幸堂シリーズを、根性物を読みたい方は浜風屋菓子話を、どうぞ。
日本茶に練りきりか栗のお菓子を食べながら読みたいですね。

「刑事ヴァランダー シーズン1」を観る2022/09/25

ヘニング・マンケルの刑事ヴァランダー・シリーズ一作目の『殺人者の顔』を読んでから気になっていたシリーズを、2008年からBBCが放映していたというので観てみました。
主演はケネス・ブラナー。さえない中年姿に驚きました。
でもさすがシェイクスピア俳優。演技は上手いです。

一話が約一時間半もあり、最初は飽きるんじゃないかと心配でしたが、面白くて引き込まれていき、長く感じませんでした。
撮影はスウェーデンでしたらしいです。


<シーズン1>
第一話:「目くらましの道」
クルト・ヴァランダーは妻と別居中。お互いに新しいお相手が出来たら離婚することになっている。たまに娘のリンダと会うが、なんとなく気まづい雰囲気。
父親は画家で、認知症が発症している。新しい彼女と暮らしている。
父とは仲がよくなく、会うのを避けているのをリンダによくなじられている。
仕事がすべてという一人暮らしの生活は滅茶苦茶で、荒んだ様子がうかがえる。

ある夏の日、クルトは電話で呼ばれ、ひまわり畑に行く。
そこには一人の少女がいて、クルトが「警察だ」と言ったとたんに、焼身自殺をする。目の前で燃える少女を見て、ショックを受けるクルト。
追い打ちをかけるように、次の殺人事件に呼び出される。
元法務大臣が斧で頭を殴られ死亡し、頭皮の一部が切り取られていた。
彼のまわりをうろついていた記者によると、彼は売春婦に暴力を振るったが、カネで片を付けていたという。文化人を気取って芸術品にも手を出し、裕福な蒐集家と交流を持っていたそうだ。

次の殺人が起る。被害者は画商で、同じ凶器で、同じ傷、同じように頭皮が切られていた。
妻と娘に話を訊くが、娘は何故か警察に反感を持っているようだった…。

第二話:「混沌の引き金」
16歳と18歳の少女がタクシードライバーに暴力を振るったとして逮捕される。
金銭目的だと年上の少女ソニアが自供したが、わずかな額だった。
何か隠していると思うクルト。
そんな頃、広場のATMの前で死んでいる男が見つかる。心臓発作と思われたが、健康診断では20歳の心臓と言われたという。

タクシードライバーが亡くなり、ソニアを尋問しに行くと、彼女は留置所から脱走していた。
父親からヨーナスというボーイフレンドのことを聞き、クルトは会いに行く。

妻に新しい相手ができたと知ったクルトを心配して、リンダは勝手にお見合いサイトにクルトを登録する。そうすると、早速返信が来たという。
写真を見て、その気になるクルト。

ATMの男の元妻に話を訊くと、心臓発作ではないと言い切る。
彼は第三世界のアフリカを救うために力を注いできた。
前に進むために真実を知りたいと言う。

ソニアの行方は依然としてわからず、ヨーナスがいなくなる。

第三話:「友の足跡」
クルトとカッレ・スヴェートベリは港で密輸犯の車を探している。クルトはそんな仕事にあきあきして、帰ろうとすると、飲みに誘われる。
クルトがカッレに休日のことを聞くと、彼は私生活と仕事と切り替えるのが難しい時があると答える。
クタクタに疲れていたクルトはカッレを置いて家に帰る。

次の日、署に夏至祭の前日から娘が行方不明だと訴えている母親がやって来る。
友だちと三人でピクニックに行き、その2、3日後にヨーロッパを旅すると書いた絵葉書が届いたという。
前にもカッレが母親から話を聞いていたようだ。
クルトに何か言いたそうなカッレだったが、クルトは気にせず、仕事を続ける。

その夜、娘が来て、クルトは彼女の文字が行方不明になっている娘の字と似ていることに気づく。
クルトは他の友だちの親からも話を聞くことにする。
同僚のアン=ブリットがカッレに電話してもずっと留守電になっていると言ってくる。
心配になったクルトはマグナスと共にカッレの家に行く。
カッレは頭を撃たれて死んでいた。

クルトはカッレが何かを打ち明けたそうにしていたのを思い出す。
近親者と話すと、彼がクルトのことをよく話していたという。
クルトは自分がカッレの私生活のことを何も知らなかったことに気づいて忸怩たる思いをする。
彼の部屋に行き、家宅捜索をすると、絵の裏に女の写真が隠されており、机の中に行方不明になった娘たちの写真があった。
いとこと会うと、カッレにルイーズという別れた彼女がいたと教えてくれる。

