アン・クリーヴス 『野兎を悼む春』2021/03/14

「シェットランド四重奏」第三章。
今回はシェットランド署の警部・ジミー・ペレスの部下の刑事・サンディ・ウィルソンの故郷、ウォルセイ島が舞台です。
ウォルセイ島はシェットランド本島の東側にある島です。


サンディは実家のあるウォルセイ島に帰省していました。
飲んだ帰りに、祖母のミマが一人で暮らすセッターの小農場に立ち寄ることにします。
散発的にショットガンの音が鳴り響いていましたが、シェットランド諸島ではウサギの被害が大きいので、近所に住む従兄弟のドナルド・クラウストンがウサギを狩っているのだろうと思い、気にとめませんでした。
ミマは家にはおらず、サンディは試堀現場のほうへ行ってミマを呼んでみましたが、返事がありません。
家にもどろうとしたところ、レインコートが目に入りました。
持ち帰ろうとかがみこんだところ、ミマがレインコートを着て倒れていました。

ジミー・ペレス警部は朝一番のフェリーでウォルセイ島に渡りました。
昨夜、サンディからの電話で、ウサギを撃っていたロナルドの誤射で祖母が亡くなったようだと知らされたのです。
今回は殺人事件ではなさそうなので、正式な担当者は地方検察官ということになりますが、とりあえずペレスはサンディに同行してもらい、関係者の聞き取りをすることにします。

セッターの小農場には遺跡があり、試堀調査が行われていました。
ミマは発掘を行っている大学院生のハティと彼女の助手のソフィと親しくしていました。
ハティが遺跡が中世の貿易商の家屋のものだという仮説を立て、博士号取得の研究課題にしていました。
二週間前には人間の頭蓋骨の一部が見つかり、ミマが亡くなった日には銀貨が見つかっていました。

ミマの事故に漠然とした疑惑を感じたペレスは関係者から話を聞き続けていきます。
フェリーターミナルで大学教授のポール・ベルグルンドから話を聞いた後にハティから直接会って話をしたいという電話をもらいます。
彼女に会いにキャンプ小屋に行きますが、彼女はいません。
次の日、サンディは試堀現場の溝のなかで手首を切って死んでいるハティを見つけます。
一見自殺に見えますが…。

小さな島は家族の語られなかった過去と因縁が渦巻く世界です。
「棚の中の骸骨(skeleton in the closet)」と最後にサンディが言っていますが、「過去の秘密」とか「家庭内の秘密」という意味だそうです。
多かれ少なかれ、どの家庭にも秘密はありますよね。ばらすのは親戚のおじさんとかおばさんというのが多そうですけど、笑。

ペレスは自分でも他人の生活の取るに足りないことに興味が引かれるのはどうしてだろうとか思っています。捜査に関係なくても聞きたくなり、聞いてしまうことが多々ありますね、笑。
そしてすぐに人に同情してしまいます。そのことを別れた妻に”感情の垂れ流し”と呼ばれていたと思い返したりしています。
相手の立場からものを見ることができるってなかなかできないことですが、一緒にいる妻にとってはやりきれなくなるんでしょうね。
著者はペレスのことをこう書いています。
「ペレスはちっともとろくなかった。魔法みたいに最初から的を射た質問をし、むずかしい状況のなかで手がかりをつかみ、行動すべきときを的確に判断することができた」
どんな質問をペレスがして、事件の核心に迫っていくのか、そして次々と暴かれる登場人物たちの過去と秘密を楽しむというのが、このシリーズの醍醐味でしょうね。

今回はサンディの良さが出ていました。ペレスの指導のおかげですね。
ペレスがサンディの思いやりに気づいて「おまえも大人になったな」と思うあたり、いいですね。
前回は二歳児だと言われていましたもの。一気に大人になったのね、笑。