エリー・グリフィス 『小路の奥の死』2025/11/02



このところ寒くなったので、イチョウが黄色くなっています。
いつもより早いかな?


みんなでお散歩。うれしそうな二匹です。


特にヨーキー弟がはしゃいでいます。

<刑事ハービンダー・カー>シリーズの三作目。


ハービンダー・カーは警部試験に通り、新しい仕事に応募し、ロンドン警視庁犯罪捜査課の警部となり、ウェスト・ロンドンW10のダルガーノにある殺人捜査チームを率いている。

土曜日の夜、通報がある。
マナーパーク校で同窓会が開催されている時に、ガーフィールド・ライス下院議員がトイレで亡くなっているのが見つかったという。
チームの一員のキャシー・フィッツバーバート部長刑事がマナーパーク校出身で、同窓会に出席していた。
ライスの死因はインスリン中毒で、糖尿病患者のキャシーは注射器を持っていた。

捜査していくと、ライスは”ブリーディング・ハート”と書かれた脅迫状を何通も受け取っていた。
そして、彼はマナーパーク校時代に女優のイザベル・アイスターとザ・キューブのリードシンガーのクリス・フォスター、労働党の下院議員のヘンリー・スティープ、イタリア在住の語学学校教師のアナ・ヴァンス、マナーパーク校長のソノマ・デイヴィス、そしてキャシーの七人グループ、<ザ・グループ>の一員で、21年前のディヴィッドという生徒の死亡事故の目撃者であったことがわかる。

ライスの死は21年前の事故と何か関係があるのだろうか。
やがて次の殺人が起こる。

お話の大部分が、ハービンダーの捜査と私生活以外に、キャシーとアナが語る21年前のことです。ティーンエージャーですから、恋愛のことが主です。
『そして誰もいなくなった』のように、<ザ・グループ>のメンバーが次々と殺されていくのかと期待していたのですが、期待外れでした。
誰が犯人か当てようと頑張りましたが、とんでもない人が犯人で、まったく予想外でした。
今まで読んでいたのは何のためと文句を言いたくなりました。

謎解きは不発に終わりましたが、ロンドンに出てきたハービンダーにハッピーなことが起こり、うれしかったです。

イギリスの同窓会って結構回数が多いんですね。
日本はどうなんでしょう。
同窓会に行ったことがないのでわかりませんが、イギリスほどではないでしょう。

四作目は『The Last Word』。
ハービンダーはサセックス州ショアハムで探偵事務所を営む友人(一作目に出てきたかも)から地元の作家の死に関する助言を求められるようです。
謎解きは期待できそうもないので、これからはハービンダーのロンドン生活を楽しみに読むことにします。

<シリーズの順番>
③『小路の奥の死』(本書)


<今年のアドベントカレンダー>
今年はリンツのアドベントカレンダーを買ってみました。
もう届いています。


子どもたちには別のものでもと思ったのですが、楽しみにしているようなので、カルディではなくてメリーチョコレートのにしてみました。
いろいろとあって、どれがいいのかわかりませんが。

M・W・クレイヴン 『デスチェアの殺人』2025/10/10

国家犯罪対策庁重大犯罪分析課の部長刑事、ワシントン・ポー・シリーズの六作目。


ワシントン・ポーは精神科の診察室でトラウマ療法士のドクター・ラングに彼が関わった事件について語っている。

ロンドンにいたポーとティリー・ブラッドショー、そして会計検査院から派遣されたライナス・ジョーゲンセンはカンブリア州ケズィックに赴く。
ライトニング・ツリーに石を投げつけて殺害された男の死体がくくりつけられていたという。
被害者は<ヨブの子どもたち>というカルト教団の創設メンバーのコーネリアス・グリーン。
彼の全身には十字架の図や磔刑図のタトゥーと、アルファベットと数字を組み合わせた六つのコードが刻まれていた。

事件の鍵は<ヨブの子どもたち>にあると思われた。
ポーたちが捜査を進めるうちに、おぞましい「講座」の存在が明らかになっていく・・・。

この作品が六作のうちで一番読みやすく、面白かったです。
ポーと病理学者のエステル・ドイルがくっついたと思ったら、なんと結婚する(した?)んですってよ。
嬉しいですねぇ。
ティリーとはいい相棒で友というのがいいのです。