そんな中、行方不明になっていた三人の男女の遺体が見つかる。


アメリカや日本の刑事って二人組で行動するのですが、クルトはいつも一人で行動していますね。いいんでしょうか。
スウェーデンではあまり凶悪な殺人事件がないからでしょうか。
そうそう、スウェーデンは銃社会ではないと思っていたら、スウェーデンだけではなくノルウェーやフィンランドでも銃の所持が認められており、銃の保有率が高いんですって。
そのわりにアメリカのように銃の乱射事件などが起らないのは何故でしょうね。
でも銃器による殺人は少なくても、銃による自殺率が高いそうです。

気になったのはスウェーデンの若者たち。
福祉国家だから幸せかと思っていたら、病んでますねぇ。

第三話でクルトは日頃の不摂生がたたって糖尿病発症。
困ったおっさんですwww。
人気者らしい、マグナス・マーティソン役のトム・ヒドルストン君はぼやくといつもクルトに遮られて、かわいそうでした、笑。
むさいケネスよりも彼にもっと活躍して欲しかったわぁ。
車のVOLVO、欲しくなりました。

荒涼としたスウェーデンの風景と一人駆けずりまわる崩壊寸前のおっさんがマッチしたドラマでした。
「ボッシュ」も好きですが、このシリーズもお気に入りになりました。
続けて観ていきますわ。

「刑事ヴァランダー シーズン2」を観る2022/09/27



BBCのヴァランダー・シリーズは理由はわかりませんが、本の出版順ではありませんのであしからず。

<シーズン2>
第一話:「殺人者の顔」
  本では第一作目です。
農家の老夫婦が何者かにより襲われ、通報でクルト・ヴァランダーたちが駆けつける。
夫は亡くなっており、妻は瀕死の状態で、クルトに何かを告げようとしていた。
クルトはfで始まる語を言おうとしていたと思うが、「農民」か「外国人」か他の語か確信が持てなかった。しかしどこからか「外国人」ということが漏れてしまう。

その頃、娘のリンダがシリア人の医師とつき合い始め、とまどうクルト。
一方、老人ホームに入ったクルトの父はホームから逃げ出す。
家に帰りたいと言うので家に帰すと、理性を失い、狂ったように家の物を燃やしていく。

第二話:「笑う男」
公務で容疑者を殺してしまったクルトは、自責の念に苛まれ、休暇を取って浜辺のゲストハウスで過ごしていた。
そこに古い友人である弁護士のステンがやって来る。
彼の父親が交通事故で亡くなったが、その死に不審なところがあるので、クルトに捜査して欲しいと頼みに来たのだ。
ロックされているはずの車の鍵が床に落ちていたのだという。
断るクルトだったが、ホテルの女主人は彼に家に帰ってその問題を解決してこいと言って追い出す。(彼女とクルトの関係は…?)
家に帰ると電気は通っていないし、電話も繋がらず、携帯さえ使えなくなっていた。公衆電話からステンに電話するが、留守電だった。
署に行くと、ステンの秘書がいて、ステンが首を吊って亡くなった、クルトを最後の希望だと言っていたと責められる。
クルトはまず車から調査を始める。

第三話:「五番目の女」
クルトの父は老人ホームで死ぬのは嫌だと言い出す。
そのため父の望み通りに家に戻すことにする。

署に戻ると、灯油を運ぶトラックの運転手がいて、エリクソンという客の家に何度行ってもいないので、おかしいと言う。
クルトが彼といっしょにエリクソンの家に行き、調べてみると、エリクソンは落とし穴に落ち、串刺しになって死んでいた。
同じ頃、花屋の床に血痕が見つかったと連絡が入る。
花屋のオーナーは二週間半前からアフリカに行っているというが連絡がつかないらしい。


とうとうクルトの父親が亡くなってしまいました。
最期まで気持ちがすれ違ったままでした。
二人の間に何があったのか、最後までわかりませんでした。本を読むとわかるのでしょうかね。
意外と孫娘は祖父の死にきちんと向き合ったけど、息子は親の老いる姿を見たくないのか、親に会いに行かないですね。
孤独なクルトに相手を探すように言う父の気持ちを、クルトはわかったかな。

今回は移民問題や臓器売買、そしてDVと社会問題を扱っていました。
相変わらず暗いトーンで、死体もグロいわぁ。

とりあえずドラマの方を先に観てから原作を読むことにしました。


<今日の美味しいもの>


小布施堂の栗おこわです。
栗の大きいこと。200gありますが、栗が大きいので、ご飯はそれほど多くないです。