読んだ時代医療ミステリ二冊(文庫本) ― 2024/05/26

あさのあつこ 『おもみいたします』
お梅は五歳の時に目が見えなくなったが、十七歳になった今は評判の揉み師で、予約が多く、順番は今なら早くても半年以上先になる。
彼女の側にはいつも十丸という人の目からは犬に見えるが、人ではない不思議な存在がいる。
紅葉屋という水茶屋を出しているお筆がお梅への依頼を受け、彼女の孫で八歳のお昌がスケジュールを管理している。
お梅は目が見えないが、人の気配からその人を感じ取り、その性質を見抜く。
揉み師ではあるが、人の凝りだけではなく、心の奥底に隠された闇までも探り当て、揉みほぐしていく。
今回の患者は今津屋のお内儀、お清。
お筆が焦るほどの相当な凝りだった。
お梅はお清の施術に通ううちに、思わぬ事件に巻き込まれていく。
昔、針治療に通っていましたが、長く通っていたわりにはよくなりませんでした。後から思えば、よくなると通わなくなるから、ほどほどにして通わせていたみたいです。
お梅のような揉み師がいたら、一度でいいから揉んでもらいたいと思いながら読んでいました、笑。
揉み師と患者のほんわかしたお話だと思って読みましたが違いました。
ファンタジー的な味付けをしたミステリでした。
題名がちょっと風野さん風ですねww。
十丸と鼠先生の真の姿が気になります。
このお話はシリーズになったようで、二作目の『おもみいたします 凍空と日だまりと』が六月に発売されます。
こちらを読んでからお読みください。

和田はつ子 『産医お信 なぞとき帖』
お信は共に医療に精進してきた松川善周亡き後、患者だった北町奉行所与力の田巻の勧めに従い、彼の八丁堀の役宅の敷地の一部を借り、充信堂を開いた。
お信は産婆をしていた母から産婆の手技の全てを学び、母が流行風邪で亡くなり、産婆の知識だけでは人を救えないと悟り、善周に医術の教えを乞うたのだった。
善周は目の前の患者を救うために、全身全霊を傾けており、彼の姿こそ、医者の鑑として皆が見倣うべきだとお信は確信していたが、それが多くの医者や産婆たちから敵対視されることとなった。
ある日、宮田源瑞という大物産医が不在で、急を要する容態だったため、金創医加藤家の嫁、まつ江のお産にお信は呼ばれる。
無事に出産を終えるが、数日後、宮田と彼の下で働いていた産婆のおくめが何者かに殺される。
田巻によると加藤家はお信の女としての嫉妬と宮田の患者を横取りしたくて手を下したと言い張っているという。
その上、宮田とおくめの死んだ場所にお信の櫛が落ちていたという。
お信は田巻の力を借り、自らの汚名を晴らそうとする。
江戸時代のお産や堕胎、梅毒等について詳しく書いてあります。
残酷な事柄が書かれていますが、そういう時代だったのでしょう。
今とは違い、お産は女にとって大変なことだったのです。
母親は約二割以上出産で亡くなっていたそうです。
出産後、産婆や医者の不注意で膣瘻になって生き地獄を味わう女性がいたり、鉗子で赤子を殺していたなんて、知りませんでした。
それに医者に対する蔑視があったなんて、いかに人の命が軽んじられていたのかがわかります。
お信は女ですから、楯になってくれていた男の善周がいなくなると、風当たりがより強くなり、目障りなので、潰してやれとなったのでしょうね。
田巻や後から出てくる医者の白石宗祐の助けがあり、よかったです。
最後に明かされる真実がやるせない気持ちになりました。
作風の違う二人の作家が書いた時代医療ミステリです。
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