マイケラ・マッコール 『誰でもない彼の秘密』2024/08/23



エミリーが野原に横たわって鼻の頭にハチをとまらせようとしていた時に、一人の若い男性がやって来た。
彼はエミリーを見つけ、話しかけてきた。
少し話した後に青年はエミリーのハチ狩りが成功するようにと言って去っていった。
二人は名前を名乗らず、ミス・ノーバディ、ミスター・ノーバディということになる。

別の日、父からの指示で馬のジャスパーの蹄鉄を取り替えるために鍛冶屋へ行ったエミリーはミスター・ノーバディと再会する。
彼はエミリーの父親の法律事務所に用事があるようだった。
彼に頼まれて、エミリーは月曜日に町を案内する約束をして別れる。

ミスター・ノーバディと約束した月曜日。
エミリーはミスター・ノーバディと会えるのが楽しみで仕方なかった。
だが、通いのメイドがエミリーの家の前の池で、うつ伏せになって死んでいる男を見つけたので、外に出かけられなくなる。
エミリーは死んだ男が誰なのか、好奇心を抑えきれなくて、日が暮れてから男が安置されている教会の礼拝堂の地下室に行ってみる。
その男はなんとミスター・ノーバディだった。

エミリーは思った。
ミスター・ノーバディは、エミリーの因習にとらわれない真の姿に出会い、それを気にいってくれた。
彼の名前と彼の死の真相を解明するのは、エミリーの勤めだと。

エミリーことエミリー・エリザベス・ディキンソンはこの本では十五歳の少女ですが、長じて後に有名な詩人になります。
エミリーというと、隠遁生活を送った内向的な人というイメージがあります。
ところがこの本の中のエミリーは好奇心旺盛で生命力溢れる少女です。
たった二度会っただけの男性の死の真相を探ろうと調査を始めるなんて、やり過ぎに思えますが、ひょっとしたら、子どもの頃のエミリーはこんな少女だったのかもしれませんね。
彼女の家庭は質実剛健なピューリタンだったそうで、本にも出てきますが、母親は厳しく、家事をサボることを許しませんでした。
このころ(1845年)の才能のある女性はさぞ生きずらかったでしょうね。

タイトル由来の詩を載せておきます。

I'm Nobody! Who are you?
Are you - Nobody - too?
Then there's a pair of us!
Don't tell! they'd advertise - you know!

How dreary - to be - Somebody!
How public - like a Frog -
To tell one's name - the livelong June -
To an admiring Bog!

(訳を知りたい方はこちらを参照してください)

マイケラ・マッコールは歴史上の実在人物を題材に本を書く作家だそうです。
この本はYA向きの作品で、2015年に日本で出版されています。
続編として『Always Emily』では『嵐が丘』を書いたエミリー・ブロンテを、
『The Revelation of Louisa』では『若草物語』を書いたルイザ・メイ・オルコットを、『Secrets in the Snow』では『高慢と偏見』を書いたジェーン・オースティンを主人公としているそうです。
装丁がとても可愛らしいのに、この本が売れなかったのか、続編は翻訳されていません。
わたしは女流作家たちがどんな風に描かれているのかに興味があるので、読んでみたいのですが。原作を読めと言われそうww。

コメント

_ ろき ― 2024/08/24 00時16分08秒

なるほど、エミリーの詩にインスパイアされた話で、彼女が探偵役もすると。なかなか面白い。
ジェーン・オースティンは実際に立派な探偵になりそうw
翻訳止まってしまいましたか。読者層が限られちゃいますかね。

_ coco ― 2024/08/24 13時34分09秒

ろきさん、女流作家たちが探偵役なんて、面白いと思うのですが。
今の子たちは『嵐が丘』とか読まないので、彼女たちのことを知らないのでしょうね。残念です。

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