タナ・フレンチ 『道化の館』 ― 2011/03/10

アイルランドを舞台にしたミステリーです。
『悪意の森』で刑事ロブの相棒として出てきたキャシー(カサンドラ)・マドックスが今回の主役です。
彼女はその後、殺人課から潜入捜査課へ移り、そこでレクシー(アレクサンドラ)・マディソンとなり、麻薬捜査のために潜入捜査をしました。しかし、潜入捜査は失敗。今はアイルランド警察DV対策課で働いています。
ダブリン郊外にあるグレンスキー村の廃屋でレクシー・マディソンという女性が死んでいました。
彼女は何者かに刺されており、妊娠初期でした。
彼女は「ホワイトソーン館」に同じ大学に通っている4人の友人たちと暮らしていました。
4人の友人の一人、ダニエルはグレンスキー一帯を支配してきたマーチ家の末裔で、「ホワイトソーン館」の持ち主。ジャスティンは弁護士の息子。レイフは投資銀行家の息子。アビーは孤児院育ちの女性。
5人は他の学生たちとは違う、5人の世界を形作り、その中で暮らしていました。
潜入捜査のためにでっちあげた人格のレクシーが生きていたということで、キャシーはこの事件を自分の手で解決したいと思います。
そのため、潜入捜査課時代の上司フランクが、ふたたびレクシーとなり、「ホワイトソーン館」に潜入することを提案すると、キャシーは恋人の殺人課刑事サムの反対を知りながらも、引き受けてしまったのです。
上手くレクシーを装い、「ホワイトソーン館」に潜入しますが、やがてキャシーは5人の生活に不思議なほど馴染んでいく自分を感じていきます。
本の大部分がレクシーになることを躊躇しながらも受け入れていくキャシーの心模様と、「ホワイトソーン館」でレクシーになり、だんだんと仲間と一体感を持つようになるキャシーの様子で費やされています。
5人の生活を語る場面が美しくせつないです。
人とコミュニケーションが上手く取れない人たちが仲間になり、その中で自分らしく生きていこうとする。そして、その絆をいつまでも持続させようとする。
誰でも居場所は欲しいものね。
でも、人との関係は時とともに移ろいゆくもの。
ミステリーとしてよりも、若者の自分探しの話として読むといいかもしれませんね。
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