浅田次郎 『地下鉄に乗って』2006/11/16

『椿山課長の七日間』のあとがきに、この『地下鉄に乗って』がすごくいいと書いてあったので、買ってみました。

地下鉄が開通した1927年(昭和2年)からもう八十年弱が経とうとしています。
銀座線の上野~浅草間が初の路線だったそうです。
地下鉄は人々に夢を与える存在だったようです。

主人公の小沼は、戦後なりあがっていった小沼財閥の次男ですが、暴力をふるい、家庭を顧みず、 兄が死ぬきっかけをつくった父親を許せませんでした。
そのため実家の会社には入らず、しがない安物の女性下着を作って売っている会社に勤めています。
いつも地下鉄に乗り、品物を売り歩くので、地下鉄については、ほぼすべての路線を知っています。

父親が死にそうだから、会いに行ってくれと、弟に言われてから、なんの気なしに行った同窓会の帰り道。
地下鉄が止まっているので、違う路線で行こうと思い、出口から外に出たところは1964年。兄が死んだ年でした。
それから何度も、違う時代に行くようになります。
そこには兄や、憎んでいる父親が若い姿で出てくるのです。
そして、何故か恋人のみち子も同じように過去に行くようになり、いつしか兄の死の真相と、父親の過去を知っていくのです。

戦前の貧しい時代と、戦後の厳しい時代を生き抜いて来た父親は、小沼が思うほど悪い奴ではありませんでした。
一緒に時代を遡っていくにしたがい、小沼は新しい生活をしようと思い始め、妻子を捨てて一緒にくらそうとみち子に言います。
しかし、みち子は一緒に暮らせないと言います。
最後の過去への旅で、みち子は自分の危惧の念が正しかったことを知り、ある決心をし、それを実行に移すのでした。

全く悪い人が誰もいないという話です。
どんなに悪そうに思える人にも、昔があり、その昔が愛すべきものであったり、たとえ裏切られたとしても、そこに深い事情があったり…。
浅田の本は性善説に基づいているようです。

コメント

_ Loki ― 2006/11/16 22時12分44秒

読むの速いですねー。目は疲れない?
いや、悪い人っていないでしょう。
腹の底から黒い人間なんてありえないと思うよ。
地下鉄は不思議な空間ですよね。

_ CoCo ― 2006/11/17 06時47分47秒

眼科の2時間待ちの間に読んでました。
目に悪いですね。
でも、止められないのです。
こうやって読めるのも、今のうちかなって・・・。

さすが来来世であがりのLokiさん、性善説をとりますか。
私は善だと信じたいけれど、周りを見ていると・・・微妙なものがあります。
善で生まれ、環境によって変化していくのかな?

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