内容的に人によっては気分が悪くなってしまうかもしれないので、気をつけて読んで下さい。
私は色々と読んでいるので耐性があり大丈夫でしたが、ペドフィリア同様に胸糞が悪いお話です。
どんでん返しがあり、やられました。

このシリーズの最新作『The Final Vow』が8月に出ているようです。
犠牲者が17人という連続殺人にポーとティリーが挑むみたいです。
日本での出版は来年の今頃でしょうね。楽しみに待ちましょう。

<シリーズの順番>
⑥『デスチェアの殺人』(本書)

Ann Cleeves 『The Raging Storm』2025/10/08

アン・クリーヴスの警部マシュー・ヴェン・シリーズ、三作目を英語で読んでみました。


激しい嵐の日、地元で有名な冒険家で船乗り、伝説の人物であるジェレミー・ロスコの遺体がスカリー・コーブ沖に停泊中のディンギーの中で見つかる。
ロスコは前触れもなくグレイストーンの町に現れ、近くに豪華なフラットを所有しているのにもかかわらず、コテージを借りていた。
そこで誰かが彼に会いに来るのを待っていたという。

バーンスタプル署のマシュー・ヴェンとジェン・ラファティ、そしてロス・メイの三人は車で約一時間ほどかかるグレイストーンにやって来た。
グレイストーンはマシューが捨てたバラム・ブレザレンのコミュニティがあるところだ。
嵐で道路が不通になったため、三人はグレイストーンにしばらく留まらなければならなくなる。

捜査をしていくと、ロスコの遺体が見つかる前夜にコテージ近くで女がタクシーを降りたことがわかる。
ロスコの過去を辿っていくと、貧しい家庭で育ち、ヨットクラブでバイトをしながら船の操縦を覚え、世界一周をやり遂げたらしい。
彼の最初の恋人で、長年愛し続けているエレノアという女がいた。
エレノアはヨットクラブの会長で大酒飲みのバーソロミュー・ローソンと結婚していた。

ロスコが待っていたのはエレノアで、謎の女は彼女なのか。
ロスコはどうやって世界一周するための船を手に入れたのか。
様々な疑問が湧き起こる。

そんな時にローソンの死体がスカリー・コープで見つかる。

捜査はイギリスのミステリらしく、小さな村の人間関係を丹念にほじくり返していくというものです。
特にマシューはそういうことを大事にする人です。
本の約90%は聞き込みで単調ですが、最後の最後に動きがあります。

聞き込みの合間に三人の思いが書かれています。
マシューは夫のジョナサンとのことをちょっと不安に思っているみたい。
ジェンはもうひとり子どもが欲しいらしく、ロスはマシューから疎んじられていると思っていているということがわかります。
ロスとマシューの関係はこれから少しはよくなるとは思いますけど。

英語は簡単なのですが聞き込みばかりなので、私は少し飽きてきて、読むのに時間がかかってしまいました。
翻訳はたぶん来年にでるでしょう。
女警部ベラの翻訳を待っていますが、出ないようですね。
11巻まで出ていますがKindle版も高くなり、読むのを躊躇してしまいます。
ドラマは14年続いて、シーズン14で終わってしまったようです。
しばらくドラマを見て楽しむことにします。

アンソニー・ホロヴィッツ 『マーブル館殺人事件』2025/09/22

<アティカス・ピュント>シリーズの三作目。


スーザン・ライランドはクレタ島でパートナーのアンドレアス・パタキスいっしょにホテル経営をしていたが、彼と別れ、イギリスに帰国した。
フリーランスの編集者として働いていたところ、≪コーストン・ブックス≫の発行人、マイケル・フリンから呼び出される。
故アラン・コンウェイの代わりにエリオット・クレイスが書き継いだ<アティカス・ピュント>シリーズの続編を編集してほしいというのだ。
エリオットは英国でもっとも成功した児童文学作家ミリアム・クレイスの孫で、書く才能がないというわけではないが、いかんせん素行が悪かった。
断りたかったが、金銭的に逼迫していたので、そうもいかない。
とりあえずスーザンはエリオットの書いた原稿を読んでみることにする。

