碧野圭 『菜の花食堂のささやかな事件簿 木曜日のカフェタイム』2022/11/20

「菜の花食堂のささやかな事件簿」シリーズの第五弾、五編の短編集です。


菜の花食堂は下河辺靖子先生がオーナー兼料理人で先生のアシスタント兼料理人の和泉香奈とホール担当の館林優希の三人でおいしい野菜料理を提供しています。
靖子先生のポリシーはふつうの家庭で出すようなメニューを、よい素材を使い、手を抜かないで作って出すことです。

「こころを繋ぐお弁当」
菜の花食堂は商工会議所の守屋さんのたってのお願いで、「駅開業三十五周年記念 駅前フェスティバル」に参加することになります。
イベントの目玉の「市内人気店参加、ワンコイン弁当」のコーナーのためにお弁当を作るのです。
乗り気になれない先生でしたが、香奈と優希が考えたお弁当は好評でした。
ところがイベント後に男性がやって来て、イベントのお弁当と同じものを平日毎日特別に作ってくれないかと頼まれます。
断るかと思ったら、先生は試しにひと月ほどやってみようと言い出します。
何か訳がありそうです。

「木曜日のカフェタイム」
料理教室の生徒で食堂の近所に住んでいる村田さんが空き巣が頻発しているので、ひょっとしたら先生の家が狙われるのではないかと心配して知らせてくれます。
どうも空き巣は下見をしているようです。
そこでランチタイムに来ていた怪しい客のことが気になる優希。

「キャラ弁と地味弁」
靖子先生は洞察力が鋭くて、いろいろな謎解きが得意です。
ある日、料理教室の生徒の岸田さんが先生に相談を持ちかけます。彼女は娘にキャラ弁を作ってあげていたのですが、先週突然、『もうキャラ弁はいらない』と言い出し、彼女はそれが気になって仕方がないそうです。
先生は娘さんの友だちのインスタを見てみるとヒントになるかもしれないとアドバイスします。

「インゲンは食べられない」
料理教室の生徒の園田さんは四十歳を前に一年発起して婚活を始め、婚活パーティで知り合った男性と結婚を前提に付き合っています。
ある日、園田さんが菜の花食堂に、ペットのチワワが窓から逃げ出したみたいなので、見かけなかったかと聞きに来ます。その日はちょうど彼が来る日でした。みんなで探しますが、犬は見つかりません。
次の日、村田さんがカフェタイムにやって来て、前日に出した粗大ゴミがなくなったのに今朝戻って来たと話します。
ちょうどその時に園田さんが迷子の犬のチラシを持って来ました。
どうも園田さんと村田さんはご近所さんらしいです。
園田さんが帰っていった後、先生は単なる勘だけどと意味深なことを言い出します。

「大根は試さない」
優希には気になる男性がいました。編集者の川島さんです。
彼が実家から送ってくる野菜を持て余していたので、優希がその野菜を使った料理を教え、ふたりで作って食べ、その後に映画に行ったりしていますが、つきあっているのかどうか、微妙です。
ある日、いつものように川嶋さんの家で料理を作っていると、ダンボールの中にリストに載っていない大根が入っていました。
ふろふき大根にして食べてみると、にがくて食べられません。
どうやったら美味しく食べられるか靖子先生に相談してみますが、川島さんがおかあさんが料理自慢で、優希と張り合うつもりなのかと思ったと言ったことを思い出し、優希は自分でどうにかしようと決心します。
なんとか料理を作り、川島さんを部屋に招くと、彼はケーキとワイン、そして白い薔薇を持って来ました。ところが彼は料理を食べた後に、ケーキを食べずにそそくさと帰ってしまいます。なにか粗相をしたのかと落ち込む優希。
ケーキは多過ぎて一人では食べられません。
そこで優希は靖子先生のところに借りたワイン・オープナーを返すついでにケーキを持って行きます。
川島さんが来ていたことを察した先生は優希にその日にあったことを最初から話してみるようにと言います。

菜の花食堂がある地域のように、ご近所さんとの関係が密だといいですね。
わたしのいるマンションは誰がいるのかわからないし、近所の人たちのことも知りません。
どちらがいいのかどうかは人それぞれでしょうけど、年を取ると近所の人となんらかのつき合いがある方がいいかもしれませんね

そうそう、お料理に関して考えされられました。
靖子先生はいつもいいことを言います。

「レシピがあると、ついそれに頼ってしまって、自分で味目をすることすら怠けてしまったりするでしょう?それよりも自分で味を工夫して(中略)自分なりの味を作っていく方が楽しいんじゃないかと思うの」

はい、わたしはレシピを参考にして作ると、味見しません。というか、最近味見って滅多にしないわ。
この頃作るのって生野菜のサラダが多いんです。とにかく野菜をたっぷり食べることを主眼にしてますから。
なんか食べることの楽しみから遠ざかっているみたいです。
ベジタリアン料理でも学んでみようかしら。

靖子先生は思慮深い気働きができる優しい人ですが、納得のいかないことにちゃんと反論する人です。

「お弁当ひとつとっても、それぞれの家でやり方は違う。やれることも違う。でも、それぞれが一生懸命なんです。それを、何もやらない部外者があれこれ批判する権利はないんですよ」

そう、弁当も作らない奴がゴチャゴチャ言うなってことですよ、笑。
こうちゃんと言える人にわたしはなりたいけど、今の世の中、へたしたら何をされるかわかりませんから、なかなか言えませんわ。

最後に優希が幸せになりそうで、嬉しいです。
このシリーズもそろそろ終わりなのかしら…。