高任和夫 『敗者復活戦』&熊谷達也 『ゆうとりあ』2012/02/06

経済小説でも今回紹介するのは定年間近、もしくは定年後のお話です。
主人公は団塊の世代でしょうね。


なんか『敗者復活戦』という題名が嫌です。
男性にとって定年とは死活問題なのでしょうか。仕事をしていれば満足なんでしょうか。

主人公の彦坂祐介は総合商社の中間管理職。とはいっても仕事は特殊で、社員のミスや不祥事の摘発が主な仕事です。嫌だと思いつつも辞めずにやってきましたが、今度は違います。黒川常務から与えられた仕事は、彦坂と同期入社の栗田を探すというものでした。栗田は三億もの巨額の負債を残して失踪していたのです。
一体彼に何があったのでしょうか。

彦坂は東京近郊のベッドタウン、虹が丘に住んでいました。同年代のご近所仲間がいて、その中に雨宮がいます。雨宮は一年前に銀行を退職したばかり。朝から飲み始める生活をしていました。
そのうち夜に眠れなくなり、曜日の感覚がなくなり、失禁し始め、動作が思うにまかせなくなり、何もやる気がおきなくなり・・・医者に行って診断されたのは、アルコール依存症でした。
雨宮の戦いが始まります。

もう一人のご近所仲間は河合です。彼は食品問屋の部長を辞して悠々自適に暮らしています。彼のような生き方が定年後のあらまほしき姿です。
テニスをし、碁を打ち、山歩きをし、好奇心旺盛で心が柔らかな人です。
河合は三百万円を使い、船で百日間世界一周旅行に行くことにします。
旅行の後に彼が見出したことは・・・。

最後がやっぱりと思ってしまいました。



『敗者復活戦』とは違って『ゆうとりあ』は夫婦の話です。

佐竹は定年を迎え、妻と理想郷「ゆうとりあ」に移住することにします。
「ゆうとりあ」は富山県のN市の外れの石川県との県境に近いところにあり、五百坪の畑がついた家が一千万ぐらいで買えます。
蕎麦屋をやるのが夢の佐竹と野菜作りをやりたい妻との意見が一致したのです。
住んでみた「ゆうとりあ」は・・・。

一方友人の北川は定年後も働きたい人間で、起業しようと佐竹を誘いに来ます。
佐竹と北川の同期の河村はロックバンドをやって忙しいとのこと。
これまた三者三様の定年後です。

六人の人たちの定年後の生活ですが、どの生活を取っても、本人が満足していればいいんじゃないのと言いたくなります。
人生に勝ち、負けなんかないのですから。
問題なのは会社に依存していたことのような気がします。

本の中のいい言葉を載せておきましょう。
まず、『敗者復活戦』から。

「一日一快」
「生きていられることへの感謝。あるいは生かされていることへの感謝。その気持ちを持てる人間だけが、依存症から脱却できる」

『ゆうとりあ』から。

「ようするに、いいことも悪いことも、小さなことの積み重ねなのよね。そのときにはささいなことも、十年、二十年、さらに三十年と積み重なっていくうちに、気づいてみたら引き返せなくなっているわけよ。それが人生というものだわ」

私の理想の定年後は、河合さんみたいなもんですかね。
夫婦そろって地方に移住は無理なので、船旅行なんていいです。
でも、知り合いの知り合いの夫婦は船旅行に行ってから仲が悪くなったそうです。
河合さんみたいに一人で行くというのがいいのかもしれません。

とにかく年を取っても持っていたいのが好奇心と些細なことにも幸福感を見出せるやわらかな心ですね。