アティカス・ピュントはベンスン医師の診療所でレディー・マーガレット・チャルフォントに再会する。
彼女は再会を喜び、相談したいことがあるから手紙を書くと言って去っていく。
その後送ってきた彼女の手紙に切羽詰まった様子が見受けられ、ピュントは助手のジェイムズ・フレイザーとともに列車でコート・ダジュールに向かう。
しかし、ピュントは間に合わず、レディ・チャルフォントは毒殺されてしまう。

途中まで読んだ原稿はエリオットの家族関係が反映されているようだった。
エリオットから不穏な話を聞き、スーザンは彼の祖母ミリアムのことを知ろうと家族や関係者から話を聞いていくと、余計な詮索はするなとミリアム・クレイス財団から脅される。

前回のことがあるというのに、スーザンは再び深みにはまっていくことに…。

ホロヴィッツに慣れたのか、三冊の中では一番読みやすくて面白かったです。
エ、真相ってそうなの…と、ちょっと物足りなく感じましたが。
前回までのあらすじを覚えていなくてもたいした問題はありませんでしたが、できれば『カササギ殺人事件』から読みましょう。
アメリカのスリルやバイオレンスたっぷりのミステリよりもこんな感じの人間ドラマのあるミステリの方が好きです。

それにしてもスーザンはお馬鹿さんですねぇ。
止めればいいのに、自分から火中に飛び込んでいくのですから。
私は何回も止めな、と声をかけましたよ。
編集者って人格に問題がある人が多いんですかね。

ニャンコが出てきたのに、スーザンが猫嫌いであまりかまわず、ニャンコが痛い目に遭って可愛いそうでした。

<シリーズの順番>
③『マーブル館殺人事件』(本書)



ピーター・トレメイン 『修道女フィデルマの慧眼 修道女フィデルマ短編集』2025/09/20

モアン王国の王女にしてドーリィ(法廷弁護人)でもある修道女フィデルマが旅先で遭遇する事件を描いた短編集。
日本で出版されているフィデルマ・シリーズの12冊目。


「祝祭日の死体」
フィデルマはモアン王国の武人で王族でもあった聖デクランのゆかりの地をまわるという巡礼の旅に参加していた。
聖デクランの祝祭日、巡礼の最終地である礼拝堂で、フィデルマは石棺の中の聖デクランの亡骸の上に殺されたばかりの若い女性の遺体が入っているのを発見する。
遺体に違和感を覚えるフィデルマ。

「狗のかへり来たりて……」
オゴーン修道院の礼拝堂で、フィデルマはひとつの彫像に目を奪われる。それは二十年前に聖遺物箱を盗もうとした修道院の庭師タニーに殺されたシスター・ウーナをモデルにした彫像だった。
修道院の中にタニーが犯人であるとされたことに疑念を抱く者たちがいるようだ。
修道女となっていたタニーの娘から話を聞いたフィデルマは、シスター・ウーナを知っているものたちから話を聞くことにする。

「夜の黄金」
フィデルマはエイナック・カーマン、すなわちカーマン祭に開かれる女性会議に来賓として招聘された。
ダロウ修道院長であるラズローンと話していると、ラシグ族のリーガッハが飲み比べ競争に参加していたオスリガの闘士のルシーンが死んだと知らせに来る。
現場に行き、遺体を確かめると、ルシーンは毒物で殺されたことがわかる。
フィデルマはリーガッハに頼まれ、ルシーンの死の真相を調べることになる。

「撒かれた刺」
フィデルマはブレホンのトゥアマから急遽呼び出され、ドリムソーンという小村を訪れた。
十六歳のブリーンという少年が殺人および窃盗の罪で告発されており、その少年の弁護士を引き受けてほしいというのだ。
フィデルマは盗まれたという銀の十字架の行方が気になる。

「尊者の死」
尊者ゲラシウスが不自然な亡くなり方をした。
フィデルマは彼の死の真相を突き止めることになるが…。

五編の短編集ですが、残念なことに、フィデルマのよい相棒であるエイダルフが出てきていません。
短編集は日本独自にまとめたものなのですね。
短編であってもフィデルマの慧眼はいつもと同様にすばらしいです。
次回はエイダルフも出てくる長編を訳してもらいたいものです。

クリス・チブナル 『ホワイトハートの殺人』2025/09/15



幹線道路に置かれた男の死体が見つかる。
裸で椅子にくくりつけられ、下半身は古い布袋に入れられ、頭に大きな牡鹿の枝角が装着されていた。
死体はフリートコムの村にあるパブ<ホワイトハート>の店主、ジム・ティエナンだった。

リバプールからウェセックス警察に転属してきたばかりの刑事課巡査部長ニコラ・ブリッジは苛立っていた。
契約書に署名した後にわかったのだが、ウェセックス警察が三州統合警察という新しい警察署に統合されることになっていて、新庁舎の完成が遅れているので、あと二年ほど廃業になった銀行の建物に常駐しなければならない。
その上、刑事課には彼女の他にふたりの刑事しかいない。
その内のひとり、経験豊富な刑事と聞かされていたイケメンの二十代後半のハリー・ウォードは社会人雇用プログラムを通じて入署したので刑事の経験などない。
もう一人のメル・ハーディマンは痩せた陰気な禿頭の男で、どうしたら有益な人員になりうるのか。
手が足りないと上司に電話して訴えると、契約書に載っていない広報役も押し付けられる。
のんびりするどころではない。

ニコラはメルに調査を任せ、新米刑事ハリーを相棒に聞き込みを始める。
思いがけず、百年前にも鹿角を用いた連続殺人事件があったことがわかるが・・・。

最初にニコラたち以外にも村民たちが出てくるので、誰が誰だか関係性もわからず、困りました。
しばらく読む進むとわかってきたので、やっと落ち着いて読んでいけるようになりました。
イギリス・ミステリは小さな村で起こる事件を扱っているものがいいです。
読んでいくうちにだんだんと明らかになっていく村人たちの隠された過去がどう事件と繋がっていくのかが面白いんです、と言いたいところですが、私は下世話なことが好きなんで、事件よりも登場人物たちの個人的なことが楽しみで読んでいます。
この本では「ニコラと夫のマイク」や「ニコラとハリー」などの関係性がどう変化していくのかが気になります。

クリス・チブナルは脚本家で、「ブロードチャーチ」というドラマでイギリスのアカデミー賞や王立テレビ協会賞など数々の賞を取っているようです。
Amazonで4話まで見られるようなので見てみます。
この作品が作家としてのデビュー作らしく、二作目はこれからのようです。

アーナルデュル・インドリダソン 『黒い空』2025/08/05

アイスランド・ミステリ。
<犯罪捜査官エーレンデュル>シリーズの日本では八作目ですが、アイスランドでは十作目。


レイキャヴィク警察犯罪捜査官のエーレンデュルは同僚にも娘にも連絡をよこさず、行方不明のままだ。

シグルデュル・オーリは警察官になってからもっとも小さな事件とも言えない事件に関わっていた。
母親から頼まれたもので、彼女の親友が関わる事件だ。
日曜日にアパートの入り口の郵便受けに新聞紙が入っていないことがあり、誰が持ち去っているのか調べてもらいたいというものだ。

そんな頃に旧友のパトレクルと彼の義兄のヘルマンから相談される。
ヘルマン夫妻はスウィンガー・パーティ(夫婦交換パーティ)に参加していたが、セックス中の写真を撮られ、金を払わなければその写真をネットに載せると脅されているという。
ヘルマンの妻は大臣の補佐役をしている。
パトレクルはシグルデュル・オーリならどうにかできるのではないかと言う。

シグルデュル・オーリはヘルマン夫妻を脅迫しているカップルのうちのリーナという女に会いに行く。
リーナたちは脅迫には慣れていないらしいので、警察がどう対応するか、その法的な根拠を説明するだけで足りるかもしれないと思ったからだ。
しかし、呼び鈴に応じる人間はいない。
ドアは施錠されていなかったので、シグルデュル・オーリは中に入ってみる。
すると、リビングルームは荒らされており、女性が倒れていたので、近づき、かがみ込んだ、その時に、野球バットのようなものが彼の頭めがけて振り下ろされる。
なんとか逃れ、応援を頼みながら男を追うが、逃げられてしまう。

リーナは脅迫相手に殺されたのだろうか。
シグルデュル・オーリが単独で調べていくと、思わぬことが浮かび上がる。

この小説は2009年に書かれ、小説の時代は2008年。
「アイスランドの経済界が鰻登りの勢いだったころ」(あとがきより)の話です。

主人公であるエーレンデュルが未だに行方不明のままで、今回の主役はシグルデュル・オーリです。
彼は離婚したばかりで、彼と元妻と、そして彼と彼の父母との関係が多く書かれています。
彼がちょっとひねた性格になったのも頷けます。

小説の中では公の事件になっていませんが、シグルデュル・オーリが関わるものはもうひとつあります。こちらは胸糞が悪くなるものですが、最後までシグルデュル・オーリが関わってくれてよかったです。
シグルデュル・オーリの父親が言っています。

「いつも一番ひどい目に遭うのは子どもなんだ」

<シリーズの順番>
①『湿地
②『緑衣の女
③『
④『湖の男
⑤『極寒の町
⑥『
⑦『悪い男
⑧『黒い空』(本書)

九冊目(本当は十一冊目)は「Furðustrandir (Strange Shores)」。
待ちに待ったエーレンデュルが登場します。
数年前の嵐の夜に行方不明になったマチィルドゥルと幼い頃に行方不明になった弟ベギー。
この二人の失踪事件をエーレンデュルが解明していくようです。

アルネ・ダール 『円環』2025/05/28

スウェーデン・ミステリー、「Novaシリーズ」の一作目。


国家作戦局(NOD)主任警部のエヴァ・ニーマンのところに手紙が届く。
手紙は、気候変動の危機を叫ぶ一般的な抗議文に、不吉な終末論を織り交ぜながら、最近起きたふたつの事件を取り上げ、まだ起きていない爆破事件が起こることを予告していた。
ふたつの事件とは、1週間前に高速道路を走行中だった大手製鉄会社<SSAB>の部門長のBMWが爆破された事件と広告会社<フラット・ブローク>の広告マンがヴァーサ公園に吹き飛ばされた爆破事件のことだ。
<SSAB>は気候変動の加害企業で、<フラット・ブローク>は石油産業の一大広告キャンペーンを手がけていた。
エヴァは”破壊しつくされた廃墟”という手紙の中の言いまわしが気になった。
その言葉は15年前に先端技術の活用を拒否したため、誘拐事件の捜査に失敗し、警察を辞め、森で隠遁生活を送る、エヴァの元上司であるルーカス・フリセルのものだった。

エヴァが率いる捜査グループNovaが内密にこれらの事件を追うことになる。
捜査グループNovaのメンバーはエヴァの他に、ソーニャ・リド、アンニカ(アンカン)・ストルト、シャビール・サルワニ、アントン・リンドベリの四人。

ふたつの事件は気候変動を動機とするテロリスト集団による犯行なのか。
それともルーカス・フリセルによるものなのか。
予告された第三の事件はどこで起こるのか。

捜査の甲斐なく、やがて第三の事件が起こる。

アルネ・ダールと合わないのか、それとも翻訳家と合わないのか、とても読みずらかったです。
次々と爆破事件が起こりますが、なんか進み方がダルダルで、スピード感や緊迫感がなく、犯人の動機がイマイチでした。
続くみたいだけど、たぶん読まないでしょう。
珍しく、ストレスフルなミステリでした。

「プレッパー(prepper)」という言葉が出てきたのですが、「prepare」が語源で「備える人」の意です。
大災害や経済の崩壊、戦争などの緊急事態に備えて、食料を備蓄し、自給自足の生活をしたり、核シェルターを作ったりする人(「デジタル大辞泉」等参考)のことだそうです。
本の中で、ルーカスは森の中に住み、人との接触をできるだけ絶っていたようですが、プレッパーというよりもサバイバリストに近いのじゃないでしょうか。
プレッパーが一番多いのはアメリカらしいです。
土地が広いからでしょうか。
日本ではなかなか無理そうですww。

アン・クリーヴス 『沈黙』2025/05/03

イギリスの南西部デヴォン州が舞台の警部マシュー・ヴェン・シリーズの二作目。
一作目は『哀惜』なので、タイトルはこれからも漢字二字でいくみたいですね。


ウェスタコムの芸術家たちのコミューンで男性が殺されていた。
見つけたのは吹きガラス職人の娘で、作業場で父親を見つけた。
バーンスタプル署の部長刑事ジェン・ラファティは昨夜の友人のパーティで彼と話していた。
彼、ナイジェル・ヨウは元医師で現在はノース・デヴァン患者協会の所長をしていた。
ジェンに話をしたいことがあると言われたが、飲んでいたので、次の日に電話をもらうことになっていた。

マシューたちが調べていくと、死の直前までヨウが自殺をした青年のことで<国民保険サービス>を調べていたことがわかる。
青年は自殺を教唆するサイトにアクセスしていた。
殺人と何らかの繋がりがあるのか。

地道な聞き込みを進めていくが、次の殺人が起こる。

読みながら、読んだことがあるような気がしていました。
kindleで原書を買っていたので見てみると、読み終わっていました。
ブログに書くのを忘れていたようです。
ちゃんと内容がわかって読んでいたようなので、よかったですわww。
読み終わってから考えてみると、原題が『The Heron's Cry (鷺の鳴き声)』なのに日本語のタイトルは『沈黙』。内容と合っているのかしらねぇ。

このシリーズは、わたしには”シェットランド四重奏”四部作と同様に殺人事件を解くことがメインではなくて、美しいデヴォン州の風景描写とそこに暮らす人々の人生の機微を読むものです。
デヴォン州に行ってみたくなりました。

三作目の「The Raging Storm」は2023年に出版されているようで、読んでみようかどうか考え中です。

ブレンダン・スロウカム 『バイオリン狂騒曲』2025/01/16



レイ・マクミリアンはシャーロットにある自宅でバイオリンケースを開けた。
ケースの中にあったのは、白い片方のバスケットシューズと脅迫状。
バイオリンはどこだ?
チャイコフスキー・コンクールまで一ヶ月もないというのに。

盗まれたバイオリンはレイの奴隷だった曾祖父が音楽好きの主人からもらったもので、ノラおばあちゃんが屋根裏にしまっておいたのをレイがもらった。
大学四年の時、そのバイオリンがストラディヴァリウスであることがわかった。
バイオリンに価値があることがわかると、今までレイがバイオリンを弾くことに反対し、バイオリンに見向きもしなかった母親や親戚が、そのバイオリンは自分たちのものであると言い出す。
奴隷の所有者であったマークス家は、バイオリンの所有権を主張し、バイオリンを返すように言ってくる。
バイオリンはレイがノラおばあちゃんからもらったもので、レイ以外の誰のものでもないというのに。

バイオリンを盗んだのは誰なのか?
母や親戚か。それともマークス家か。
レイはチャイコフスキー・コンクールのための練習を続けながら、バイオリンの行方を捜す。

レイは黒人バイオリニストです。
バイオリンを弾くことが大好きで、才能もあるのに、母親は無関心で、バイオリンなんか止めて仕事について金を稼いでこいという人だったため、誰にも師事せず、独学で学んだのです。
たまたま運よくオーケストラのオーディションでジャニス・スティーヴンズ博士に出会い、マーカム大学で全額支給の音楽奨学金をもらえることになります。
そして、様々な差別や偏見を乗り越え、チャイコフスキー・コンクールに出場しようとしていたのです。

レイがバイオリンを弾く描写がとてもよいなと思っていたら、著者のスロウカムはレイと同じ黒人バイオリニストだそうです。
あとがきに、実際に人種差別や不当な扱い、偏見と闘ってきたことと、今も無意識の差別に出くわすことがあると書いています。
本の中に書いてあったことは実際に彼に起ったことなのですね。
レイの物語をきっかけに、どんな人でも「やりたいと思うことをやるようになってほしい」、まわりの人たちも「やりたいことをやるようにうながして」欲しいそうです。

「ひとりでは、ぼくたちは孤独なバイオリン、さびしいフルート、暗いなかで歌うトランペットです。
みんなが集まれば、オーケストラになれるんです」(あとがきより)

ミステリとしては犯人が容易に推測できちゃいますが、アメリカの人種差別やバイオリンの所有権問題、バイオリストの暮らし、チャイコフスキー・コンクールの様子など興味深く読めました。
人種差別問題に興味のある方や音楽好きにお勧めの本です。